投稿日:2022/06/24
更新日:2022/09/24
企業価値の評価価格は、M&Aを行う上で売買価格に大きく影響します。
売り手と買い手の交渉は、算出した企業価値を基準に行うため、適切な企業価値を見極める必要があるでしょう。
では、企業価値の評価はどのようにして算出されるのでしょうか?
この記事では、企業価値評価の算出方法、メリットや注意点などを解説します。
目次
企業価値評価(バリュエーション)とは、企業が持つ価値を算出するための手法の総称です。
企業価値には会社の値段という意味があり、事業価値が大半を締めていることから「エンタープライズバリュー(EV)」と呼ばれることもあります。
評価の際は株式の価値を基準とすることがありますが、上場していない企業の場合、株式の価値を算出することは容易ではありません。
そういった理由から、企業価値の評価にはさまざまな方法があります。
また、企業価値評価は、M&Aを行うとき以外にも、金融機関が投資額を算出するときなどに使われることもあります。
企業価値評価の算出は、M&Aを実施する上で必須であるといえるでしょう。
買い手企業と売り手企業の交渉は、算出した企業価値の価格に基づいて行われます。
ほとんどの場合、売り手企業は仲介会社などにM&Aを依頼した段階で、企業価値の評価を行っています。
そこで算出した金額をもとに、売り手企業は買い手企業との交渉を進めます。
しかし、買い手企業も交渉を行う上で、相手企業の価値を調べなければ、公平な交渉を進めることは難しいでしょう。
買い手企業・売り手企業ともに、企業価値の評価は必須事項といえます。
企業価値の評価を行う理由は、売り手企業の経済状況を具体的に把握するためです。
それでは、なぜ売り手企業の経済状況を把握する必要があるのでしょうか?
ここでは、売り手企業と買い手企業の目線に分けて解説します。
売り手企業側は、より高い金額で事業を売却したいと考えるのは当然のことであるといえるでしょう。
しかし、企業を高く売りたいからといって、市場価格に見合わない金額を提示したり、自分が獲得したい額を提示してしまえば、買い手企業を見つけることは困難になります。
買い手企業が見つからなければ、M&Aを行うために費やした時間やコストが無駄になってしまいます。
売り手企業は自社の価値を正しく認識して、予測される価値や株式の価格を適切に算出し、目安となる金額を定めておく必要があるでしょう。
買い手企業側は予算を抑えて買収できれば、余った資金を他に回すことができるといったメリットがあります。
しかし、売り手企業に相場を大きく下回る金額を提示してしまうと、M&Aが成立する確率は大幅にさがるでしょう。
反対に、あまりにも高すぎる金額で買収してしまうと、相場を超えた分の資金が無駄になってしまいます。
買収後に生み出した利益を大きく下回ってしまえば、M&Aを行った意味がなくなるでしょう。
買い手企業は、その企業の価値を正しく認識し、適切な価格で買収を行う必要があります。
また、買い手企業が株式譲渡によって企業を買収した場合は、売り手企業が抱えている負債も引き継ぐことになります。
売り手企業が抱えている負債も加味して、適切な買収価格を提示しましょう。
「株式価値」と「企業価値」は、似ているようで異なる意味があります。
株式価値とは、企業が持つ価値のうち株主に帰属する部分のことです。
株式価格に有利子負債を足したものが企業価値となり、数式で表すと以下のようになります。
企業価値=株式価値+有利子負債
似たような言葉ですが、意味を混在しないように注意しましょう。
上場している企業の場合は、市場に公開している一株あたりの株価に、発行している株価の総数を掛けた値が目安になります。
株式市場には多数の人物が関わっていることから、客観性のある価格が提示されているといえるでしょう。
株価には時価も反映されているため、その時々の企業の価値を算出することができます。
注意点として、株価は情勢や企業の動きによって変動することがあるため、一定時期の株価から判断することはできません。
長期間の株価の動きを見ればある程度の目安を算出することができますが、企業の将来性などを加味して計算することは難しいでしょう。
そのような理由から、上場企業の価値は株価だけでは算出せずに、将来性などを予測して適切な企業価値を求める必要があります。
非上場会社の場合は、上場企業と異なり株式市場で取引が行われていないため、基準となる株価がありません。
そのため、非上場企業の企業価値の目安となる金額は、さまざまな方法で求める必要があります。
例としてあげられるのが、企業の持つ純資産をもとに市場価値を算出する方法です。
純資産とは、対象企業の営業利益から負債額を差し引いた金額のことで、この値を目安して企業価値を評価することもあります。
