投稿日:2022/09/17
更新日:2022/10/12
近年、多くの中小企業は、経営者の高齢化及び後継者の不在という問題を抱えています。
そのような問題を解消するための支援として「事業承継・引継ぎ補助金」という制度が存在しています。
しかし、事業承継・引継ぎ補助金による支援を受けるためには、厳密な審査を通過しなければいけません。
この記事では、事業承継・引継ぎ補助金の概要・種類ごとの違い・申請する際の流れなどを解説していきます。
目次
事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継やM&Aを実施する際に、必要となる経費に対して発生する補助金です。
中小企業庁が保持金の対象となる企業を募集し、応募があった企業の中から補助金の対象者が選定されます。
補助金の対象は、事業承継を行う中小企業者や、M&Aなどによって事業の再編を図る中小企業者などが該当します。
ただし、医療法人や財団法人など、一部の団体は補助金の対象に含まれていません。
応募をする際には、必ず募集要項を確認しておきましょう。
ここからは、事業承継・引継ぎ補助金の概要について解説していきます。
事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継やM&Aによる事業再編などを後押しするために実施されています。
近年、経営者の高齢化が進んでいるにも関わらず、後継者がいないという中小企業の数が増加傾向にあります。
事業を引き継ぐ相手がいなければ、経営状況が良好だった場合でも廃業しなければいけないこともあるでしょう。
廃業する企業が増えてしまうと、仕事が無い人員の数が増える上に、国の経済力を表しているGDPが低下してしまいます。
そのような問題を解消するための手段として、M&Aによる第三者への事業承継は有効な手段です。
国もM&Aによる事業承継を推奨していることから、補助金による事業承継やM&Aの支援を行っているのです。
また、令和3年度からは、廃業する中小企業者の支援を行う「廃業・再チャレンジ事業」という補助金も新たに追加されました。
廃業を回避すること・廃業をしても新たな事業を始められることは、中小企業の経営者にとっても望ましいことでしょう。
事業承継・引継ぎ補助金は、国と経営者の双方に利点がある制度であるといえます。
事業承継・引継ぎ補助金は、利用後に返済する必要がない補助金です。
事業承継・M&A・廃業後の再チャレンジを行う際には、是非とも利用したい制度でしょう。
ただし、事業承継・引継ぎ補助金を利用するためには、審査を通過しなければ利用することができません。
元々企業を存続するために設けられている制度であるため、承継後に事業を続けられる可能性が低い場合は、審査を通過できる確率は下がるでしょう。
補助金の利用を検討している場合は、承継後の経営プランを明確にしておくことが大切です。
事業承継・引継ぎ補助金は、申請できる時期が決まっています。
2022年度は「令和4年度当初予算」と「令和3年度補正予算」の募集を行っています。
令和4年度当初予算の2次公募は現在予定されていませんが、令和3年度補正予算は4次公募まで行われる予定があるので、利用を検討している方は現時点で募集を行っているか確認しておきましょう。
また、令和4年度当初予算・令和3年度補正予算の交付申請期間は以下の通りです。
年度 | 交付申請期間 | 交付決定日 |
令和3年度補正予算(4次締め切り) | 2022年12月下旬~ 2023年2月上旬 | 2022年10月上旬~ 中旬(予定) |
令和3年度補正予算(3次締め切り) | 2022年10月上旬~ 11月下旬 | 2022年12月下旬 (予定) |
令和4年度当初予算 | 2022年7月25日~ 2022年8月15日 | 2022年9月中旬~ 下旬(予定) |
令和3年度補正予算(2次締め切り) | 2022年7月27日~ 2022年9月2日 | 2022年10月上旬~ 中旬(予定) |
令和3年度補正予算 (1次締め切り 専門家活用事業 廃業・再チャレンジ事業) | 2022年4月22日~ 2022年5月31日 | 2022年7月20日 |
令和3年度補正予算 (1次締め切り 経営革新事業) | 2022年5月31日~ 2022年6月20日 | 2022年7月20日 |
