投稿日:2022/11/17
更新日:2022/11/17
アパレル業は、人の生活を根幹から支えている産業です。
近年では低価格志向やEC化などが進んでおり、動きが活発な業界といえるでしょう。
市場環境の変動が激しいアパレル業界では、M&Aによる企業の買収・売却が活発に行われています。
この記事では、アパレル会社のM&A動向、売却するメリットや流れなどを解説していきます。
目次
アパレル業界とは、衣服のデザイン・製造・販売・物流などを行っている業界です。
ECサイトでの販売や、繊維の売買を行っている企業もアパレル業界に含まれており、さまざまな業態が存在しています。
また、販売を行っている店舗の規模は、商店街で見かけるような服屋さんから、ユニクロのような大手ファッションチェーンまで幅広いことも特徴です。
ここからは、アパレル業界の現状を解説していきます。
総務省統計局が発表した「家計調査(家計収支編)」によると、被服及び履物の総世帯支出金額は、2000年以降から2021年にかけて減少しています。
特に、2019年から2020年にかけては大きく支出額が減少しており、これは新型コロナの感染による外出自粛が影響しているいえるでしょう。
衣類の支出が年々減少している理由は、主に顧客の低価格志向が進んでいることが影響していると考えられます。
一昔前までは、安物の衣類は質やデザイン性が悪いというイメージが根付いている傾向がありました。
しかし、近年ではユニクロを始めとして、低価格・高品質の製品が徐々に増えています。
シンプルながらデザイン性の高い製品を販売していることから、ファストファッションブランドの需要は高まっているといえるでしょう。
また、ファストファッションブランドが高品質・低価格の製品を提供できる理由は、SPAというビジネスモデルが影響しています。
SPAとは、衣服のデザイン・製造・販売などを一貫して行うことであり、中間業者を挟まないことから大幅なコストカットが実現できます。
ユニクロ・ZARA・H&M・GAPといった大手アパレル企業はSPAを採用しており、顧客のニーズを満たす商品を提供していることから、今後も業績を伸ばしていくことでしょう。
低価格化や新型コロナの感染拡大などによって、アパレル業界の市場規模は全盛期と比較すると縮小しています。
しかし、EC市場の規模は増加傾向にあります。
経済産業省が発表した「電子商取引実態調査」によると、2021年度における衣服に関するEC市場の規模は2兆4279億円で、EC化率は21.15%でした。
近年のアパレル業界では、店舗を持たずオンライン上での販売のみを行うビジネスモデルも普及しています。
以前まで、オンラインでの購入には、自身の体型に合う衣服が見つけにくいというデメリットがありました。
しかし、現在ではデジタル・トランスフォーメーション(DX)が進んでいることにより、顧客はオンライン上での試着が可能になっています。
DXの普及によって、顧客は実際に店舗へ向かわなくても洋服を探すことができ、企業は店舗を持たないことによって人件費などを削減できるようになりました。
上記のようなメリットがあることから、アパレル業界のEC化は今後も進んでいくことでしょう。
経済産業省が発表した「2020年確報 産業別統計表」によると、繊維工業を営んでいる企業の自称書数・従業員数は、2015年から2019年にかけて減少しています。
繊維工業の事業所数・従業員数が減少している理由は、主に輸入品の増加が影響していると考えられるでしょう。
また、近年では少子高齢化によって従業員不足・後継者不在という問題を抱えている企業が増えています。
繊維工業を事業とする企業は、上記の課題を改善していくことが今後の課題といえます。
市場環境の変化が激しいアパレル業界では、競争力を高めるためにさまざまなM&Aが行われています。
ここからは、アパレル業界のM&A動向を解説していきます。
日本は少子高齢化による人口減少などによって、業界を問わず市場規模は縮小している傾向があります。
国内のみで利益を増やし続けることは困難であることから、大手企業は海外企業の買収を進めている動きが見られています。
日本企業による海外企業の買収は、今後も増えていくことでしょう。
アパレル業界では、EC市場の拡大が加速し続けています。
EC領域への参入は、アパレル業界で収益を伸ばすためのカギになるでしょう。
しかし、WEBでの商品販売をゼロから新たに始めることは容易ではありません。
そのため、業界内ではECサイトのノウハウを有する企業を買収するケースが増えています。