他にも、企業の将来性を加味して計算する方法や、類似した上場企業の株価を参考にする方法など、さまざまな方法を使用して企業価値を算出することが可能です。
非上場企業の企業価値評価は、それらの方法を組み合わせて行います。
企業価値評価を行う方法は、大きくわけると「インカムアプローチ(収益)」「コストアプローチ(資産)」「マーケットアプローチ(市場)」の3つに分類できます。
企業価値を算出する際は、これらの方法を組み合わせて計算します。
複数の算出方法から導き出された企業価値の価格から、適切であるといえる金額を考えて交渉をおこないます。
より精度の高い交渉を行うためにも、それぞれの算出方法を理解して、適切な企業価値を導き出しましょう。
ここからは、企業価値を算出する方法について解説します。
インカムアプローチとは、将来的に予想される収益をもとに、適切な企業価値を評価する方法です。
将来生み出す利益を求める際は、「キャッシュフロー」から計算することがあります。
キャッシュフローとはお金の流れのことであり、獲得した利益から流出した金額を差し引いたものです。
インカムアプローチは企業の将来性も加味していることから、M&Aにおいて使用される機会が多い手法です。
また、インカムアプローチには主に以下の3種類があります。
ここでは、インカムアプローチの方法を個別に解説します。
DCF法(ディスカウントキャッシュフロー方式)とは、会社が将来的に生み出す資産価値をフリーキャッシュフローを元に算出する方法です。
DCF法を使用する際は、フリーキャッシュフローから算出した金額に割引率を掛けて計算します。
フリーキャッシュフローとは、その企業が生み出している利益の中から、自由に使用できる資金の額を示したものです。
割引率とは将来見込まれる利益を、金利などから現在の価値に直し算出した値です。
企業が持つ将来性も加味されるため、発生するシナジーも含めた企業価値を算出することができます。
DCF法はフリーキャッシュフローを基準に割引率を掛けて計算するため、さまざまな要素を反映した企業価値を算出することが可能です。
ただし、割引率の値は将来的に発生する利益を予測して算出されるため、主観が含まれてしまうというデメリットもあります。
DCF法は、企業価値評価方法の中で最も合理的な方法であるとされており、使用頻度の高いインカムアプローチにおいても特に使われています。
DCF法のメリット | 将来的に生み出す価値を含めた合理的な価値を算出できる |
DCF法のデメリット | 将来生み出す価値を予測するため、評価の結果に主観が含まれてしまう |
収益還元法とは、起業が一定のペースで成長していくと仮定して、予測される利益を現在の価値に戻して算出する企業価値の評価方法です。
収益還元法で算出する際は、事業計画書に基づいて収益を算出します。
事業計画書とは、事業内容や企業戦略、将来見込まれる収益を記載した書類です。
収益還元法では事業計画書を基準として計算するため、将来見込まれる収益の予測を容易に行うことが可能です。
他の方法と比較するとスピーディーに算出できるため、おおよその企業価値を算出するには有効な手段であるといえるでしょう。
財務状況が判明している企業を効率よく評価できるため、M&Aを行う企業の候補を選定する際にも便利な方法です。
しかし、企業価値が一定のペースで成長していくという前提で算出されるため、正確な企業価値が判断しにくいというデメリットもあります。
精度の高い企業価値評価を行いたい場合には、DCF法の方が適しているといえるでしょう。
おおよその企業価値を簡易的に知りたい場合にはおすすめの企業価値評価方法です。
収益還元法のメリット | 目安となる企業価値を簡易的に算出できる |
収益還元法のデメリット | 一定のペースで企業価値が向上するという前提のため精度が低い |
配当金還元法とは、将来的に予測される配当金の額を、現在の価値に戻して計算する企業価値の評価方法です。
配当金の額は、収益還元法と同じく一定のペースで増加していくと予測して計算します。
配当金還元法は、企業が生み出している利益と株の配当金が正しくマッチしているときに有効な評価方法です。
ただし、配当金の額は企業の判断によって変化するため、正確な企業価値が算出されるとは限りません。
企業同士のシナジーを評価基準に含めることが多いM&Aにおいては、あまり採用されることのない方法です。
ほとんどの場合、インカムアプローチでの企業価値評価を行う際は、DCF法や収益還元法を使用する方がよいでしょう。
配当還元法のメリット | 適切な配当政策を行っている場合は使用できる |
配当還元法のデメリット | 配当金額に左右されるため変動しやすい |
