投稿日:2022/11/23
更新日:2022/11/23
近年、スタートアップによるEXITの事例が増えています。
EXITの方法は、主に「M&Aによる売却」と「IPO」の2つの方法が存在しています。
米国企業の場合、M&AによるEXITを選ぶ経営者の割合は9割を超えており、IPOを選択する企業は1割程度です。
しかし、日本ではM&Aによる売却を行う企業はわずか3割程度しかありません。
この記事では、スタートアップのM&Aを成功させるポイントや、売却・買収の事例などを解説していきます。
目次
スタートアップとは、革新的なアイデアによって短期間での成長を目指している、創業から間もない企業です。
新規に立ち上げた企業という点ではベンチャーと似ていますが、ベンチャーは長い時間をかけて成長を目指しているという違いがあります。
また、ベンチャーは既存のビジネスモデルを参考に展開しているのに対し、スタートアップは既存の型に囚われない、新たなビジネスを行っているという違いもあります。
M&Aとは、企業の買収・合併のことであり、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略語です。
基本的に売り手側は、後継者不足の解消や事業の集中化などを目的としてM&Aを実施します。
しかし、スタートアップにおいては、一般的なM&Aと目的が少々異なります。
スタートアップは、創業時点からEXITの達成というゴールを設けていることが一般的です。
つまり、スタートアップにおけるM&Aは、EXITを達成するための方法という立ち位置といえるでしょう。
M&Aと並び、IPOはEXITの方法として有名です。
IPOとは「Initial(最初の) Public(公開) Offering(売り物)」の頭文字を取った言葉であり、新たに株式を上場させることです。
IPOによって上場させ、投資家に株式を分配することによって資金の解消を行います。
一方、基本的にM&Aは一人の相手に対し株式を譲渡するため、そのような点がIPOとの大きな違いといえるでしょう。
スタートアップによるEXITの方法は、主にM&AとIPOという2つの手段が挙げられます。
米国の場合、M&AとIPOの割合は約9:1と、M&Aを選ぶ企業の割合が圧倒的に高い状況です。
一方で、日本の場合はM&AとIPOの割合が3:7となっており、IPOによってEXITを行うケースのほうが多く見られています。
日本でM&Aが選ばれにくい理由は、主に「両企業間で価格交渉の折り合いがつかなかった」「M&A後の統合作業がうまく進まない」といったものが挙げられます。
日本では、自分の技術や資源のみで事業を行おうという考え方である「事前主義」が浸透していることも、M&Aが選ばれにくい原因といえるでしょう。
しかし、M&AはIPOよりも早くでEXITできるため、効率的に資金回収できるという特徴があります。
若手経営者を中心に、M&Aを実施する抵抗感が薄れていることから、今後はM&AによるEXITを選択する経営者が増えていくことが予測できます。
参考:経済産業省 大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書(バリュエーションに対する考え方及びIRのあり方について)
スタートアップがM&AによってEXITを行うことで、経営者はどのようなメリットを得ることができるのでしょうか。
ここからは、M&Aを実施するメリット及びデメリットを紹介していきます。
買い手側が得られるメリットは、主に以下の3つが挙げられます。
通常、新たに事業を始めようとした場合、人材の補充や設備の確保に多大な時間を要します。
それらを実施するための資金も発生するため、新規事業を始めることは容易ではありません。
しかし、M&Aによって会社を買収すれば、売り手が持つそれらの資産を包括して獲得することができます。
新たな事業をスムーズに始められることは、M&Aを実施する大きなメリットです。
スムーズな新規事業への参入と並び、M&Aを行うメリットとして挙げられるのがシナジーの発揮です。
シナジーとは、経営資源や設備、技術などの統合によって生じる相乗効果のことです。
例として、自社では対応していないエリアで事業を行っている同業種の企業を買収すれば、対応地域を増やして収益の拡大を図ることができるでしょう。
自社がアパレル事業を営んでいた場合、ネット販売に強いIT企業と統合することによって、近年規模が拡大しているEC市場へ参入することも可能です。
このように、シナジー効果は業種を問わず発揮することができます。
買収する企業を選ぶ際には、自社と統合することでどのようなシナジーを発揮できるかを分析しましょう。
近年、少子高齢化の影響により人材不足に悩む企業の数が増加しています。
人材を補充するには採用活動を行うための時間やコストを要するため、人材不足を早急に解消することは困難といえるでしょう。
しかし、M&Aによる買収は売り手の従業員も包括して獲得できるので、人材不足の解消を図ることが可能です。
また、事業に対するノウハウを有しているため、教育にかかる時間やコストを抑えることもできます。
コストを抑え、早急に人材を獲得したい場合はM&Aによる買収も検討してみましょう。
一方で、M&Aによって企業を買収することには、以下のようなデメリットがあります。
株式の買収によって経営権を獲得したあとは、企業の統合作業であるPMIを実施する必要があります。
PMIでは、社内システムや企業文化、組織編成などの統合を行います。
しかし、長い年月をかけて構築されてきた企業を統合することは容易ではありません。
会社の統合に時間やコストを掛けすぎてしまうと、利益どころが損失を生み出してしまうこともあるでしょう。
そのような自体を招かないためにも、PMIを実施する際には、相手企業の現状や経営方針などをあらかじめ分析しておきましょう。
統合から100日以内に達成する目標や、3~6ヶ月以内に取り組む課題などを決めておくとこも、統合作業を成功させるポイントです。
【関連記事】PMI(経営統合作業)とは?プロセスや成功・失敗事例などを解説!