アパレル会社を売却・買収することによって、企業はさまざまなメリットを得ることができます。
まずは、アパレル会社を売却するメリットを見ていきましょう。
近年、働き方の多様化や少子高齢化の影響によって、親族内で事業承継をするケースが減少しています。
従業員へ事業承継をするためには、株式の買収資金といった金銭的負担が発生するため、実現しないことも考えられます。
充分な収益を挙げられていても、後継者がいなければ事業を続けることができません。
親族や従業員に承継できなかった場合、次の選択肢として挙げられるのが、M&Aによる第三者への事業承継です。
周辺に承継する相手がいなくても、第三者へ事業を引き継げれば、後継者不足の問題を解消することができます。
M&Aによる事業承継は企業を存続させるために有効であることから、国内でも推奨されている動きが見られています。
近年、後継者不足や経営不振などを理由に廃業する中小企業の数は増えています。
廃業した場合、従業員は新たな働き口を見つける必要があります。
しかし、M&Aによって事業を売却すれば、買い手企業に従業員を引き継ぐことが可能です。
事業を売却する際には、従業員の雇用条件なども買い手企業と話し合っておきましょう。
競争が激化しているアパレル業界では、財産面に余裕が無く、事業を成長させられないと悩む経営者は少なくないでしょう。
そのような悩みを解消したい場合、M&Aによって自社を大手企業に売却することで、安定した経営基盤のもとで事業を行うことができます。
また、EC業界などで収益を挙げている企業に加われば、間接的に事業領域を広げることも可能です。
資金難の解消を図りたいと考えているかたは、M&Aによる売却も一度検討してみましょう。
事業を続けることができず廃業した場合、テナントの撤去費用や衣類の処分費用などが発生します。
しかし、M&Aによって事業を売却すれば、それらの資産は買い手企業に引き継がれます。
結果的に、売り手企業側は廃業にかかる資金を回避することが可能です。
アパレル会社を経営する際、事業を続けていくために個人保証によって融資を受けている企業は少なくありません。
経営状況が生活に大きく影響を与えることから、精神的な負担になっている方もいるでしょう。
個人保証を解消したい場合は、M&Aによって事業を売却することで、保証を買い手企業に引き継ぐことができます。
注意点として、個人保証を引き継ぐためには、株式譲渡といったM&A手法を使用する必要があります。
事業譲渡という手法では、買い手へ保証を引き継げないことを覚えておきましょう。
【関連記事】事業譲渡と株式譲渡の違い!メリットやデメリット、選ぶ際のポイントも解説
M&Aによって事業を売却した場合、経営者は企業価値に応じた売却利益を獲得することができます。
高値での売却を実現できれば、資金を活用してアーリーリタイアを図ることもできるでしょう。
売却益をもとに、新たな事業を立ち上げることも可能です。
多額の資金を得られることは、事業を売却する大きなメリットです。
アパレル会社の売却を検討している方は、M&Aに対する理解を深めるためにも、買収する側のメリットを把握しておきましょう。
アパレル会社を買収するメリットは、主に以下の4つが挙げられます。
アパレル会社を経営している場合、異なるエリアで衣類の販売を行いたいと考えることもあるでしょう。
しかし、新たな地域で経営を始めるためには、店舗の準備などに多くの時間を要します。
効率的に事業エリアを拡大する際には、M&Aによってアパレル企業を買収することで、売り手が事業を行っている店舗などをそのまま引き継ぐことができます。
アパレル業界も含め、近年では人材不足に悩む企業が増えています。
しかし、少子高齢化が進んでいる現代において、従業員を多数確保することは容易ではありません。
従業員をスムーズに増やしたいと考えている場合、M&Aによって買収を実施すれば、売り手側の従業員を包括して獲得することが可能です。
また、実務経験がある従業員を獲得できるため、教育に書ける時間などを大幅に短縮することもできます。
EC業界への参入を図っている場合も、それらを事業をする企業を買収すれば、ネット販売に知見がある従業員を多数確保できるというメリットがあります。
アパレル業は、人々が生活していく上で欠かすことができない産業です。
市場規模は縮小している傾向がありますが、日本製品は品質が良いと言われていることから、一定以上の需要は保ち続けるでしょう。
