投稿日:2022/11/15
更新日:2022/11/16
ものづくり文化が盛んな日本では、産業用機械製造業の存在が必要不可欠です。
しかし、近年では新型コロナの影響によって市場規模は縮小しています。
また、人材不足や後継者不在といった課題を抱えている企業も少なくありません。
さまざまな理由により事業を続けることが難しくなった場合、M&Aによって売却することで廃業を回避することができます。
この記事では、産業用機械製造業の現業やM&A動向・売却するメリットなどを紹介していきます。
目次
産業用機械製造業とは、企業が製品を作るために使用する産業用機械を製造している業界です。
産業用機械は、建設機械・工業機械・医薬品製造機械など、製品製造に関わるさまざまな機械が該当します。
産業用機械は一般的な機械とは異なり、大量生産などは行わずに用途に合わせたものを製造する傾向があります。
発注があった場合に機械の製造を行うため、景気に左右されやすい業界といえるでしょう。
景気に影響を受けやすい産業用機械製造業は、新型コロナの感染拡大によって市場規模が縮小しました。
また、人材不足や後継者不足といった課題を抱えている傾向があることから、廃業する企業の数が増えていくことも考えられます。
廃業を回避する手段としてM&Aは有効であることから、売却の事例も増えていくことでしょう。
ここからは、産業用機械製造業界の現状などを解説していきます。
ものづくり業界を支えている産業用機械製造業は、機械業界全般の市場規模と連動しているといえるでしょう。
業界動向サーチが発表した「機械業界の現状と動向(2021年版)」によると、2020年から2021年における機械業界の業界規模は28兆4,941億円でした。
2018年度のピーク以降、業界の規模は徐々に縮小しています。
業界規模が縮小している理由として考えられるのが、新型コロナの感染拡大による影響です。
コロナ禍によって、感染防止の観点から稼働率が低下した工場などが増えていました。
景気に影響されやすい産業用機械製造業は、新型コロナの影響を大きく受けた業界といえるでしょう。
経済産業省が発表した2018年版ものづくり白書によると、2017年度に人材確保の状況に関して「大きな課題となっており、ビジネスにも影響が出ている」と回答した製造業者の割合は32.1%でした。
22.8%だった2016年度と比較すると9.3%増加しており、人材不足が深刻化しているといえるでしょう。
また、同じくものづくり白書に掲載されている「特に確保が課題になっている人材」に関しては、大企業・中小企業ともに「技能人材」が最も高いという結果でした。
業界の規模を問わず、技術力をもった人材の確保は大きな課題になっています。
令和3年、経済産業省が発表した「2020年工業統計速報」によると、2020年度における製造業の事業所数は18万1299社でした。
製造業の事業所数は2016年度をピークに徐々に減少し続けています。
製造業の数が減少している理由として考えられるのが、業績の悪化や後継者不足です。
中小規模の製造業者は、ネームバリューのある大手や、従業員の単価が低い国外企業との差別化が容易ではありません。
充分な利益を出すことができなければ、事業を続けることは難しいでしょう。
また、近年では後継者不足を理由として廃業する中小企業の数が増えています。
業績が良好だった場合でも、事業を引き継ぐ相手がいなければ事業を存続させることができません。
しかし、業績の悪化や後継者不足といった課題は、M&Aによる事業売却で解消を図ることも可能です。
そのような理由から、事業売却によって存続を図る製造業者の数は増えていくことも考えられます。
産業用機械製造業の売却・買収を行うことで、経営者はどのようなメリットを得ることができるのでしょうか。
まずは、産業用機械製造業を売却するメリットを紹介していきます。
事業承継といえば、最初に思い浮かぶものは親族内承継という経営者は多いでしょう。
しかし、近年では少子化や働き方の多様化などによって、親族内承継ができない事例が増えています。
次に考えられるのが従業員への承継ですが、株式買取の資金など財政面の負担から断られるケースも少なくありません。
従業員や親族に事業承継ができない場合、M&Aによる第三者への事業承継という方法があります。
M&Aによる事業承継は国内でも推奨されている傾向があり、補助金による支援なども行われています。
事業を承継する相手がいない方は、第三者への承継も一度検討してみましょう。
中小規模の産業用機械製造業者は、経営面で不安を抱えていることも少なくないでしょう。
M&Aによって大手に事業を売却した場合、傘下企業として経営を続けることができます。
経営基盤が整っている大手に加われば、安定した状態で経営を続けることも可能です。
経営の悪化や後継者不足などを理由に廃業した場合、従業員は新たな働き口を探さなければいけません。
