投稿日:2022/06/18
更新日:2022/11/12
個人で開業している診療所は、法人開設した医院とは承継の方法が異なります。
では、個人診療所の事業を譲渡するには、どのような方法があるのでしょうか?
この記事では、個人診療所の譲渡先や流れ、注意点などを解説します。
目次
個人診療所とは、医師が診療及び経営を行う責任者となって運営している診療所です。
個人診療所は医療法人とは異なり、営利目的での運営が可能という特徴があります。
ただし、開設できる数は一箇所のみと決められているため、新たに診療所を立ち上げることはできません。
また、個人診療所を引き継ぐ際は、一度廃院届けを提出した上で、承継者が開設届けを出す必要があります。
法人化していない個人診療所が事業を引き継ぐ場合は、事業譲渡と呼ばれる方法で承継を行います。
事業譲渡を行う際は、診療所が持つ事業用資産や不動産の使用権利などが引き継ぎの対象になります。
基本的に、雇用契約を結んでいた従業員は対象には含まれていません。
従業員を引継ぎたい場合は、承継者が再度従業員と雇用契約を結ぶ必要があります。
また、医療法人が承継を行う場合とは異なり、抱えている負債などは承継者に引き継がれません。
近年では、休廃業や解散をした診療所の数は増えています。
休廃業などが行われている理由としては、代表者の高齢化などを挙げられます。
後継者を置かずに経営を行っている個人診療所は多く存在しており、高齢化が進むことで廃業といった選択肢を取る診療所は増えるでしょう。
また、コロナ禍によって設備や人材の確保が負担となり、廃業を早めてしまうケースも存在します。
これらの理由から、個人診療所の後継者不足は増え続けることが予想されます。
個人診療所の譲渡先は、子供や親族への承継と、資格を持っている第三者への承継の2つが挙げられます。
ここでは、個人診療所の譲渡先について個別に解説します。
親族へ事業譲渡を行う際は、親族が診療所の運営を行うためのノウハウを所持している必要があります。
親族内承継を検討している場合は、事業承継をするタイミングを決めて、譲渡後も運営できる状況を作っておきましょう。
また、生前に事業譲渡を行うことで、相続として譲渡するよりも税負担を抑えることができます。
注意点として、生前に贈与を行っていても、3年以内に亡くなってしまうと相続税の課税対象に含まれてしまいます。
親族内承継は、前任者が病気などになる前に余裕を持って行いましょう。
第三者への相続は、親族内に後継者がいない場合の譲渡方法として有効です。
親族内承継を行う際は、承継者を育成するための期間がかかるため、長期的なスパンで事業承継について考える必要があります。
一方、第三者への譲渡は承継者を育成する必要がありません。
加えて、事業譲渡を行った際には、年間所得などに応じた譲渡対価を獲得することができます。
第三者への譲渡は、資金難などで経営が難しい場合の手段としても有効です。
注意点として、第三者への事業譲渡を行う際は、信用できる買い手を探す必要があります。
買い手を探す際は、仲介会社などの専門家に依頼しましょう。
個人診療所を譲渡する際は、どのような流れで行えばよいのでしょうか。
ここからは、親族に承継する流れと、第三者に承継する流れを解説します。
親族に個人診療所を譲渡する場合は、以下の流れで進めます。
まずは、親族が個人診療所を承継する意思をもっているのかを確認しましょう。
前任者が親族に承継するものだと思っていても、相手がその意思を持っているとは限りません。
すれ違いを起こさないためにも、承継についてはあらかじめ話し合っておくことが大切です。
また、親族に承継する意思があった場合は、譲渡後の経営を任せられるようにサポートをしましょう。
親族の意思を確認したら、経営方針について話し合いましょう。
前任者と承継者が共通の意識を持っていない場合、承継後にスタッフとの間ですれ違いが生じる可能性があります。
個人診療所のあり方を変えないためにも、経営方針や理念などは引き継いでおく必要があります。
一通り話し合いが完了したら、事業作成書の作成を行いながら課題を洗い出しましょう。
経営になにか問題を抱えていれば、承継後の運営に支障をきたす可能性があります。
前任者を承継者で話し合いを行い、将来のビジョンを明確にしておくことが大切です。
必要な事前準備が完了したら、実際に事業譲渡を進めましょう。
事業譲渡を行う際には、経営権の引き継ぎや、開設届の提出などを行う必要があります。
手続きが終わったら、親族への事業譲渡は完了です。
第三者への事業譲渡は以下の流れで進めます。
まずは、事業を譲渡する相手を探す必要があります。
譲渡相手を探す際は、医療業界に知識を持っている専門家やM&A仲介会社などに依頼しましょう。