そんなアパレル業界に参入したいと考えた場合、ノウハウの構築などに多くの時間がかかるでしょう。
スムーズにアパレル業を始めるには、M&Aによる買収が有効です。
すでにアパレル事業を行っている企業を買収すれば、迅速な新規参入を図ることが可能です。
さまざまなファッションが存在するアパレル業界では、自社が展開していない分野の衣服が流行することもあるでしょう。
自社で新たな分野の衣服を販売したいと考えた場合、M&Aによってその分野を扱うアパレル会社を買収するという方法もあります。
また、経営に必要な資材を共有することによって、大量発注によるスケールメリットを得ることも可能です。
実際にアパレル会社を売却する際には、以下の流れで手続きを進めていきましょう。
M&Aを進めていくには、事業売却に関するさまざまな知識が必要です。
個人で実施するのは現実的ではないため、M&A仲介会社などの専門家に支援を依頼しましょう。
M&A仲介会社とは、買い手企業の選定から成約までを一貫してサポートしている企業です。
仲介会社に事業売却に関する相談をして、実施する意思が固まったら契約を結びましょう。
仲介会社を契約したあとは、買い手企業探しに進みます。
買い手企業探しは、ノンネームシートと呼ばれる資料をもとにM&A仲介会社が実施します。
ノンネームシートとは、企業名が特定されない範囲で売り手の情報が記載された資料です。
M&Aにおいて注意するポイントは、事業の売却を検討していることが外部に広まらないようにすることです。
万が一従業員に広まった場合、売られるという意識を持たれモチベーションの低下に繋がる恐れがあります。
取引先に知られてしまうと、経営不振を疑われイメージダウンに繋がることもあるでしょう。
上記のようなリスクを回避するためにも、買い手企業探しはノンネームシートを使用して行われます。
ノンネームシートの内容に興味を示した買い手企業が現れた場合、秘密保持契約を締結したあと情報を開示します。
情報を開示したのち、両企業がM&Aを希望した際にはトップ面談へと進みます。
トップ面談とは、経営者同士が顔合わせて実施する話し合いの場です。
トップ面談で大切なことは、相手企業の経営者と信頼関係を構築することです。
M&Aを進めいく際には、相手企業の経営者と話し合う機会が何度もあります。
充分な信頼関係がなければ、すれ違いが生じ取引が破談になることもあるでしょう。
M&A仲介会社に依頼していた場合、売却価格の交渉などはアドバイザーに一任することができます。
揉め事が生じやすい金銭面の話はアドバイザーに任せて、信頼関係の構築に集中しましょう。
トップ面談後、両企業の経営者がM&Aを進めていく意思を持った場合は、基本合意契約書の締結をします。
基本合意契約書とは、今後のスケジュールや取引の手法などが記載されている書類です。
注意点として、基本合意契約書はM&Aを進めていく意思を示すものであるため、一部の項目を除き法的な拘束力がありません。
最終的な売却価格などは、後述するデューデリジェンスの実施後に決定します。
デューデリジェンスとは、売り手を買収する上でのリスクを洗い出すために実施される内部監査です。
M&Aによって企業を買収した場合、基本的に売り手が抱えている負債などは買い手企業へを引き継がれます。
把握できていない負債を引き継ぐことは、買収する側はなんとしても避けなければなりません。
想定外のリスクを回避するためにも、買い手企業は売り手企業に対してデューデリジェンスを実施する必要があります。
また、デューデリジェンスを実施する際、売り手企業は買い手企業に対して資料の提出などを行うことがあります。
信頼関係を高めるためにも、資料などを求められた際には素早く対応しましょう。
デューデリジェンスを実施したあとは、両企業で再度交渉を行います。
買収リスクなどが見つからなかった場合は、基本合意契約書の内容に基づいて最終条件を決めていましょう。
また、万が一デューデリジェンスによって買収リスクが見つかった際には、売却価格などを調整し、再度条件を決めていきます。
交渉後、両企業がM&Aを実施する意思を固めたら、最終合意契約の締結をします。
最終合意契約を締結したあとは、クロージング作業へと進みます。
クロージングとは、株式の引き渡しによる経営権の譲渡や、譲渡対価の支払い作業のことです。
期日を設けて、その日までに作業を終わらせられるよう進めていきましょう。
クロージング作業が終わったらM&Aは完了です。
【関連記事】M&Aのクロージングとは 手続きや流れ、必要書類などを解説!
