投稿日:2022/07/21
更新日:2022/07/21
親が経営者である場合、その子供が事業を相続するケースは多く見られます。
しかし、親から子へと会社を相続するには、さまざまな手続きを行わなければ行けません。
会社を相続することで発生する税金などもあるため、それらを把握しておくことは大切です。
この記事では、親の会社を相続する手順やメリット、ポイントなどを解説します。
目次
親から子へと会社を相続することは、親族内承継の一つに含まれます。
親族内承継は、国内で最もメジャーな事業承継の方法です。
親族内承継が選択されることが多い理由は、自ら発展させた企業を、身内へと引き継ぎたいと考えている経営者が多いことが挙げられます。
近年、経営者の高齢化が進んでいることから、親族内承継によって事業を譲渡するケースは増えていくことでしょう。
経営者自身が元気な場合でも、親族内承継について事前に考えておくことは、企業の存続に関して重要です。
親族内承継について早めに考えて、事業の引き継ぎをスムーズに進めましょう。
親の会社を相続する場合、企業の形態が「個人事業」か「法人経営」であるかによって、相続の手順は大きく異なります。
それぞれの違いについて把握して、適切な方法で相続を行いましょう。
個人事業の場合、事業を行う上で所有している資産は企業ではなく個人の所有物として扱われます。
そのため、個人事業を相続するための手順は、通常の相続と大きく変わりません。
個人事業の相続を行う際は、前経営者が廃業手続きを行い、後継者が開業の手続きを行います。
その後、資産の引き継ぎといった手続きを進めることで事業を承継することができます。
また、会社名を引き継ぎたい場合は、開業届に屋号を記入することで引き継ぐことが可能です。
一方で、法人経営の場合は事業を行う上での資産が企業の所有物となるため、個人の資産には含まれません。
経営者がなくなった際に、企業自体は相続の対象とならないため注意が必要です。
そのため、法人経営の企業を相続する場合は、株式を引き継ぐことによって事実上会社を承継することになります。
経営者が所有している自社株は相続財産の対象となるため、過半数の株式を獲得し経営権を獲得することで、親の会社を引き継ぐことができます。
株式の相続によって親の会社を引き継ぐ場合は、以下の手順で進めていきます。
まず最初に、経営者である親が所有していた株式を相続する必要があります。
上記で述べた通り、法人経営の場合は株式を過半数相続することによって、経営権を子供に引き継がなければなりません。
具体的に、定款の変更や合併などの議決権を得るためには、全株式の3分の2以上が必要になります。
相続後に安定した経営を行うためにも、法人経営の相続を行う際には、後継者が取得する株式を3分の2以上になるように調整しましょう。
親が所有している株式を後継者が相続したあとは、株式の名義人を変更します。
名義人の変更を行わない場合、後継者は議決権を行使することができないため注意が必要です。
また、上場企業では、証券取引所に各書類を提出することで名義変更ができますが、非上場企業では企業によって方法が異なります。
株式が上場していない場合は、株式を発行した会社に確認しましょう。
株式の名義変更が完了したら、取締役に就くために株主総会を実施しましょう。
株主を取得しただけの状態では、後継者は大株主という扱いになるため、議決を得ることで地位を確立する必要があります。
また、株主総会の時点で3分の2以上の株式を引き継いでいれば、決議権を行使することによって自分を専任することができます。
過半数を取得していなかった場合でも、前任者が事前に了承を得ている場合が多いため、否決されるケースは少ないでしょう。
株主総会にて過半数からの議決をえることができれば、取締役への就任は完了です。
取締役へ就任すれば相続自体は完了ですが、経営を行うためにはその後も手続きを進める必要があります。
企業の口座や社会保険などの代表者変更、取引先への通知など、状況に応じた手続きを行いましょう。
また、親の会社が許認可が必要な事業を行っていた場合は、許認可の名義変更も忘れないように注意が必要です。
株式を取得して事業を承継する場合は、相続税が発生することを忘れてはいけません。
また、相続税の税率は、相続した株式の金額によって異なります。
ここからは、相続税の税率と、株式の評価額を算出する方法を解説していきます。
相続税の税率は、以下の速算表を元に算出することができます。
金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | なし |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
例として、5億円分の株式を前経営者から承継した場合は、50%の税率をかけ合わせ、4200万円の控除額を差し引いた2億800万円が相続税になります。