従業員の生活に影響を与えてしまうことは、可能であれば回避したいと考える経営者も少なくないでしょう。
M&Aによって自社を売却すれば、廃業を回避し従業員の雇用をすることもできます。
M&Aによって自社を売却すれば、経営者は企業価値に応じた売却利益を獲得することが可能です。
高齢によって引退を考えていた経営者であれば、売却利益を活用することで老後の生活にゆとりをもつことができるでしょう。
企業価値が高く評価された場合は、資金を運用することでアーリーリタイアを図ることができるかもしれません。
若手の経営者であれば、売却利益を元手に新たな事業を始めるといったこともできます。
多額の資金を獲得できることは、M&Aによる事業売却の大きなメリットです。
産業用機械製造業の売却を考えている方は、買収する側のメリットも把握してスムーズな交渉を実現しましょう。
ここからは、産業用機械製造業を買収するメリットを4つ紹介します。
産業用機械製造業を新たに始めようとした場合、機器の導入や従業員の確保、工場の設立など行うべき項目は多岐に渡ります。
それらをゼロから確保するためには、多くの時間や多額の資金を用意しなければいけません。
しかし、産業用機械製造業を営む企業を買収すれば、時間やコストを大幅に削減することが可能です。
新規参入を図るためのM&Aは、業界を問わずさまざまな企業が実施しています。
企業の売却を考えている場合、同業種に限らず異業種への売却も一度検討してみましょう。
近年、製造業界ではAIやIoTの活用によって業務の効率化を図る企業が増えています。
それらの新技術を新たに導入しようとした場合、開発コストや多くの時間を要します。
その上、導入したことによって業務の効率化を確実に図れるとは限りません。
業務を効率化できる新技術を導入したい際には、M&Aによる買収は有効な手段です。
自社には無い技術を持ち利益を出している企業を買収すれば、スムーズに新技術を獲得することができるでしょう。
また、その技術に関して知識を持つ人材を獲得できることも、M&Aによる買収のメリットです。
産業用機械製造業の国内市場規模は、2016年以降減少傾向にあります。
そのような環境下で、国内で利益を増やし続けることは簡単ではないでしょう。
国外への進出を図りたい場合は、M&Aによって海外企業を買収することで、スムーズに事業を始める事ができます。
現地の従業員や設備を引き継げることも、海外企業を買収する大きなメリットです。
また、海外展開を図っている企業に自社を売却することで、売り手企業も間接的に海外市場に参入することができるかもしれません。
利益を増やす上で大切なことの1つに、業務の効率化というものがあります。
顧客やノウハウを共有することができれば、業務を効率化できるため、結果的に利益を増やすこともできるでしょう。
また、必要な資材を共有することによってスケールメリットを得られれば、経営を行う上でのコストを抑えることも可能です。
産業用機械製造業を実際に売却する際には、以下の流れで手続きを進めていきます。
まず最初は、M&A仲介会社に事業売却の相談をしましょう。
相談時には、自社の情報を資料にまとめておくとスムーズに話を進めることが可能です。
M&A仲介会社は、事業の経営状況などを考慮し、売却価格の算定や売却方法などを提案します。
相談後、事業売却を進めていきたいと思った場合は、仲介会社とアドバイザリー契約を結びましょう。
仲介会社と契約を結んだあとは、買い手企業探しに進みます。
買い手企業探しは、ノンネームシートと呼ばれる資料を使用し、仲介会社が主動となり実施されます。
ノンネームシートとは、企業名が特定されない範囲で企業の情報が記載されている書類です。
M&Aによって事業売却を行う際は、売却を検討していることが外部に広まらないように注意しましょう。
万が一従業員に広まってしまった場合、自社を売られるという意識からモチベーションが低下する恐れがあります。
取引先に広まってしまうと、経営状況が良くないのではと思われ、関係性が悪化することも考えられます。
情報の取り扱いには細心の注意を払い、売却を進めていきましょう。
ノンネームシートの内容を見て買い手が興味を示した場合、秘密保持契約を締結して情報を開示します。
情報の開示後、両企業が取引を進めていく意思を持った際にはトップ面談へと進みます。
トップ面談とは、経営者同士で初めて顔を合わせる面談の場です。
経営に関する考え方や将来のビジョンなどを話し合い、信頼関係を築き上げていきましょう。
また、M&A仲介会社にサポートを依頼した場合は、売却価格の交渉などは一任することが可能です。
金銭面の話を無理に行う必要がないため、信頼関係の構築に集中することができます。
トップ面談後、両企業の経営者がM&Aを進める意思を固めた場合は、基本合意契約書の締結を行います。