事業承継・引継ぎ補助金は、「経営革新事業」「専門家活用事業」「廃業・再チャレンジ事業」の3タイプがあります。
それぞれ補助の対象が異なるため、事前に違いを把握しておきましょう。
ここからは、事業承継・引継ぎ補助金の種類について解説していきます。
種類 | 概要 |
経営革新事業 | 事業再編などによって経営の革新を図る経営者を支援する補助金 |
専門家活用事業 | 仲介会社やファイナンシャルアドバイザーなど、 M&Aのサポートを依頼する際に申請できる補助金 |
廃業・再チャレンジ事業 | 廃業をする中小企業を支援するための補助金 |
経営革新事業とは、事業承継やM&Aによって経営の革新を図る経営者を支援するための補助金です。
経営革新を図るための支援とは、新商品の開発や生産・新規顧客の開拓・新たな事業を行うための資金などが該当します。
また、親族や従業員、第三者への承継だけでなく、廃業をする経営者から事業を引き継ぐ場合にも利用できます。
ここからは、令和3年度補正予算の2次公募における経営革新事業の詳細について、個別に解説していきます。
経営革新事業の類型は、「創業支援型(Ⅰ型)」「経営者交代型(Ⅱ型)」「M&A型(Ⅲ型)」の3つに分類されています。
類型ごとに申請に必要な要件が異なるので、予め把握しておきましょう。
【類型の概要】
創業支援型(Ⅰ型) | 経営者から経営資源を引き継ぐ際に利用できる補助金 |
経営者交代型(Ⅱ型) | 親族や従業員などに承継する際に利用できる補助金 |
M&A型(Ⅲ型) | M&Aによる事業再編などを図る際に利用できる補助金 |
創業支援型とは、事業を譲り受ける経営者が事業承継の対象期間内に企業を立ち上げ、廃業する譲渡人から設備や従業員といった経営資源を引継ぐ際に利用できる補助金です。
創業支援型は、下記の要件を満たしている場合に利用できます。
【申請要件】
※設備のみを引き継ぐ等、個別の経営資源のみを引き継ぐ場合は原則該当しない
経営者交代型とは、経営に関する実績やノウハウを所有している人物が事業を承継する際に利用できる補助金です。
親族内承継や、従業員へ事業を引き継ぐといった要件は経営者交代型に含まれます。
経営者交代型は、下記の要件を満たしている場合に利用可能です。
【申請要件】
M&A型とは、経営に関する実績や知識を有している人物が承継者となり、事業再編や事業統合を目的としたM&Aを行う際に利用できる補助金です。
M&A型は、下記の要件を満たしている場合に利用することができます。
【申請要件】
※ 経営者交代型(Ⅱ型)における承継者が法人の場合、事業譲渡や株式譲渡等による承継は原則として対象とならない
※ 創業支援型(Ⅰ型)、M&A型(Ⅲ型)ともに、物品・不動産等のみを保有する事業の承継(売買含む)は対象とならない
経営革新事業の補助率・補助上限額及び下限額・上乗せ額は以下の通りです。
補助率 | 補助対象経費の3分の2以内 |
補助上限額 | 600万円以内 |
補助下限額 | 100万円 |
上乗せ額(廃業の費用) | +150万円以内 |
補助の対象となる経費は、下記の条件を満たした上で、事務局が認可したものが該当します。
具体的には、下記の経費が補助対象経費に含まれます。
1.事業費 | 人件費・店舗等借入費・設備費・原材料費・産業財産権等関連経費・ 謝金・旅費・マーケティング調査費・広報費・会場借料費・外注費・委託費 |
2.廃業費 | 廃業支援費・在庫廃棄費 |
3.解体費 | 原状回復費・リースの解約費・移転及び移設費用(Ⅰ型・Ⅲ型のみ) |
参照:令和3年度補正予算 事業承継・引継ぎ補助金経営革新事業【公募要領】
専門家活用事業とは、M&Aの専門家にサポートを依頼する際に発生する補助金です。
ここで該当する専門家は、仲介会社・ファイナンシャルアドバイザー・弁護士・司法書士などが挙げられます。
また、専門家活用事業は、売り手型と買い手側の両者とも申請することが可能です。
ここからは、令和3年度補正予算の2次公募における専門家活用事業の詳細について、個別に解説していきます。
専門家活用事業の類型は「買い手支援型(Ⅰ型)」「売り手支援型(Ⅱ型)」の2つがあります。
それぞれの違いを把握して、自身に該当する類型で申請を行いましょう。
買い手支援型は、事業再編や事業統合を目的として株式を譲り受ける中小企業に対する補助金で、名前通り買い手企業を対象としています。
