投稿日:2022/11/12
更新日:2022/11/12
クリニックで勤務している医師の平均年齢は病院よりも高く、平均で60歳を超えています。
クリニックの存続を図る場合、最初に考えられるのは親族や従業員への事業承継でしょう。
しかし、近年では親族や従業員が承継を希望していないことから、M&Aによる第三者への事業売却第三によって事業承継を行うケースが増えています。
この記事では、クリニックの現状やM&A動向、売却・買収するメリットなどを紹介していきます。
目次
クリニックとは、病床が19床以下の医療施設のことを指します。
医療施設の名称はクリニック・医院・診療所・病院などがありますが、病院は病床数が20床以上のものが該当します。
クリニック・医院・診療所に関しては、名称が異なるだけで実態に違いはありません。
また、病院とクリニックの違いとしてあげられるのが雇用しているスタッフの数です。
病院の場合は、運営するにあたって3人以上の医師に加えて、看護師・看護補助師・薬剤師といったスタッフを雇用している必要があります。
一方で、入院施設がないクリニックであれば、医師1人でも経営を行うことが可能です。
ここでは、クリニック業界の現状やM&Aの動向などを紹介していきます。
厚生労働省が発表した「令和3年度 医療費の動向」によると、2021年度における医療費は前年度を2兆円上回る44.2兆円でした。
2021年度の医療費が減少している理由は、新型コロナの感染が広がった影響が挙げられます。
他社との接触を避けるために病院へ訪れる患者が減少したことで、医療費が減少したと考えられるでしょう。
また、コロナの感染を避けるために衛生環境の整備が進んだことも、医療費が減少した要因の1つであると考えられます。
新型コロナの感染が落ち着いた2021年度には、再度医療費が増加しています。
クリニックを含めた医療機関のニーズは、今後も増えていく可能性が高いでしょう。
クリニックの需要は今後も高まっていくことが予測されていますが、現状、高齢の医師が多く従事しています。
厚生労働省が発表した「令和2(2020)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、病院で働く60~69歳の医師は全体の14.2%であるのに対し、クリニックも含む診療所では全体の29.7%を占めていることが判明しました。
病院で働く医師の年齢は30~39歳が最も多いことを加味すると、クリニックに従事する医師の高齢化は深刻であるといえます。
医師が高齢によって診療を行うことができなくなった場合、クリニックを存続させるには事業承継を行う必要があります。
事業承継の方法として最も定番といえるのは、親族への事業承継でしょう。
しかし、近年では少子化や働き方の多様化によって、親族内承継が行えないケースが増えています。
親族内承継ができなかった場合、次に考えられるのが従業員への承継ですが、金銭面での負担などが発生することから実現しないことも考えられます。
親族や従業員への承継ができなかった際、次に挙げられるのが第三者への事業承継です。
M&Aによる売却は事業を存続させる方法として有効であることから、国内でも推奨されている傾向があります。
高齢化が進んでいるクリニック業界では、M&Aによる第三者の事業承継が増えていくことが予測されます。
クリニックを売却・買収することによって、どのようなメリットを得ることができるのでしょうか。
クリニックの売却は、後継者問題の解決以外にもさまざまなメリットがあります。
クリニックの売却によって大手医療法人に加わることで、経営の安定化を図ることができます。
高額の医療機器などを導入することができれば、提供できる医療サービスを向上させることもできるでしょう。
また、売却によって経営を相手企業に委ねることで、経営者としての業務を降りることも可能です。
医師不足が発生している現代において、医療業務に集中できることは大きなメリットです。
事業承継を行うことができず廃業した場合、従業員は新たに就職先を見つける必要があります。
クリニックのサポートを行ってきた従業員の生活に影響を与えてしまうことは、回避したいと考えている医師も少なくありません。
M&Aによって第三者へ事業承継を行うことができれば、廃業せずにクリニックを存続させることができます。
地域の住民にとっても、近隣のクリニックが廃業しないことは喜ばしいことでしょう。