基本合意書とは、売却価格や今後のスケジュールなどが記載された書類です。
注意点として、基本合意契約書の項目は、一部を除いて法的な拘束力を有していません。
立ち位置としてはM&Aを進める意思を示すものであるため、後述するデューデリジェンスの結果次第では、基本合意書に記載されている売却価格などは変わることもあります。
基本合意契約書の締結が完了したあとは、買い手企業が売り手企業に対してデューデリジェンスを実施します。
デューデリジェンスとは企業の内部監査のことであり、買収する上でリスクとなる負債などが無いかを確認する作業です。
デューデリジェンスを実施する際は、売り手企業が買い手企業に対して資料の提出などを行います。
信頼関係を高めつつ、スムーズにM&Aを進めるためにも、売り手企業は可能な限り協力をしましょう。
デューデリジェンスが完了したあとは、両企業同士で再度交渉を行います。
調査によって買収リスクが見つからなければ、基本合意契約書に記載された内容に基づいて最終的な条件を擦り合わせていきましょう。
万が一デューデリジェンスによって買収リスクが発覚した際には、条件の交渉を再度行います。
買収価格の調整やM&A手法の変更などによって、両者が納得する条件を定めていきましょう。
交渉後、両企業がM&Aを実施すると決めた場合は、最終合意契約を締結します。
最終合意契約を締結したあとは、クロージング作業を進めていきます。
クロージングとは、最終合意契約の内容に基づいて、経営権の譲渡や株式の引き渡しなどを行う作業です。
指定日にそれらの作業が終われば、M&Aによる事業売却は完了です。
M&Aによる事業の売却方法には、用途に合わせて使用できるさまざまな手法が存在します。
ここでは、産業用機械製造業を売却する手法を3つ紹介していきます。
株式譲渡とは、株式の売却によって経営権を譲渡する、M&Aにおいて最も使用されている取引の手法です。
株式の引き渡しのみで行うことができることから、他の手法と比較すると手続きが容易というメリットがあります。
また、株式譲渡は企業が存続したまま経営権が移るだけであるため、実施後も会社は変わらずに経営を続けることが可能です。
注意点として、会社をそのまま引き渡すという形になるので、企業が行っている事業はすべて買い手へ引き継がれてしまいます。
特定の事業のみを承継したい場合には、後述する事業譲渡も検討してみましょう。
事業譲渡とは、事業の一部または全てを切り離し買い手へと譲渡するM&Aの手法です。
事業譲渡は売却する対象を選択することができるため、自社で利益が出ていない部門のみを売却するといったことが可能です。
売却利益を他の事業に回せば、特定の事業に注力することもできるでしょう。
また、買収する上でリスクとなる要素を切り離すこともできるため、赤字を抱えている企業でも買い手を見つけやすいというメリットもあります。
注意点として、事業譲渡は譲渡対象ごとに契約を結ぶ必要があるため、株式譲渡よりも手続きが煩雑です。
競業避止義務によって、同じ事業を始める際に制限が設けられることも把握しておきましょう。
合併とは、M&Aによって2つ以上の法人が1つになることであり、「新設合併」と「吸収合併」の2つが存在します。
新設合併とは、新たに設立した企業に両企業の経営権を承継することです。
必要な手続きが多いというデメリットはありますが、両企業が対等な立場という印象をもたれやすいことから、従業員のモチベーションを維持しやすい取引手法といえるでしょう。
吸収合併とは、一方の会社に権利義務などをすべて譲渡し、もう一方の法人を消滅させる手法です。
新設合併のように対等なイメージは持たれにくいですが、手続きは比較的進めやすいというメリットがあります。
また、合併は他の手法と比較するとシナジーが生まれやすいという強みも有しています。
反面、複数の企業を1つにまとめることから、他の手法よりも統合作業に時間がかかるため注意しましょう。
産業用機械製造業を売却したい場合は、以下のポイントを抑えておきましょう。
まず最初に紹介するポイントは、自社独自の強みを見つけておくことです。
買い手企業は、買収後にどれだけ利益を生み出せるかによって売り手企業を選定します。
目立つような強みが無ければ、買い手企業が買収を希望する可能性も減少するでしょう。
反対に、独自の強みを有していれば買い手企業の目に留まるため、相手探しをスムーズに行えるかもしれません。
企業の売却を行う際は、自社を第三者の視点から分析して、客観的に見て魅力的に映る要素を探しましょう。
2つ目のポイントは、従業員を可能な限り確保しておくことです。
製造業界には、人材不足を課題と考えている企業が数多く存在しています。
M&Aによる買収は人材補充に有効な手段であることから、従業員数に注目して売り手企業を選定する経営者も少なくないでしょう。
従業員を多数確保しておくことは、M&Aによる売却を成功させるポイントになります。
