投稿日:2022/10/31
更新日:2022/11/04
企業価値とは、社会から見た会社の経済的価値です。
M&Aで自社を売却するときには、この企業価値を基準として譲渡価格が決定します。
しかし、実際に企業価値を求める際には、数多く存在する企業価値の評価方法を組み合わせて算出する必要があります。
それらは専門的な知識が求められることから、個人で正しく評価を行うことは容易ではありません。
そこで今回は、企業価値の目安を知りたいという方のために、企業価値の簡易計算方法をまとめました。
また、企業価値を向上させる方法や、向上させることで得られるメリットなども紹介していきます。
目次
まずは、企業価値の簡易な計算方法として有名なものを3つ紹介していきます。
年買法 | 営業利益と純資産を用いて評価する方法 |
簡易買収倍率 | 買収に発生した資金を何年で回収できるか調べる方法 |
株式市価法 | 市場に公開されている株価をもとに企業価値評価を行う方法 |
年買法とは、企業の時価純資産額に、1年~5年分の営業利益を足すことで企業価値を求める評価方法です。
営業利益の倍率は、企業の将来性を加味した上で決められます。
M&Aにおける企業価値評価は、売り手企業と買い手企業が納得できる値でなければいけません。
年買法は、複雑な計算式で求められる評価方法と比較すると、直感的に理解しやすい計算方法といえるでしょう。
実際に、年買法は算出方法が容易であることから、中小企業のM&Aなどで頻繁に使われています。
また、年買法によって評価額を求める場合は、以下の流れで計算を行います。
【年買法による企業価値の計算方法】
企業価値=時価純資産額+営業利益×1~5
簡易買収倍率(EV/EBITDA倍率)とは、企業価値を意味するEVから、営業利益から減価償却費を足した値であるEBITDAを割ることで求られる評価方法です。
この評価方法では、買収によって使用した資金を何年で回収できるのかを算出することができます。
EVに対してEBITDAの比率が大きい企業であれば、買い手企業は早期に資金回収ができる可能性が高いといえるでしょう。
また、事業規模や業種によって違いはありますが、M&Aにおいては8~10倍程度が買収価格の目安になるとされています。
簡易買収倍率によって企業価値評価を行う場合は、以下の流れで進めていきます。
【簡易買収倍率による企業価値の計算方法】
EV/EBITDA倍率=(株式の時価総額+有利子負債-預貯金)÷(営業利益+減価償却費)
株式市価法とは、市場で公表されている株価をもとにして企業価値を評価する方法です。
市場を参考にして求めることから、客観性が高い評価方法ともいえるでしょう。
企業価値評価方法の中でも特に算出しやすい手法ですが、株式価格が市場に公開されている必要があるため、上場企業でなければ使用できないという特徴もあります。
株式市価法を使用する場合は、下記の流れで企業価値評価を行います。
【株式市価法による企業価値の計算方法】
企業価値=異常値を除く1~6ヶ月分の平均株価×発行済株式総数+有利子負債
企業価値の評価は、ここまで紹介してきた3つの方法以外にも数多く存在します。
大枠では「インカム・アプローチ」「コスト・アプローチ」「マーケット・アプローチ」に分けられており、それぞれ計算時の指標が異なります。
ここからは、アプローチ別の企業価値の評価方法を見ていきましょう。
インカム・アプローチとは、企業の将来性を指標として企業価値評価を行う方法です。
現状だけでは無く将来性も加味することから、適切な買収価格を算出しやすいというメリットがあります。
将来性に収益が伸びると予測されるベンチャー企業などは、インカム・アプローチで企業価値を算出した場合、高い評価額を期待できるでしょう。
また、M&Aを行う際には、経営統合によってシナジーを生み出すことを目的として実施されることがあります。
インカム・アプローチは統合後に予測される業績も計算に含まれるため、シナジー発揮が期待できる企業ほどより高い値で計算されるという強みも有しています。