多くの場合、M&Aは統合によるシナジーの発揮を目的として行われます。
しかし、必ずしも想定してたシナジーを得られるとは限りません。
シナジーを発揮できなかった場合、買収にかかった資金を取り戻すことができず、結果的に損失を生み出してしまうことも考えられます。
M&Aによって損失を産まないようにするためには、適切な価格で買収を実施することが重要です。
相手企業の調査を入念に行い、適切な企業価値評価を行いましょう。
また、M&A仲介会社などにサポートを依頼した場合は、アドバイザーに企業価値の評価を依頼することが可能です。
【関連記事】M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは? 種類やメリットも解説!
売り手が得られるメリットは、主に以下の3つが挙げられます。
M&AはIPOと比較すると、スピーディにEXITを完了させることができます。
IPOによって株式を上場させるためには、株主数や流通している株式の時価総額などの基準を満たす必要があります。
上場させるための条件が厳しいことから、IPOによるEXITには多大な時間がかかるでしょう。
しかし、M&AによるEXITは株式の売却によって行われます。
買い手と売り手が合意すれば実施できるため、IPOよりもEXITにかかる時間は短めな傾向です。
短期間での利益を目指しているスタートアップなどは、IPOよりもM&Aのほうが目標の達成に有効なケースもあるでしょう。
特に、売却益を元手に新たな事業を立ち上げる連続起業家は、スピーディなEXITを達成できるM&Aのほうが適していると考えられます。
近年、経営不振や後継者不足などによって廃業する企業の数が増えています。
廃業した場合、従業員は新たな働き口を見つけなくてはいけません。
設備や資材の撤去費用なども発生するため、廃業をすることにはさまざまなデメリットがあります。
それらのデメリットを回避したい際には、M&Aによる事業の売却が有効です。
M&Aによって事業を売却すれば、従業員や設備などは買い手へ包括して承継することができます。
廃業を回避できることは、M&Aによる売却の大きなメリットです。
また、自社が利益を生み出せていない場合でも、独自の強みがあれば買収を希望する買い手が現れることがあるかもしれません。
赤字が続いている企業の買収をする際は、自社の強みを分析し、買い手へ効果的なアピールを行えるよう準備しておきましょう。
M&Aによって自社を売却した場合、創業者は企業価値に応じた利益を獲得することが可能です。
企業価値が高く評価されていれば、アーリーリタイアを図ることもできるでしょう。
売却利益を投資などに回せば、生活にゆとりを持つこともできます。
売却によって得た資金の使い道は、創業者によって千差万別です。
売却利益を獲得できることは、M&Aによる売却を行う上での大きなメリットといえるでしょう。
一方で、M&Aによって事業売却を行うことには、以下のようなデメリットがあります。
M&Aは、IPOと比較するとスピーディなEXITを実現できるというメリットがあります。
一方で、企業価値評価額はM&AよりもIPOのほうが高くなりやすいという特徴も存在します。
上場後に企業価値が向上していけば、結果的にIPOのようがより多くの創業者利益を獲得できることも考えられるでしょう。
ただし、必ずしもM&Aによって売却するほうが創業者利益が減るとは限りません。
統合によって生み出されるシナジーが大きければ、想定していた以上の価格で売却できることもあるでしょう。
基本的に、M&Aは株式を譲渡することによって経営権を買い手企業へ承継します。
M&Aの実施後、創業者は経営権を失うため、以前と同じように事業を行うことができません。
経営権を持ち続けたいと考えている場合は、M&Aでは無くIPOによるEXITを選択しましょう。
スタートアップのM&Aを成功させたい場合は、以下のポイントを抑えておきましょう。
スタートアップの買収を成功させるポイントは以下の3つです。
M&Aによる買収を成功させるためには、長期的な目線での成長戦略を策定しておきましょう。
短期間での利益を重視してしまうと、M&Aが自社を成長させるために有効であるのかを正しく判断することができません。
M&Aの実施後は統合作業を進める必要があるため、最初のうちは充分な利益を挙げられないこともあるでしょう。
統合にかかる時間も加味して、中小気的な成長戦略を設けることが大切です。
M&Aによって買収する際には、売り手企業を分析し、買収するリスクを正しく洗い出しましょう。
M&Aを実施する上でのリスクの分析ができていなければ、買収後に想定外の損失を生み出してしまう可能性もあります。
ただし、買収するリスクが発覚したとしても、買収を見送ることが正解とは限りません。
リスクに見合うリターンがあれば、買収に踏み切るという決断をしても良いでしょう。