また、技術力を持った人材を求めている企業も多いため、普段から人材育成に力を入れておくこともポイントです。
3つ目のポイントは、利益が出ているタイミングで売却を行うことです。
売却価格を算定する際には、企業が年間に生み出している利益も考慮されます。
充分な利益が出ていない企業であれば、必然的に売却価格も低くなることでしょう。
自社をなるべく高く売りたい場合は、充分な利益が出ているタイミングで売却することが大切です。
ただし、利益が出ていない企業は、必ずしも売却できないというわけではありません。
他社には無い強みがあれば、買収する企業が現れる可能性は充分にあります。
赤字が続いている場合でも、諦めずに仲介会社などに相談してみましょう。
最後のポイントは、M&A仲介会社に相談することです。
M&Aによって事業を売却する際には、買い手との交渉やデューデリジェンスなど、やるべきことが複数あります。
それらを個人で進めることは容易ではないため、仲介会社などの専門家にサポートを依頼しましょう。
また、ACコンサルティングでは、事業の売却を完全成果報酬型で支援しています。
M&Aに関する相談も無料で対応しているので、不安を抱えている方はお気軽にご相談ください。
産業用機械製造業を売却する場合、平均的な売却価格はどれくらいになるのでしょうか。
結論から述べると、業界を問わずM&Aによる企業の売却価格の相場は、一概に決めることができません。
売却価格を決める際には、企業が持つ資産や株式の価格など、さまざまな要素を考慮した上で決められます。
それらは企業ごとに大きく異るため、相場を決めることは困難といえるでしょう。
ただし、自社の売却価格の目安であれば、「年買法」という評価方法を使用することで求めることができます。
年買法とは、時価純資産額に2~5年分の営業利益を足すことで、企業価値の評価を行う手法です。
年買法は客観性が高く容易に求められることから、中小企業のM&Aにおいて使用されることが多くあります。
年買法を含め、企業価値の簡易計算方法を知りたい方は、下記の記事もご参照ください。
【関連記事】企業価値簡易計算の方法!企業価値の上げ方・高めるメリットも紹介
産業用機械製造業界には、さまざまなM&Aの事例が存在します。
売却を成功させるヒントを得るためにも、どのような事例があったのかを把握しておきましょう。
ここからは、産業用機械製造業界の売却・買収事例を5つ紹介します。
2016年10月、工業用ベルトや樹脂加工分の製造や販売をグループ展開しているポバール興業は、日新製作所の株式を取得し子会社化することを発表しました。
日新製作所は、ポンプ・試験機・食品機械など、産業用機械の製造やメンテナンスを手掛けている企業です。
ポバール興業は機械設備のニーズがあったことから、日新製作所との連携によってグループ全体の企業価値向上を図りました。
2022年10月、フードサービス機器の開発・製造・販売を手掛けているホシザキ株式会社は、株式会社ナオミの全株式を取得したことを公表しました。
ナオミは、全国6箇所に拠点を持ち、食品製造工場などに充填機を提供している企業です。
ホシザキはナオミとの顧客が重ねっていることからシナジーが発揮できると判断し、子会社化によって事業基盤の強化を図りました。
2022年10月、掘削に使用するボーリング機械の製造及び販売を手掛けている鉱研工業は、クリステンセン・マイカイを完全子会社化することを発表しました。
クリステンセン・マイカイは、70年間ボーリング事業に携わっている企業です。
鉱研工業は、各企業が得意とする分野を活かし、ともに発展していくことを目指しました。
2022年11月、学校・医療機関・大手飲食チェーンなどに向けた業務用厨房機器の製造及び販売を行っている中西製作所は、三協機設の株式を取得し子会社化することを公表しました。
三協機設は、厨房機器製造業界を支える板金製品の製造を行っている企業です。
三協機設をグループに迎え入れることによって、中西製作所は強固な事業基盤の構築を図りました。
2022年10月、金属用部品の製造及び販売を行っているパンチ工業は、ASCeの全株式を取得し子会社化することを発表しました。
ASCeは、工場の自動化を図る機械であるFA機器の製造を行っている企業です。
パンチ工業はASCeの子会社化によって、FA領域における特注品の販売拡大を実現し、グループ内での中長期的な企業価値向上を図りました。
産業用機械製造業を含む製造業の数は、年々減少傾向にあります。
日本のものづくり文化を支える企業が減少することは、他の業界で事業を行う企業にとっても望ましくないことだと考えられます。
後継者不足や経営不振などによって存続が難しい場合は、M&Aによる事業売却を検討してみましょう。
産業用機械製造業の売却を検討しているかたは、ぜひ一度ACコンサルティングにご相談ください。