5億円 × 50% - 4200万円 = 2億800万円
株式価格の評価方法は、親の会社が「上場企業」か「非上場企業」であるかによって異なります。
これは、上場企業の場合は市場株価が公表されている影響です。
ここでは、上場企業と非上場企業に分けて株式価格の評価方法を解説します。
上場企業の場合は、株価が市場にて公開されているため株式の価値を算出するのが容易です。
注意点として、相続税評価に使用されるのはその時点での株価だけではありません。
株価は日々変動するため、下記の中から最も低い金額が適用されます。
非上場企業の場合は市場での株価が無いため、算出するための手順が複雑です。
非上場企業の株式価値を求める際には、基本的に類似業種比準方式または純資産価額方式が使用されます。
また、後継者が同族株主ではない場合は、配当金還元方式が使用されることもあります。
注意点として、上記の方法によって株式価値を求めるには複雑な計算が必要になるため、専門的な知識がない場合は算出が容易ではありません。
非上場企業の株価を算出したい場合は、公認会計士などの専門家に依頼しましょう。
会社を相続する際は、親族や他の株主とのやり取りも必要になるため、さまざまなトラブルが生じる恐れがあります。
加えて、経営状況によって想定外の負債を抱えるリスクも存在します。
親の会社を相続する際には、想定できるトラブルを把握して事前に対策を行いましょう。
想定できるトラブルの事例は、下記の4つが挙げられます
親が経営している会社を相続する際は、事業資産や株式などを後継者が相続します。
後継者が一人しかいない場合は問題ありませんが、他にも相続人がいた場合、財産の分配に関して不満に思われる可能性があります。
株式による会社の相続を行う際には3分の2以上を取得する必要があるため、相続に対して偏りが生じることは避けられません。
相続人が複数人いるときには、株式や事業資産以外の財産を優先して分配するといった対策を行い、不平等と思われないように配慮する必要があります。
会社の相続を行う際には、他の相続人以外にも会社に努めていた従業員と衝突する可能性もあります。
会社を相続する後継者に経営能力が無かった場合、従業員からの不満を集めていしまい経営が上手くいかなくなることも考えられます。
後継者に経営のノウハウを引き継ぐためにも、早い段階から育成を始めておくことが大切です。
また、経営者である親が存命の場合は、事業を承継する時期に関して口論になることも考えられます。
親から子へと事業を承継する前提で経営を行っている場合は、承継するタイミングに関して事前に話し合っておく必要があります。
株式の取得によって会社を相続する場合、定款の変更などの決議権などを得るためには、株式の3分の2以上を取得しなければいけません。
承継後に安定した経営を行うためにも、会社を引き継ぐ後継者に株式が集まるように調整する必要があります。
仮に株式の一部を他の相続人に分配してしまった場合、会社の運営に影響が出てしまいさらなるトラブルに発展することもあるでしょう。
株式を他の相続人に渡ることを防ぐには、遺言書による指定や生前贈与などの対策が有効です。
事業を営むためには多額の資金が必要になるため、金融機関から融資を受けて経営を行っているケースが多く見られます。
親が保証人となって融資を受けていた場合、後継者は保証債務も合わせて引き継がなければいけません。
承継後に経営が傾き廃業してしまうと、借金が残る可能性があるため注意が必要です。
親の会社から企業を承継する際には、保証の有無や経営状況などを確認して、承継する場合に発生する恐れがあるリスクを把握しておきましょう。
親の会社を相続することは、外部からの信頼を得やすいといった心情的なメリットがあるのが特徴です。
ここでは、親の会社を相続するメリットを3つ紹介します。
中小企業において、経営者の子供が企業を承継するというケースは昔から頻繁に見られています。
事例が多いということから、従業員や取引先からも受け入れやすい相続であるといえるでしょう。
外部からの理解を得やすいということは、新たな体制での経営をスムーズに行えるという大きな利点になります。
また、現時点での経営者も、血の繋がった相手に会社を相続することで心情的な満足を得ることができるでしょう。
自身が経営者になることによって、自分にあった働き方を選択することができます。
経営者が常にいなくても行える事業であれば、仕事をまとめて進めて置くことで長期的な休暇を取ることも可能です。
出勤時間も自由にずらすことができるため、自分にあったスケジュールで仕事を進められるでしょう。
また、自宅と職場を兼ねている会社であれば、通勤にかかる時間を短縮し自由時間を増せます。
一般的な従業員と比較して柔軟な働き方を選択できることは、経営者になることの大きなメリットです。
相続した会社を一定期間経営した後に売却すれば、経営状況に応じた利益を獲得することができます。