インカムアプローチには、主に「DCF法」と「収益還元法」という計算方法があります。
ここからは、インカム・アプローチの計算方法を個別に紹介していきます。
DCF法 | フリーキャッシュフローなどから企業価値の評価を行う方法 |
収益還元法 | 事業計画書から将来得られる利益を予測する方法 |
DCF法とは、企業が自由に使用できる資産を意味するフリーキャッシュフロー(FCF)から、企業の将来性を推測する評価方法です。
計算方法は年買法や株式市価法よりも煩雑ですが、より詳細な算定結果を出せることができます。
論理的な内容で将来性も含めて計算できることから、企業の規模を問わず企業価値評価において頻繁に使用されています。
【DCF法による計算の流れ】
企業価値=1年目のFCF÷(1+割引率)+2年目のFCF÷(1+割引率)^2 +3年目のFCF÷(1+割引率)^3+4年目のFCF÷(1+割引率)^4+5年目のFCF÷(1+割引率)^5+残存価値÷(1+割引率)^5
収益還元法とは、将来的に生み出す収益を事業計画書から予測し企業価値を算出する評価方法です。
収益還元法は、企業が一定のペースで成長していくという過程で計算を行うので、DCF法よりも計算が容易という特徴があります。
しかし、成長速度に波があった場合は実際の価値と異なってしまうため、DCF法よりも精度が低いというデメリットも有しています。
インカム・アプローチによる企業価値を素早く求めたいときにおすすめの手法です。
【収益還元法による計算の流れ】
企業価値=年間の平均利益÷資本金還元率
コストアプローチとは、企業が持つ純資産をベースとして企業価値評価を行う方法です。
コスト・アプローチには、企業が持つ将来性が計算に含まれていないというデメリットがあります。
しかし、誰が計算しても同じ値になるため、客観性に優れているというメリットも存在します。
指標が明確なため、中小企業の企業価値評価でも納得感のある算定結果を得やすいでしょう。
また、簡易的な企業価値評価方法として有名な年買法は、将来性を加味するインカム・アプローチと純資産を基準にするコスト・アプローチを複合した計算方法です。
年買法は、将来性が加味されないというコストアプローチの欠点を補完している計算方法ともいえるでしょう。
コストアプローチによる企業価値評価方法は、主に「簿価純資産法」「時価純資産法」の2つが挙げられます。
簿価純資産法 | 帳簿に記載されている資産と負債から企業価値評価を行う方法 |
時価純資産法・修正簿価純資産法 | 資産や負債を時価に変換して評価を行う方法 |
簿価純資産法とは、帳簿に記載されている資産と負債をもとに純資産を求め、企業価値の評価を行う方法です。
株式の正確な価値がわかりにくい中小企業でも、客観性が高く容易に企業価値を算定することができます。
しかし、帳簿に記載されていない資産や負債があった場合は、正確な評価ができないため注意が必要です。
資産の時価も考慮されていないことから、算出は容易ですがM&Aにおいてあまり使用されることがない評価方法です。
【簿価純資産法による計算の流れ】
企業価値=資産額-負債額
時価純資産法とは、帳簿に記載されている資産及び負債を時価評価し、負債額を差し引くことで企業価値評価を行う方法です。
現時点での資産価値を基準にすることから、簿価純資産法よりも精度が高い算出結果を得ることができます。
しかしながら、すべての資産や負債を正確に時価換算することは容易ではありません。
実態としては、一部の項目を時価に変換せずに計算することもあります。
また、株式や土地代といった有形資産を時価換算して計算する「修正簿価純資産法」という計算方法も存在します。
修正簿価純資産法は、時価純資産法よりも修正項目が少ないため、スムーズに算出結果を得ることができます。
時価純資産法は精度が高い算出結果を得られる方法で、修正簿価純資産法は計算のしやすさを優先した方法ともいえるでしょう。
【時価純資産法・修正簿価純資産法による計算の流れ】
企業価値=時価換算した資産額-時価換算した負債額