コストアプローチとは、企業の純資産額をベースとして企業価値を算出する評価方法です。
コストアプローチにはさまざまな呼称があり、「ストックアプローチ」「ネットアセットアプローチ」「アセットアプローチ」ということもあります。
コストアプローチは、企業の純資産額を基準とすることから、客観性のある企業価値を算出することが可能です。
加えて、事業計画書などを作成する必要がないため、インカムアプローチよりも評価がしやすいという特徴もあります。
反対に、コストアプローチによる評価には、企業が生み出す将来的な利益が含まれないというデメリットもあります。
それらの特徴から、コストアプローチは企業の将来性が正しく判断できない場合に有効な手段と言えるでしょう。
コストアプローチによる算出方法は、主に以下の2つが挙げられます。
ここでは、コストアプローチの算出方法を2つ紹介します。
簿価純資産法とは、帳簿に記された企業の純資産額をベースとして1株あたりの価値を算出する評価方法です。
簿価とは、会計帳簿に記された資産額や負債、資本の評価額のことで、正式には帳簿価格といいます。
帳簿に記載されている純資産額が基準となって計算されていることから、客観性に優れた企業価値評価を行うことが可能です。
加えて、株式の価値が不明確な中小企業でも、おおよその株式の価値を求めることができます。
ただし、簿価は一定時期に算出した値であるため、記載されている金額は正しいとは限りません。
現時点における企業価値を算出したい場合は、後述する時価純資産法を使用したほうがよいでしょう。
一定時期の企業価値をもとに、他社との比較をしたい場合に有効な手段です。
簿価純資産法のメリット | 特定の時期の企業価値を評価することができる |
簿価純資産法のデメリット | 現時点での企業価値が算出できない |
時価純資産額評価法とは、企業が所有する全ての資産や負債を、時価になおして算出する計算方法です。
時価とは現時点での市場価格のことであり、時価資産算出法を使用することで、簿価純資産法よりも精度の高いコストアプローチを行うことができます。
簿価純資産法と同じく資産に基づいて算出されるため、客観性のある企業価値の算出を行うことが可能です。
注意点として、将来的に含まれる企業の価値は含まれないため、使用する際はDCF法と組み合わせて判断するのがよいでしょう。
また、時価総額の算出方法は、「再調達原価法」「清算価値法」に細分化することができます。
時価純資産法のメリット | 現時点での時価に基づいた企業価値の算定ができる |
時価純資産法のデメリット | 企業の将来性は計算に含まれていない |
再調達原価法とは、企業が所有する全ての資産や負債を、現時点で再度取得する場合の価格に直して算出する評価方法です。
再調達原価法によって求めた企業価値は、その企業を新たに立ち上げる際にかかる費用と同等のものであるといえるでしょう。
再調達原価法は、買い手企業側にとって「買収をするべきか」「新規に立ち上げるべきか」を判断するのに有効な手段です。
売り手企業にとっても、客観性のある企業価値を高い精度で知りたい場合に便利です。
清算価値法とは、企業が所有している資産を売却した額から、負債額を差し引いた金額を求めることです。
清算という言葉の通り、企業を倒産させる際に残る金額と同等といえるでしょう。
ほとんどの場合、清算価値法によって求めた金額は、株式価値を算出するときの下限の値になります。
マーケットアプローチとは、市場で成立しているM&Aの買収事例などを参考にして、企業価値を算出するアプローチ方法です。
買収事例だけではなく、株式市場を参考にして企業価値を算出するケースもあります。
上場している企業においては、類似している企業の事例を見つけることが比較的容易であることから、スムーズに企業価値を算出できる方法といえるでしょう。
自社が上場していない場合でも、市場規模の大きい業界であれば、類似した企業の株価を参考に企業価値を算出することができます。
マーケットアプローチは市場がベースとなっているため、客観性と将来性のどちらの要素も取り入れた公平なアプローチ方法といえるでしょう。
マーケットアプローチの方法は、主に以下の4種類があります。
ここでは、マーケットアプローチによる評価方法を個別に解説します。
類似企業比較法とは、類似企業の株価などを参考にして、対象とする企業の価値を算出する評価方法です。
上場している企業の株価から倍率を計算して行うことから、マルチプル法(倍率法)といわれることもあります。
類似企業比較法は、DCF法などのインカムアプローチと比較すると、計算が容易であるという特徴があります。
類似した上場企業の株価を参考にするため、上場していない中小企業などでも客観性のあるデータをもとに株価を算出することが可能です。