M&Aは100%成功しないといけないというわけではありません。
リスクとリターンを正確に分析し、実施するべきかを判断することが重要です。
M&Aを成功させたい場合は、買収によってどのようなシナジーを生み出せるか想定しておきましょう。
想定されるシナジー効果がわかれば、買収価格が適切であるかを判断することができます。
また、想定されるシナジー効果を買い手と売り手で擦り合わせておくことも大切です。
共通の認識を持っていれば、企業同士での交渉をスムーズに進めることができるでしょう。
売却を成功させるポイントは、主に以下の3つが挙げられます。
スタートアップをより高額で売却したいと考えている場合は、充分な収益ができているタイミングで売却しましょう。
M&Aによる売却価格は、企業の将来性や保有している資産などをベースとして算出されます。
充分な収益を挙げられていなければ、想定していた価格での売却ができないかもしれません。
より高額での売却を希望している際は、経営が傾いてからでは無く、利益が出ているときに売却するとよいでしょう。
買い手企業と共通している要素ですが、M&Aによってどのようなシナジーを生み出せるか分析することも大切です。
買い手企業が売り手企業を探す際には、統合によるシナジー効果も想定して選別を行います。
統合によって生み出されるシナジー効果をアピールできれば、買収を希望する可能性も高まるでしょう。
事業の売却を成功させたい場合は、買い手企業の分析も行い、アピールポイントを探すことも重要です。
企業の売却を成功させたい場合は、従業員の離職を防ぐこともポイントです。
スタートアップは従業員同士のチームワークによって成り立っていることが多いため、通常のM&Aよりも人材の価値が高く評価される傾向があります。
M&Aによって従業員が離職してしまえば、交渉自体が破断してしまうこともあるでしょう。
スタートアップのM&Aを行う際は、従業員の離職を防ぐために、雇用条件などを買い手企業と擦り合わせておくことが大切です。
M&Aにおけるスキームとは、M&Aを実施するための手法のことです。
スタートアップによるM&Aのスキームは、主に「株式譲渡」「事業譲渡」「合併」が使用されています。
ここからは、スキームごとの特徴について個別に解説していきます。
株式譲渡 | 株式の引き渡しによって経営権を譲渡する手法 |
事業譲渡 | 事業の一部・全てを切り離し譲渡する手法 |
合併 | 複数の企業を1つにまとめる手法 |
株式譲渡とは、株式の引き渡しによって買い手企業に経営権を譲渡するM&Aのスキームです。
売り手企業側は、対価として資金などを獲得します。
株式譲渡は株主の名義変更を行うことで経営権を移行できることから、他のスキームよりも手続きが容易という特徴があります。
発生する税金も少ないこともあり、M&Aでは最も選ばれることが多い手法です。
ただし、株式譲渡による事業売却は会社を包括的に承継するため、譲渡の対象を選択することができません。
特定の設備などを売却したい場合は、後述する事業譲渡を選択しましょう。
事業譲渡とは、事業の一部または全てを切り離し売却するM&Aのスキームです。
売り手企業が複数の事業を営んでいる状況で、特定の事業のみを売却したい場合に有効な手段です。
採算があまり取れていない事業を売却すれば、他の事業に人材や資金を回し収益の向上を図れるでしょう。
ただし、事業譲渡は譲渡対象一つ一つに契約を結ぶ必要があるため、株式譲渡よりも手続きが煩雑というデメリットもあります。
従業員との契約も個別に結ぶ必要があるので、事業譲渡を行う際は充分な時間を確保しておきましょう。
合併とは、複数の法人を1つにまとめるM&Aのスキームです。
合併の方法は、「新設合併」と「吸収合併」の2つがあります。
新設合併とは、新たに設立した法人に、対象となる企業の経営権を譲渡する方法です。
実施後は、対象となる企業の法人は消滅します。
一方、吸収合併の場合は既存の法人に経営権を移し、譲渡をした企業の法人を消滅させることで実施されます。
合併のメリットは、2社以上の企業が1つになるためシナジーが生まれやすいという点です。
ただし、他のスキームよりも統合作業に時間を要するというデメリットもあります。
バリューションとは企業価値評価のことであり、算出方法はさまざまな種類があります。
ここでは、代表的なバリューションである「DCF法」「類似会社法」「時価純資産法」について解説していきます。
DCF法 | フリーキャッシュフローをもとに企業価値を算出する方法 |
類似会社法 | 類似した企業の財務状況をもとに企業価値を評価する方法 |
時価純資産法 | 時価に直した資産から負債を差し引くことで企業価値を評価する方法 |
【関連記事】M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは? 種類やメリットも解説!