自身が新たな事業を立ち上げたいと考えている場合は、既存の事業を一部売却することで新規事業に回す資金が手に入ります。
事業売却は、親と違う方法で会社を発展させたいと考えている場合に有効な手段です。
また、会社自体を売却すれば、経営者に資金が入るためアーリーリタイアを図ることも可能です。
会社売却によって充分な利益を獲得したい場合は、企業価値を高められるように成長させた上で売却を行いましょう。
親の会社を相続するためには、他の相続人とのやり取りや税金の対策など、注意するべきポイントが多数あります。
それらを事前に把握して、スムーズな相続を完了させましょう。
ここからは、親の会社の相続を成功させるためのポイントを7つ紹介します。
後継者に充分な株式を集めておくための方法として、遺言書の作成は有効な手段です。
遺言書がない場合は、法律によって財産が分配されるため、株式が会社の後継者以外にも渡ることもあるので注意が必要です。
また、可能であれば、経営者が存命のうちに相続について話し合っておきましょう。
事前に経営者の口から相続について話し合うことができれば、相続人同士で争いが起きるリスクを抑えやすくなるかもしれません。
株式の譲渡によって分配する資産に差が生じる場合は、遺留分侵害額請求をされる可能性があります。
遺留分侵害額請求とは、特定の人物に遺産の大半が渡ってしまう場合、他の相続人が最低限の取り分を請求できるという制度です。
遺言に相続に関する記載があった場合でも、訴訟が起きる可能性があるため注意が必要です。
相続人内で分配する遺産に差が生じる場合は、株式の価額を遺留分から除外する「除外合意」などを活用しましょう。
遺留分侵害額請求の対策方法として、生前贈与も有効な手段です。
経営者である親が存命のうちに生前贈与によって会社を相続すれば、経営権が他の相続人に渡るのを回避することができます。
加えて、経営者が存命のうちに会社を相続することができるため、企業運営の方法に対してアドバイスを貰うことも可能です。
ただし、生前贈与の場合は相続よりも発生する税金が大きいため注意しましょう。
親の会社を相続する際には、多額の相続税が発生するため対策することが大切です。
非上場企業が相続税対策を行う場合は、株式の評価額を下げるという方法が有効です。
具体的には、設備投資や不動産購入などによって純資産額を下げるといった方法が挙げられます。
相続税の対策を行う際は、税理士などの専門家に相談しながら行いましょう。
会社を相続する際には、現時点での経営状況を把握することが大切です。
貸借対照表やキャッシュフロー計算書などの財務諸表を事前に確認して、自社の財務状況を確認しましょう。
財務諸表を確認することで、自社が現時点で安定しているのかを知ることができるため、相続後の経営方針を考えることが可能です。
また、財務諸表を確認する際は、赤字や黒字といった要素だけではなく、数年分の業績を確認して将来性なども把握しておきましょう。
会社のトップとして経営を行うためには、現場での経験は欠かせません。
親の会社を相続する数年前から現場での経験を積んで、技術やノウハウを獲得することも大切です。
現場で他の従業員と関わりを持つことによって、相続後に反発するリスクも抑えることができるでしょう。
また、経営者として事業を営むためには、現場での経験だけではなくリーダーシップも必要です。
経営者である親が、どのように会社を運営しているのかも把握しておきましょう。
相続しても充分な利益が見込めない場合や、何らかの理由で経営者の子供が会社を相続できない場合は、第三者への会社売却も検討しましょう。
近年、さまざまな理由で会社を存続できなくなった際に、会社を売却する中小企業が増えています。
後継者が会社を相続できない場合、第三者へ売却することで会社を存続することができます。
名前のある企業に売却することができれば、その後の経営も安定する可能性が高いため、従業員の雇用を守ることが可能です。
充分な利益を獲得できていない場合も、資金の援助も受けることによって事業の発展を図れるでしょう。
経営者は会社を売却することで企業価値に応じた売却益を獲得できるため、その後の生活を安定して送ることができます。
子供へ会社の相続ができない場合は、第三者への譲渡も一度検討してみましょう。
注意点として、会社の売却は専門的な知識が必要になるため、個人で行うのは容易ではありません。
仲介会社などのサポートを受けて、適切な会社売却を行いましょう。
親族内承継は、中小企業において最もメジャーな事業承継の方法であり今後も頻繁に行われることが予測できます。
節税対策の方法や予測できるトラブルなどを把握して、スムーズな相続を行いましょう。
また、相続の方法は個人事業の場合と法人経営の場合で異なるため、それぞれの違いを把握して適切な手段を選択する必要があります。
会社を親族へ相続できない場合は、第三者への承継も一度ご検討ください。