インカムアプローチは将来的な企業価値を算出するため、複雑な工程を挟む必要があります。
対して、類似企業比較法は対象企業の企業価値を算出して、一定の倍率をかけ合わせることで算出できるため、複雑な計算を要しません。
加えて、評価基準が市場価値であることから、インカムアプローチよりも客観性をもって算出することができます。
ただし、類似企業比較法は基準とする企業の選定によって、評価金額が大きく変わってしまうという欠点もあります。
株式価値も時期によって異なるため、算出価格に幅が生じやすい評価方法です。
類似企業比較法のメリット | 客観性のある企業価値を算出できる |
類似企業比較法のデメリット | 環境によって算出価格にバラつきが出やすい |
類似取引比較法とは、買収対象と類似した企業のM&A事例をもとに、自社の財務状況と比較した倍率を掛けて企業評価を算出する評価方法です。
類似取引比較法を使用する際は、買収企業の特徴を調べて、規模や事業の内容が近い企業のM&A事例を複数選定して行います。
この方法は、M&Aの類似事例が多い業界や、上場企業などで頻繁に使用されます。
ただし、中小企業の場合は類似企業の財務状況や、M&A事例の取引価格が公表されていないことが多いため、使用できる条件が限られているため注意が必要です。
実際の取引価格も、財務状況や株価だけでなく生み出せるシナジーなどが加味されているため、取引の内容も詳しく確認しなければなりません。
類似した事例が複数ある場合は、複雑な計算も必要ないため、事例という客観性のある企業評価を算出できる方法といえます。
類似取引比較法のメリット | 事例という客観性の高い内容をもとに企業評価を算出できる |
類似取引比較法のデメリット | 類似企業の財務業況が不明確で取引事例が少ない場合は使用できない |
市場株価法とは、株式市場で公開されている株式価格をもとに、企業価値を算出する評価方法です。
市場株価法を使用する際は、直近1~6ヶ月分の株式価格をベースとして、平均した株価をもとに算出します。
参考にする時期は、評価の目的によって選定されます。
また、算出に使用する株式に異常値が含まれている場合は、それを除外して株価を算出することでより公平な企業価値を評価することが可能です。
注意点として、市場に公開している株価を参考に算出するという特性から、上場していない中小企業などは使用することができません。
中小企業がマーケットアプローチを行う際は、類似企業比較法などを使用するとよいでしょう。
株式市場には多数の人物が関わっているため、上場企業がM&Aを行う際には最も客観性のある評価方法といえます。
市場株価法のメリット | 株式市場に公開されている価格を参考にするため、最も客観性のある企業価値の評価が行える |
市場株価法のデメリット | 株式市場に株価が公開されている必要があるため、上場していない中小企業などは使用できない |
類似業種比較法とは、買収企業と同じ業種の上場企業の株価を参考にして、非上場企業の株価を算出する評価方法です。
類似業種比較法は、国税庁が財政を評価する際に使用されています。
国税庁で使用されている理由は、親族内承継などを行う際に株価を操作してしまう取引価格が増減してしまうため、操作ができない評価方法を使用する必要があるためです。
類似業種比較法は売却企業の意思によって価格が変動しないため、贈与の際の税金を正しく算出することができます。
ただし、類似業種比較法には、買収企業の将来性が評価内容に含まれていないというデメリットがあります。
企業が生み出す将来的な利益はM&Aにおいて重要であることから、基本的に買収価格を算定する際には使用されません。
マケットアプローチにて企業評価を行う際には、他の評価方法を使用したほうがよいでしょう。
類似業種比較法のメリット | 買収の対象となる企業の意思によって評価を変動することができない |
類似業種比較法のデメリット | 企業の将来性が評価基準に含まれていないため、M&Aに適していない |
ここまで企業価値の算出方法を複数紹介してきましたが、その中で最も使用されることが多いのが、インカムアプローチに含まれるDCF法です。
インカムアプローチによる企業価値評価には、M&Aにおいて重要視されやすい将来性が計算時に加味されます。
インカムアプローチの中でも、キャッシュフローを基準にして企業価値を評価するDCF法は、最も妥当性のたかい企業価値評価方法であるといえるでしょう。
DCF法で算出した企業価値をもとに、現時点での株価が妥当であるかを判断するといったこともあり、他の評価方法を使用する際にも基準として使用することができます。
では、DCF法によって企業価値を評価する際は、具体的にどのような手順で行うのでしょうか?