社団法人のクリニックであれば、M&Aによって売却することで創業者利益を獲得することができます。
引退後の生活にゆとりを持てることは、クリニックの経営を行ってきた医師にとって大きなメリットといえるでしょう。
また、クリニックの廃業を行う際には、テナントの撤去費用や医療機器の処分費用が発生します。
M&Aによって売却した場合、廃業にかかるそれらの資金を回避することが可能です。
クリニックを買収するメリットは、主に以下の3つが挙げられます。
売り手側も売却を行う際の参考として、買い手側に生じるメリットを把握しておきましょう。
クリニック業界では、高齢化などの影響による人手不足が深刻です。
しかしながら、有資格者など医療関係に知識のある人物を確保することは容易ではありません。
経験のある人材を確保したい場合は、M&Aによる買収は有効な手段です。
育成にかける時間も短縮できるため、スムーズな人員補充を行うことができます。
クリニックや病院の診断領域を拡大させるためには、設備の導入や専門の医師を雇用などを進める必要があります。
それらをゼロから取り入れるには、一定以上の時間を要します。
対応していない領域に参入したいと考えている場合、M&Aによる買収は有効な手段です。
人材や設備を買収することによって、本来必要だった時間を大幅に短縮することができます。
新規領域へのスムーズな参入は、業界を問わずM&Aを行うメリットとして知られています。
M&Aによってクリニックや病院を買収することによって、病床の数を増やすことができます。
日本は病床の数が世界で最も多い国です。
これ以上増えすぎると、比例して患者の数が増加し医療費が大幅に上昇してしまうことから、病床の数は都道府県ごとに制限されています。
しかし、M&Aによって買収を行えば、グループ全体の病床数を増やすことは可能です。
病床の数を増やすことで受け入れられる患者の数を増やせるというのは、医療業界特有のメリットであるといえるでしょう。
クリニックの売却を行う方法は、主に「事業譲渡」「合併」「持分譲渡」の3つがあります。
事業譲渡とは、事業を行う上で必要な資産の一部または全部を譲渡するM&Aの手法です。
医療業界の事業譲渡で挙げられる資産とは、医療機器・テナント・知的財産権・スタッフ・患者のカルテなど多岐に渡ります。
これらを個別に譲渡していくことによって、第三者への承継を行います。
また、スタッフや患者のカルテなどを承継する際には、それぞれ対象人物から同意を得る必要があるため注意しましょう。
合併とは、2社以上の企業を1つにするM&A手法であり、「吸収合併」と「新設合併」の2つが存在します。
吸収合併とは買い手となる法人が売り手の法人を吸収する合併の方法であり、実施後に売り手の法人格は消滅します。
新設合併とは、新たに設立した法人に買い手・売り手の権利を承継する手法です。
新設合併の場合は、買い手と売り手の法人格はどちらも消滅します。
M&Aの手法の中では、最も結束力の高い選択肢として知られています。
持分譲渡とは、出資持分を譲渡することによって経営権を承継するM&Aの手法です。
出資持分とは、医療法人に対して出資したものが持つ財産権のことです。
持分譲渡は持分がある財団医療法人が利用できる手法であり、出資持分を譲渡することによって経営権も引き渡すことができます。
2007年以降、出資持分がある医療法人を新たに設立することはできなくなりましたが、持分の譲渡は現在でも行うことが可能です。
ここからは、クリニックの売却を行う際の流れについて解説していきます。
まずは、M&A仲介会社にクリニックの売却について相談しましょう。
相談時には、売却を検討した理由や、クリニックの経営状況などを資料にまとめておくとスムーズです。
相談後は、仲介会社と業務委託契約を結び、買い手の選定を依頼します。
買い手企業の選定を行う際には、ノンネームシートを使用して買い手へのアピールを行います。
ノンネームシートとは法人名が特定されない範囲の情報が記載された書類です。
従業員にM&Aによる売却を行うことが知られた場合、売られるという気持ちからモチベーションの低下に繋がることがあります。
患者に売却を行うことが周知されてしまうと、不安を煽り通院するクリニックを変更するかもしれません。
M&Aにおいて重要なポイントの1つは、売却を行うことが外部に広まらないように注意を払うことです。
ノンネームシートを活用して、M&A仲介会社に選定を依頼しましょう。