アパレル会社の売却を成功させたい場合は、以下の要素を抑えておきましょう。
ここからは、アパレル会社を売却する際の注意点・ポイントを解説していきます。
企業の売却を実現させるためには、買い手企業探しからクロージング作業まで、やるべきことが複数あります。
事業の売却をする際には、充分な時間を確保しておきましょう。
また、M&Aを完了させるためには、おおよそ半年から1年の時間を要するといわれています。
アパレル会社を高く売りたいと考えている場合は、赤字になってからでは無く、収益ができているタイミングで売却することも大切です。
事業の売却価格を決める際には、企業の将来性なども加味されます。
赤字が出ている企業だと、将来性が無いと判断され、売却価格が安く見積もられることも考えられます。
高値で売りたい方は、収益が充分に出ているタイミングで売却しましょう。
多くの場合、M&Aは同じ業種の企業同士で実施されます。
ただし、EC市場が拡大しているアパレル業界では、IT企業などの異業種でも、売却を実現できる可能性は充分に高いと考えられます。
自社を買収した場合、買い手企業はどのようなメリットを得られるのかを考え、適切なアピールを行っていきましょう。
アパレル会社を売却する場合、平均でいくらくらいの売値がつくのでしょうか。
結論から述べると、アパレル業界も含め、M&Aによる売却相場は一概に決めることができません。
M&Aによる事業の売却価格は、会社が持つ資産や収益など、さまざまな要素を加味して決められます。
それらは企業によって大きく異るため、業界全体の相場を決めることは困難といえるでしょう。
ただし、自社を売却する際の、目安となる売却価格であれば「年買法」による計算によって求めることができます。
年買法とは、時価純資産に2~5年分の営業利益を足すことで、企業価値を算定する費用化方法です。
年買法は、M&Aにおいて重視される企業の将来性が加味されている上に、客観性の高い評価方法として知られています。
計算方法が容易であることから、中小企業のM&Aでは年買法によって求められた値をベースに売却価格を決めることが多くあります。
また、年買法以外の簡易的な計算方法を知りたい方は、下記の記事もご参照ください。
【関連記事】企業価値の簡易計算方法!価値の上げ方・向上させるメリットも紹介
アパレル業界は、M&Aによる企業の買収・売却が積極的に行われている業界です。
ここからは、アパレル業界で行われたM&Aの事例を5つ紹介していきます。
2012年11月、大手ファストファッションブランドを運営する株式会社ファーストリテイリングは、J Brand Holdingsの株式を取得し子会社化することを発表しました。
J Brand Holdingsは米国でデニムの販売などを行っている企業で、デザインや製品の質の高さで高い支持を受けています。
ファーストリテイリングはJ Brand Holdingsを子会社化することによって、グローバルな事業展開を図りました。
2019年9月、国内最大級の大手インターネット会社であるヤフー株式会社は、ZOZOの子会社化を目指すことを発表しました、
ZOZOは衣料品の通販サイトとして有名な「ゾゾタウン」や、若年層に人気を集めているファッションメディア「WEAR」などを運営している企業です。
ヤフーはZOZOの子会社化によって、インターネット上における衣類販売事業の拡大を図りました。
2018年10月、数々のアパレル企業を傘下に持つTSIホールディングスは、上野商会の株式を取得し子会社化することを発表しました。
上野商会は、AVIREXやSchottなど、有名ブランドの企画や生産販売などを手掛けている企業です。
TSIホールディングスは上野商会の持つブランド力を評価しており、海外展開を図る上でのメリットがあると判断し買収を実施しました。
2022年7月、EC事業の総合的なサポートを行っている株式会社Eストアーは、株式会社志⾵⾳の株式を取得し子会社化することを発表しました。
志⾵⾳はファッション・スキー・ランドセルなどに関わるアパレル事業を展開している企業です。
Eストアーは、志⾵⾳の子会社化によってシステム及びマーケティングサービスの提供による収益増加を図りました。
2018年11月、ネットワーク・エンターテイメントソフトウェアの開発などを手掛けるサイバーステップは、ECライフコーポレーションの株式を取得し子会社化することを発表しました。
ECライフコーポレーションは、ファッション系商品を取り扱うEC事業を展開している企業です。
サイバーステップはECライフコーポレーションの子会社化によって、ウィンドウショッピングアプリのミレバ事業の成長を図りました。
アパレル業界は、EC市場の拡大や低価格志向の浸透によって、大きな変化を見せている業界です。
大手企業などは、M&Aによって変化への対応を図っている傾向が見られています。
上記の理由から、アパレル会社の売却及び買収の事例は、今後も増えていくことでしょう。
アパレル会社の売却を検討している方は、ぜひ一度ACコンサルティングにご相談ください。