事業譲渡を行う際は、さまざまな手続きが必要になるので、専門的な知識が必要です。
可能であれば、譲渡相手の選定も含めて、仲介会社や専門家に依頼することをおすすめします。
譲渡相手の候補が見つかったら、相手との交渉を進めましょう。
お互いの望んでいる条件を満たせると判断できたら、基本合意書の締結を行います。
また、基本合意書の締結は法的な拘束力を持っているわけではありません。
その後の流れで譲渡が破綻しても、違約金等は発生するわけではないので注意しましょう。
基本合意書を締結した後は、買い手企業がデューデリジェンスを実施します。
デューデリジェンスとは、譲渡対象を事前調査することで、財務状況や問題点などを確認することをいいます。
買い手にとって、デューデリジェンスの実施は買収のリスクを抑えるために必須です。
買い手から情報の開示を求められた際は、事業譲渡を成功させるためにも応じましょう。
デューデリジェンスが完了した後は、買い手と最終的な交渉を行いましょう。
交渉によって最終的な売却価格や契約内容を決定します。
決定後は最終契約の契約を行い、事業譲渡を進めていきます。
親族への事業譲渡と同じく、事業譲渡を行う際には経営権の引き継ぎや、開設届の提出などを行います。
引き継ぎが完了したら、売却資金を受け取り譲渡は終了です。
個人診療所を譲渡する際には、以下の4つの事柄を把握しておきましょう。
ここからは、個人診療所を承継するときの注意点について個別に解説します。
ほとんどの場合、事業譲渡の売却価格は年買法という算式を参照して求められます。
事業譲渡に当てはめた年買法の計算式は以下の通りです。
売却価格=譲渡資産+営業権(のれん代)
ここで使用している譲渡資産とは、該当事業の運営に使用している資産のことです。
営業権(のれん代)とは、企業などがもつノウハウやブランドなどの無形資産であり、事業譲渡においては売却価格を決める要素に含まれています。
個人診療所でよく見られるケースとして、診療所が所持する資産と個人が所持している資産が混合している場合があります。
資産が混合していた場合は、売却価格の算定は困難であるといえるでしょう。
個人診療所を売却する際は、希望する売却価格を慎重に決める必要があります。
事業譲渡する際の注意点として、個人診療所が古すぎると、譲渡後に建物を使用できないことがあります。
診療所を経営するためには、建築基準法を満たした建物で運営する必要があります。
建設時には基準を満たしていた場合でも、建築基準法の改正によって、現代では使用できないといったことがあるかもしれません。
前任者が経営を行っている場合、建設時の基準を満たしていれば事業は行えるため、建築基準について考えることは少ないでしょう。
一方、事業譲渡をして承継者が施設を使用する際は、現在の基準を満たしていなけば使用することができません。
買い手との交渉が進んでから、診療所を使用できないことが発覚すると、思わぬトラブルに繋がることも考えられます。
トラブルを起こさないためにも、事業譲渡を行う際は建築基準を満たしているか確認しましょう。
事業譲渡を行う際は、売却価格に応じた所得税を支払う必要があります。
売却価格が全て手元に残る訳では無いので注意しましょう。
また、親族へ事業譲渡を行う場合は、承継者が贈与税や所得税を支払わなければなりません。
事業譲渡を行う際は、税金の支払いが発生することを忘れないようにしましょう。
個人診療所の売却価格は、診療所が生み出している利益やノウハウによって異なるので、一概にはいえません。
ただし、個人診療所のおおよその売却価格は年買法によって導き出すことができます。
おさらいになりますが、年買法による売却価格の算出方法は以下の通りです。
売却価格=譲渡資産+営業権(のれん代)
譲渡資産は、テナント代や医療機器などが該当します。
営業権の金額は事業によって異なりますが、診療所の場合は、前年度の営業利益一年分が目安だとされています。
以上を踏まえれば、おおよその売却価格を算出することができるでしょう。
ただし、年買法による算出金額はあくまでも目安です。
実際にその金額で売れるとは限らないため、売却価格を知りたい場合は専門家に相談すると良いでしょう。
また、最終的な売却価格は買い手との交渉によって決まります。
個人診療所は後継者がいないことが多く、医師の高齢化によって廃業するケースが増えています。
子供などに承継することが難しい場合、事業を存続する方法として、第三者への事業承継が挙げられます。
第三者へ事業承継をすることで、所有資産や営業利益に対応した譲渡対価を得ることが可能です。
第三者への事業譲渡を検討している方は、ぜひ一度ACコンサルティングにお問い合わせください。