買い手がノンネームシートの内容に興味を示したら、秘密保持契約を結び情報の開示を行います。
情報の開示後、両企業がM&Aを進めたいと考えた際には、経営者同士の顔合わせの場であるトップ面談へと進みます。
トップ面談では、買い手の経営者と信頼関係を構築していくことが大切です。
トップ面談後にも、相手の経営者とは話し合う機会が複数あります。
充分な信頼関係が構築できていないと、M&A自体が途中で破談になることがあるかもしれません。
経営に対する考え方などを共有して、信頼できる相手であるのかを見極めましょう。
また、M&A仲介会社に依頼している場合、売却価格の交渉などはアドバイザーに依頼できるため、面談だけに集中することが可能です。
トップ面談後、買い手と売り手の経営者がM&Aを進めたいと思った場合は、基本合意契約書の締結を行います。
基本合意契約書とは、今後のスケジュールや売却価格などが記載された書類であり、M&Aを行う意思を示すためのものという立ち位置です。
注意点として、基本合意書はあくまで意思を示すものであることから、一部の項目を除いて法的な拘束力がありません。
後述するデューデリジェンスの結果次第では、売却価格などが変わる可能性があります。
デューデリジェンスとは、買い手が売り手に対して行う内部監査です。
デューデリジェンスによって、簿外債務や訴訟リスクといった、買収する上で不利益となる要素が無いかを調べます。
調査をスムーズに進めるには、売り手側の協力も必要不可欠です。
調査に対して売り手が協力的だった場合、買い手との信頼関係を高められるかもしれません。
必要な書類の提出などを求められた際などには、可能な限りスピーディに対応しましょう。
【関連記事】デューデリジェンスとは?目的や種類、流れや費用などを解説
デューデリジェンスの実施後は、買い手と売り手で再度交渉を行います。
デューデリジェンスによって買収リスクが見つからなければ、基本合意契約書の内容に基づいて最終条件を決めましょう。
万が一買収リスクが発覚した場合には、売却価格などを調整し再度交渉を行います。
条件の擦り合せが完了し、M&Aを行うことが決定した際には最終合意契約を結びます。
締結後には、統合作業であるクロージングを期日までに進めていきましょう。
クロージングが完了したら、M&Aによる売却は完了です。
クリニックの売却を行う際には、以下の3点を抑えておきましょう。
ここからは、クリニックの売却を行う際のポイントと注意点を解説していきます。
クリニックの評価を行う際、人材の数や質も売却価格を左右する要素の1つです。
初期段階で高い評価を得ていたとしても、最終合意契約の締結前に人材が流出してしまえば、売却価格は減少するでしょう。
良い医師や看護師が別のクリニックに移ることによって、患者も別のクリニックへ一緒に移ってしまうことも考えられます。
人材の流出を防ぐために、スタッフとのコミュニケーションは日頃から行い、退職を防ぐことが大切です。
売却後の退職を防ぐためにも、スタッフの雇用条件などは買い手側と入念に話し合いをしておきましょう。
クリニックの売却は、通常のM&Aよりも時間がかかることが考えられます。
医療機関と行政機関は健康保険など関与している要素があることから、許認可を得なければM&Aを完了させることができません。
加えて、クリニックや病院などの医療業界は買い手・売り手の母数がすくないことから、M&Aの相手が中々見つからないこともあるでしょう。
上記の理由から、クリニックの売却は時間がかかることが予測されるため、充分な時間を確保しておくことが大切です。
M&Aによってクリニックの売却を行う際には、充分に利益が出ているタイミングで動き出すことかポイントです。
M&Aによって売却を行う場合、売却価格は企業の資産や年間の利益などを基準にして決められます。
充分な利益が出ているクリニックであれば、売却価格も比例して高まるでしょう。
反対に、利益が期待できないクリニックだと、想定している価格で売却できないこともあり得ます。
また、経営状況が良好ではないクリニックだと、買収を希望する相手が中々見つからないこともあります。
最悪の場合、買い手が全く現れないといった自体も考えられるでしょう。
そのような自体にならないためにも、クリニックの売却は経営状況が悪化する前に動き出すことが大切です。
ただし、経営状況が悪い状態でも、他のクリニックには無い長所を持っていれば買収を希望する相手が見るかるかもしれません。