ここからは、DCF法の計算方法を解説します。
DCF法を使用して企業価値を評価する際は、以下の手順で進めていきます。
DCF法を使用して企業価値を評価する際は、最初に将来のフリーキャッシュフローを予測します。
先述しましたが、フリーキャッシュフローとは、獲得した利益の中から自由に使用できる資金を算出したもので、「FCF」と称されることもあります。
フリーキャッシュフローを計算する際は、以下の数式を使用します。
フリーキャッシュフロー=営業活動のキャッシュフロー - 投資したキャッシュフロー
上記の計算方法によって、フリーキャッシュフローを算出することができます。
ただし、中小企業はキャッシュフローを作成する義務がないため、数式に使用する値が不明確なこともあるでしょう。
そのような場合は、複雑にはなりますが以下の式を使用してフリーキャッシュフローを計算することが可能です。
フリーキャッシュフロー=営業利益×(1-税率)+減価償却費-(設備投資額+運転資本金)
基本的な考え方は、どちらの方法も大きく変わりません。
上記2つの計算方法をもとに、将来的に将来的に獲得できるフリーキャッシュフローを予測しましょう。
将来的なフリーキャッシュフローの値が予測できたら、割引率を算出します。
割引率を算出する理由は、将来獲得できるキャッシュを現在の価値に変換するためです。
DCF法において、割引率は「加重平均コスト」を求めることで算出できます。
加重平均コストは、「借入コスト」と「資本調達のコスト」を加重平均したものです。
具体的に説明すると、借入コストは、金融機関などから資金を借りる際にかかる金利などが当てはまります。
資本調達のコストは、株式による資金調達を行っている場合に株主から求められる期待収益率です。
割引率を算出する際には、上記のコストを使用して割引率を求めます。
例として、企業がの負債が10億円、資本金が20億円であると仮定します。
負債の金利が5%、株主からの期待収益率が10%であるとすると、加重平均コストは以下のように求めることが可能です。
5%×10億÷30億 + 10%×20億÷30億 = 約8.3%
このような場合は、企業の買収後は8.3%以上の利回りをM&Aによって獲得する必要があります。
割引率の算出が完了した後は、残存期間の算定に進みます。
残存価値(ターミナルバリュー)とは、将来的に予測されるフリーキャッシュフローよりも後の価値を計算した値のことです。
残存価値の算定は、事業活動を永続的に安定して運営できるものと仮定して計算します。
残存価値の算定は、以下の方法で行います。
残存価値=将来的に見込まれるフリーキャッシュフローの金額 ÷ 割引率
また、事業が継続して成長していくと仮定した場合は、下記の計算式を使用することもあります。
残存価値=将来的に見込まれるフリーキャッシュフローの金額 ÷ (割引率-永続成長率)
注意点として、ここで求めた残存価値はDCF法にて求められる企業価値の大半を占めるため、永続成長率などを高く設定してしまうと、企業価値が高くなりすぎてしまう恐れもあります。
残存価値を算出する際は、第三者の意見も含めて、現実的な値を求める必要があります。
残価価値の算定が完了した後は、現在の事業価値を算出します。
現在の事業価値は、算出した「フリーキャッシュフロー(FCF)」「割引率」「残存価値」を使用して求めます。
現在の事業価値を求める理由は、「将来の価値」と「現在の価値」が同じであるとは限らないからです。
例として、現在所有している100万円を年利10%で運用していくと仮定しましょう。
運用した結果、一年後は110万円になると考えた場合、一年後の110万円と現在の100万円は同等の価値となります。
これらの要素を加味すると、将来獲得できる利益は現在の価格よりも高くなるでしょう。
反対に、将来獲得できる資金は、現在価値に変換すると金額が下がります。
つまり、将来獲得できると予想される事業価値は、現在の価値と異なるため、適切な価格に戻す必要があります。
例として、フリーキャッシュフロー(FCF)の値を3年目まで算出していた場合、企業価値を現在価値は以下の式で算出できます。