マーケット・アプローチとは、株価や実際にあったM&Aの取引事例など、市場を基準として企業価値の評価を行う方法です。
株価といった市場環境を計算に含めることができるため、最新のトレンドを取り入れやすい計算方法といえるでしょう。
公開されている情報がもとになるので、計算を行う人物によってばらつきが生じにくく公平性の高い評価を行うこともできます。
しかし、自社と類似した企業が見つからないケースなどもあるため、必ずしもマーケット・アプローチが使用できるとは限りません。
市場環境の変動に影響を受けやすいことから、正確な企業価値を求められないことも考えられます。
他のアプローチ方法にもいえることですが、実際に使用する際には他の計算方法も取り入れて評価を行うことが重要です。
また、冒頭で紹介した株式市価法は、マーケット・アプローチによる評価方法の1つです。
ここでは、マーケット・アプローチによる評価方法である「類似企業比較法」と「類似取引比較法」について解説していきます。
類似企業比較法 | 事業内容が類似した企業を参考に企業価値を評価する方法 |
類似取引比較法 | 類似企業の取引事例をもとに評価を行う方法 |
類似企業比較法とは、上場企業の中から事業や業態などが類似したものを選定し、対象企業を参考に企業価値評価を行う方法です。
基本的には、対象企業を複数選定し平均値を取ることで評価を行います。
類似企業比較法には、算出対象となるデータが他の評価方法よりも集めやすいというメリットがあります。
しかし、類似した企業が必ずしも見つかるとは限らないため、評価自体が行えないといった可能性もあるでしょう。
類似した企業が見つからない場合は、類似の基準を変更するといった対処方法もあります。
【類似企業比較法による計算の流れ】
類似取引比較法とは、事業内容や成長性などが類似した企業のM&A事例をもとに、自社の企業価値評価を行う方法です。
M&Aによる取引事例のある企業の財務数値などをもとに、計算に使用する倍率を求めます。
M&Aによる取引事例が多い業界は、類似取引比較法による算出がしやすく有効な計算方法といえるでしょう。
反対に、取引事例が少ない業界では事例が見つかりくく、類似取引比較法による評価ができない可能性があるため注意が必要です。
【類似取引比較法による計算の流れ】
M&Aによる企業の売却を成功させるには、企業の価値を高めることが重要です。
ここからは、企業価値を向上させる方法を4つ紹介していきます。
企業価値を高めるために最も有効な手段は、自社の収益を高めることです。
収益を上げる方法は、営業力の強化や新商品の開発など、企業によって取れる選択肢は異なります。
また、競合他社と比較して、自社独自の強みを探して伸ばしていくといった方法も有効です。
自社の経営戦略などを見直して、収益を高めるための方法を探してみましょう。
自社の収益を伸ばすことは企業価値向上の有効な手段ですが、それを行うことは容易ではありません。
自社の収益を向上させたい場合、次に取れる手段として挙げられるのが、財務状況の見直しによる改善です。
事業を行う上で無駄な経費は無いかを確認して、経営コストを削減するように努めていきましょう。
基本的に、企業価値は営業利益から負債を差し引くことで求められます。
負債の額を減らすことができれば、企業価値を高めることも可能です。
自社の収益を高めたい際は、無形資産の分析及び活用といった方法もあります。
無形資産とは、目には見えない企業が持つ資産のことを指しており、ブランド力やノウハウ、技術力などが該当します。
例として、従業員の育成環境を整備することによって作業効率が上昇すれば、収益の向上を図ることができるでしょう。
風通しの良い環境をつくることができれば、優秀な人材が抜ける可能性が下がるため、結果的に企業価値向上に繋がることもあります。
目に見える資産だけではなく、無形の資産も大切にして企業価値向上に努めていきましょう。
自身が所有している資産の中に活用できない不動産などがある場合は、それらを手放すことで資産に余裕を持つことができます。