赤字が続いているクリニックでも、導入している設備や対応領域などを見直して、買い手にアピールできるポイントを探してみましょう。
クリニックの売却を進めていくためには、M&Aに関する知識を充分に有している人物にサポートを依頼することが重要です。
M&Aを行う際には、買い手の選定や相手との交渉、デューデリジェンスなどやらなければいけないことは複数あります。
売却に必要な手続きを、個人で漏れが無いように進めていくことは容易ではありません。
M&Aを漏れなくスムーズに進めていくためにも、売却する際には仲介会社などの専門家に支援を依頼しましょう。
M&A仲介会社では、買い手の選定から成約までのサポートを一貫して行っています。
売却を行う際には税理士や弁護士などに支援を依頼しなければいけないこともありますが、多くの仲介会社はそれらの専門家との繋がりを有しています。
また、M&Aの相談に無料で対応している仲介会社もあるので、検討段階で不明な点があれば相談してみましょう。
クリニックの売却価格は、年間の利益などを指標として算出された価格をもとに、買い手との交渉の末に決定します。
クリニックの規模は法人ごとに異なるため、業界全体の売却相場を一概に決めることはできません。
ただし、売却価格の目安は「年買法」という手法を使用することによって求めることができます。
年買法とは、時価純資産に1~5年分の営業利益を足して企業価値を評価する方法です。
計算方法が容易であることから、中小企業のM&Aでは頻繁に使用されています。
クリニックの売却価格を知りたい場合は、年買法によって求めた値を目安として考えておきましょう。
また、年買法以外にも、売却価格を簡易的に求める方法は複数存在します。
詳しくは、下記の記事をご参照ください。
【関連記事】企業価値簡易計算の方法!企業価値の上げ方・高めるメリットも紹介
M&Aに関する知識を深めるためにも、どのような事例があったのかを把握しておきましょう。
ここからは、医療関連の業界で行われたM&Aの事例を5つ紹介していきます。
【医療関連業界のM&A事例】
2017年10月、発電やインフラなどさまざまな事業を多角的に展開している株式会社東芝は、自社で運営していた東芝病院を緑野会に譲渡することを発表しました。
東芝病院は1945年に開設された病院であり、地域医療に大きく貢献していました。
また、緑野会は神奈川県大和市に所在する社団医療法人です。
東芝は、自社が運営する病院を緑野会に譲渡することによって、地域医療へのさらなる貢献を図っています。
2019年12月、医療法人沖縄徳洲会は、社会医療法人の木下会を吸収合併しました。
吸収合併によって、沖縄徳洲会はコンプライアンス及びガバナンスの強化を図っています。
また、吸収合併によって沖縄徳洲会は、地域医療への貢献に全力を尽くすことを発表しています。
2015年9月、東日本電信電話株式会社は、NTT東日本東北病院を東北薬科大学へ事業譲渡することを発表しました。
NTT東日本は、救急医療と地域包括医療の充実及び、東北における医師不足の解消に貢献することを目的として事業譲渡を行いました。
また、東北薬科大学は、この事業譲渡によって東北の復興に繋がる人材育成及び医療提供を目指しています。
2014年3月、株式会社日立製作所は、自社が運営する小平記念東京日立病院を医療法人社団大坪会に事業譲渡することを発表しました。
東京日立病院は、地域密着型の総合病院として経営を続けていました。
日立製作所は、病院運営を含め医療全般に知見がある大坪会に承継することで、地域医療へのさらなる貢献を図っています。
2022年9月、日本郵政株式会社は自社が運営していた京都逓信病院を、医療法人知音会に事業譲渡することを発表しました。
事業譲渡によって、京都逓信病院は2022年10月から京都新町病院として発足しました。
事業承継後は、知音会の伝統を継承した上で、地域のニーズを踏まえた医療の実現を図っています。
クリニックは新型コロナの影響で一時的に医療費が減少しましたが、現在では上昇しています。
今後も需要が高まっていくと考えられますが、クリニックで働く医師の平均年齢は60歳以上の割合が高く、高齢化が進んでいます。
M&Aは事業承継の手段として有効であることから、今後も事例が増えていくことでしょう。
クリニックのM&Aを検討している方は、ぜひ一度ACコンサルティングにご相談ください。