現在の事業価値=1年目のFCF÷(1+割引率) + 2年目のFCF÷(1+割引率)²
+ 3年目のFCF÷(1+割引率)³ + 残存価値÷(1+割引率)³
このような方法で、現在の事業価値を算出することができます。
ここまでの手順によって、事業価値を算出することができました。
しかし、実際にM&Aを行う際には株式を取得して買収を行うため、株式価値を算出しなければなりません。
事業価値を株式価値に変換するためには、まず最初に企業価値を求める必要があります。
企業価値は、事業価値に非事業用資産を加えることで算出することが可能です。
非事業資産とは、フリーキャッシュフローに含まれていない資産のことであり、固定資産や有価証券などが含まれます。
算出した企業価値から有利子負債をマイナスすることで、株式価値を求めることができます。
ここまでは、企業価値を評価する方法や、DCF法の計算方法などを紹介してきました。
では、実際に企業価値評価を挙げるためにはどのような方法が挙げられるのでしょうか?
企業価値評価を上げる方法は、主に以下の4つが挙げられます。
1つ目は、無駄なコストの削減することによって企業価値を高めるという方法です。
DCF法を例に上げると、企業価値を評価する際は、企業が自由に使用できる資金であるフリーキャッシュフローをベースに計算します。
フリーキャッシュフローを求める際に、毎年発生する資金が高ければ算出金額は下がるでしょう。
反対に、設備投資額や運営資本金などを削減することができれば、フリーキャッシュフローを増やすことが可能です。
つまり、事業を行う上で無駄なコストが合った場合、それを削減することで企業価値を高めることができます。
企業価値を高めたい場合は、一度自社の財務状況を確認してみましょう。
入念に見直すことで、無駄な部分にコストを掛けすぎていたことが判明するかもしれません。
2つ目は、事業の収益を向上させることで、企業価値を高めるという方法です。
企業価値の算出には、企業が将来生み出すと予測される利益を計算に含みます。
事業の収益を向上させることができれば、それに乗じて企業価値も高めることが可能です。
事業の収益を向上させる方法は、ビジネスモデルやリソースの見直しなどが挙げられます。
自社の強みを把握して、それを生かしたビジネスを立ち上げることも有効な手段といえるでしょう。
さまざまな視点で事業を見直すことで、収益を向上させるヒントがみつかるかもしれません。
3つ目は、生産性を向上させることによって企業価値を高めるという方法です。
生産性を挙げることで利益を増やすことができれば、企業価値を高めることもできるでしょう。
生産性というのは無形の資産ですが、収益を増やすための重要な要素です。
生産性を向上させる方法として、従業員のスキルを高めたり、労働環境の見直しなどが挙げられます。
従業員一人ひとりのスキルが高まれば、相対的に生産性は向上します。
労働環境を見直すことで、従業員のモチベーションが高まれば、労働に対する意欲も上がり企業価値も上がる可能性があるでしょう。
また、モチベーションを維持できれば、人材が流出するリスクも抑えることができます。
生産性を挙げることは、事業を行う上で長期的なメリットがあるでしょう。
企業価値評価の手法は、主に「インカムアプローチ」「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」の3つに分けることができます。
それらの評価方法の違いを把握することで、さまざまな観点から企業価値を評価することができるでしょう。
また、企業価値評価において最も利用することが多いのは、インカムアプローチに含まれるDCF法です。
DCF法の算出方法を把握することで、売り手企業側は企業価値を向上させるための糸口が見つかるかもしれません。
買い手企業も、企業価値の評価方法を把握しておくことで、企業が持つ将来性などを正しく判断することができるでしょう。
企業価値評価の方法を理解して、より有益なM&Aを行うことが大切です。