浮いた資金を新たな設備に投資することで、企業価値の向上を図ることもできるでしょう。
効率的な投資を行うためにも、自社が有している固定資産がどれほどの利益を出しているのかを調べることが大切です。
無駄になっている資金を手放すことは、効率的な投資を行うために必要な要素です。
企業価値を向上させることで、企業はさまざまな恩恵を受けることができます。
ここからは、企業価値を向上させるメリットを5つ紹介していきます。
価値が高い企業というのは、充分な収益が挙げられている企業という証明になります。
企業価値が高ければ、高い売却価格を提示していても買収を希望する企業が現れるでしょう。
交渉を行う際にも、買い手企業が買収を検討する充分な要素になります。
注意点として、企業価値は目に見える指標が全てではありませんが、数値に現れない要素は加味されにくいということもあり得ます。
無形資産を手に入れることも大切ですが、第三者から見ても判断できる要素を高めることも大切です。
企業価値を充分に高めることができれば、経営不振によって倒産するリスクを低下させることができます。
企業価値が高い企業は収益性が高いため、経営が傾く可能性も低いといえるでしょう。
また、ユーザーに対して充分なサービスを提供することもできるため、顧客離れを抑えられる可能性も高まります。
倒産リスクを抑えられる理由の1つには、金融機関からの融資を受けやすくなるという点も挙げられます。
金融機関が融資を行う際は、企業の将来性を充分に考慮した上で実施されます。
将来性が低い企業であれば、資金による援助をしても回収できる見込みが少ないため、融資を受けられないこともあるでしょう。
反対に、企業価値が高く将来性のある企業であれば、金融機関の審査を通過できる可能性も上がると考えられます。
また、金融機関による融資は、純資産や収益などを基準として判断することもあります。
それらを高めることで、審査を有利に進めることができるでしょう。
企業価値が高いことは、優良な企業であるという証明に繋がります。
優良企業の株式は人気が高いため、購入を検討する投資家も増えるでしょう。
より多くの投資家が自社の株式を購入すれば、株価も必然的に向上します。
株価が高まれば資金力の向上も図れるため、設備投資などを充分に行うこともできます。
上場企業にとって、株価の向上は大きなメリットであるといえるでしょう。
企業価値が高いことは将来性があることの証明になるため、企業自体の信頼性をより高めることができます。
信頼できる企業であれば、取引先との提携も行いやすいでしょう。
優秀な人材が集まる可能性も増えるため、人材不足を解消できるといったことも考えられます。
信頼性というものは目には見えませんが、経営を安定させるための重要な要素です。
自社の信頼性を高めて、経営基盤をより強固なものにしていくことが大切です。
企業価値評価は、冒頭で解説した「年買法」「簡易買収倍率」「株式市価法」を始め、さまざまな方法が存在します。
実際に企業価値を決める際には、それらの方法を組み合わせて評価を行います。
評価時には市場の環境や買収需要の高さなども加味する必要があるため、状況に合わせた適切な評価を行わなければいけません。
より正確な企業価値評価を行いたい場合は、M&A仲介会社などの専門家に依頼することをおすすめします。
M&A仲介会社では、企業価値の評価はもちろん、相手企業の選定から成約までを一貫してサポートしています。
また、ACコンサルティングでは、M&Aに関する相談に無料で対応しています。
企業価値評価以外にも、M&Aの進め方で不安な点があればお気軽にご相談ください。
企業価値の評価方法にはさまざまな種類があるため、すべてを適切に理解し計算することは容易ではありません。
しかしながら、簡易的な計算方法だけでも知っておくことで、企業価値向上のきっかけを掴めることもあるでしょう。
M&Aによって企業の売却・買収を行う際、提示された金額が適切であるか判断することもできます。
収益向上やM&Aによる自社の売却などを検討している方は、企業価値の評価方法を把握しておくことが大切です。