DCF法とは、企業が自由に使用できる資産であるフリーキャッシュフローをもとに、企業の将来性を見極め企業価値を評価する方法です。
フリーキャッシュフローを、リスクなどを判断して求められた割引率によって現在の価値に戻すことで計算を行います。
計算の方法は煩雑ですが、M&Aにおいて重要視される将来性が算出内容に含まれていることから、M&Aにおいて使用されることが多いバリューションです。
注意点として、計算時には企業の成長率を仮定する必要があるため、買い手企業側よりも売り手企業のほうが高く見積もってしまう傾向があります。
すれ違いを産まないためにも、算出時には両企業で認識をすり合わせておきましょう。
類似企業比較法とは、自社と類似している上場企業を選定し、財務状況を分析することで企業価値の評価を行う方法です。
例として、純利益が1億円で時価総額が5億円の類似した企業があるとしましょう。
この場合、倍率は5倍であると評価できるため、自社の純利益が5000万だった場合は時価総額が2億5000万円となります。
ただし、類似した企業を選ぶ基準は業種や事業の規模などがあり、比較に適した企業が見つからないこともあるでしょう。
特に、スタートアップに関しては通常よりも類似企業が見つかりくいと考えられるため注意が必要です。
時価純資産法とは、企業が持つ時価資産から、負債の時価総額を差し引くことで企業価値を求める方法です。
計算する人物が違っても同じ値が算出されるため、客観性の高いバリューションといえるでしょう。
ただし、スタートアップは保有している資産が少ないことから、企業価値が低く見積もられてしまうと考えられます。
スタートアップの強みである将来性が加味されないことも、時価純資産法による計算のデメリットです。
時価純資産法によって算出した値は、売却時に下限となる企業価値であると考えておきましょう。
ここからは、スタートアップによるM&Aの事例を5つ紹介していきます。
2018年7月、Yahoo! JAPANの運営や広告事業などを行っているヤフー株式会社は、dely株式会社の株式を取得し子会社化することを発表しました。
delyは、料理動画の配信サービスで有名な「クラシル」の運営を行っているスタートアップ企業です。
ヤフーは自社が持つノウハウを活用する事によってdelyの独自性を強化し、さらなる企業価値の向上を図りました。
2017年8月、大手通信企業であるKDDI株式会社は、ソラコムの株式を取得し連結子会社化することを発表しました。
ソラコムは、IoT事業を営む2014年に設立したスタートアップ企業です。
KDDIはソラコムの子会社化によってIoTを普及拡大し、ビジネス基盤の強化を図りました。
2017年2月、インターネットに関わる事業を多角的に展開しているグリー株式会社は、3ミニッツの株式を取得し子会社化することを発表しました。
3ミニッツは、ファッション動画マガジンである「MINE BY 3M」の運営などを行っている企業です。
グリーは動画広告市場の拡大に注目していることから、3ミニッツの子会社化によってさらなる事業の成長を図りました。
2018年11月、コンサルやインターネット関連事業などを行っている株式会社チェンジは、トラストバンクの株式を取得し子会社化することを発表しました。
トラストバンクは、ふるさと納税のプラットフォームである「ふるさとチョイス」の運営を行っている企業です。
チェンジはトラストバンクを子会社化することによってシナジーを発揮できると判断し、事業領域の拡大を図りました。
2019年2月、大手人材サービス企業であるエン・ジャパン株式会社は、アウルスの株式を取得し子会社化することを発表しました。
アウルスは、Webサイトやアプリケーションのデザイン開発事業などを行っている企業です。
エン・ジャパンは採用ホームページなどの作成依頼を多数受けていることから、子会社化によって素早いニーズへの対応を図りました。
国内のスターアップがM&AによってEXITする事例は、米国と比較するとあまり多くありません。
しかし、IPOと比較するとM&AはスピーディなM&Aを実現することが可能です。
M&AによるEXITの認知度も増えていることから、今後は事例が増えていくと考えられます。
スタートアップのM&Aを検討している方は、ぜひ一度ACコンサルティングにご相談ください。