買い手支援型で申し込みをする際には、下記の要件を満たしている必要があります。
【申請要件】
売り手支援型は、買い手支援型と反対に、株式を譲り渡す売り手企業を対象としている補助金です。
売り手支援型で申し込みをする場合、下記の要件を満たす必要があるので、申請前に確認しておきましょう。
【申請要件】
専門家活用事業の補助率や補助上限額及び下限額、上乗せ額は以下の通りです。
補助率 | 補助対象経費の3分の2以内 |
補助上限額 | 600万円以内 |
補助下限額 | 100万円 |
上乗せ額(廃業の費用) | +150万円以内 |
専門家活用事業は、下記の要件を満たした上で、事務局が適切であると認めたものが補助対象経費に該当します。
また、具体的には下記の費用が補助対象経費に含まれます。
専門家活用事業の補助対象経費 | 謝金・旅費・外注費・委託費・システム利用料・保険料 廃業費:廃業支援費・在庫廃棄費・解体費・原状回復費・リースの解約費・移転及び移設費用 |
参照:令和3年度補正予算 事業承継・引継ぎ補助金 専門家活用事業
廃業・再チャレンジ事業とは、中小企業の廃業費を補助するための費用であり、再チャレンジを図る経営者をサポートするための補助金です。
廃業・再チャレンジ事業の補助金は、廃業後に再チャレンジをする経営者を支援するものであるため、廃業のみで申請することができません。
そのため、廃業・再チャレンジ事業は、廃業と他の事業を組み合わせて申請するか、再チャレンジを行うことを前提に申請する必要があります。
ここからは、令和3年度補正予算の2次公募における廃業・再チャレンジ事業について解説していきます。
廃業・再チャレンジ事業の類型は、大きく分けると「併用申請」「再チャレンジ申請」に分類することができます。
ここからは、廃業・再チャレンジ事業の類型について個別に解説していきます。
廃業・再チャレンジ事業における併用申請は、下記の3つに分けられています。
【併用申請の分類】
併用申請の分類 | 備考 |
事業承継またはM&Aで事業を譲り受けた後の廃業 | 経営革新事業との併用 |
M&Aで事業を譲り受けた際の廃業 | 買い手側による専門家活用事業との併用 |
M&Aで事業を譲り渡した際の廃業 | 売り手側による専門家活用事業との併用 |
併用申請が受理された場合、経営革新事業や専門家活用事業の補助金に、廃業・再チャレンジ申請による廃業費の補助金が上乗せされます。
また、併用申請の要件は、補助事業期間の終了日までにM&Aまたは廃業が完了している必要があります。
加えて、下記の行動を実施しているか、実施する予定がある場合に申請が可能です。
【併用申請の要件】
再チャレンジ申請は、M&Aによって事業を譲り渡すことができず、廃業してしまう際に申請できる補助金です。
再チャレンジ申請をする際は、下記の行動を実施しているか、実施する予定がある場合に申請することができます。
【再チャレンジ申請の要件】
再チャレンジとは、下記のような活動を経営者が取り組むことを指しています。
【再チャレンジの例】
また、公的良俗に反する事業や、社会通念上で不適切であると判断される事業に該当しないことも条件に含まれています。
廃業・再チャレンジ事業の補助率、補助上限額及び下限額は以下の通りです。
補助率 | 補助対象経費の3分の2以内 |
補助上限額 | 150万円以内 |
補助下限額 | 50万円(補助対象経費が75万を下回る場合は申請不可) |
廃業・再チャレンジ事業の補助対象経費は、下記の要件をすべて満たした上で、事務局が認めたものが該当します。
また、具体的には下記の経費が補助対象に当てはまります。
廃業・再チャレンジ事業の補助対象経費 | 廃業支援費・在庫廃棄費・解体費・原状回復費・リースの解約費・移転及び移設費用(併用申請の場合のみ) |
参照:令和3年度補正予算 事業承継・引継ぎ補助金 廃業・再チャレンジ事業
令和3年度当初予算から令和4年度当初予算までの採択率は、以下のように推移しています。
年度 | 申請者数 | 交付決定数 | 採択率 |
令和3年度当初予算 (経営革新) | 136件 | 75件 | 55.15% |
令和3年度当初予算 (専門家活用) | 270件 | 236件 | 87.41% |
令和3年度補正予算 1次公募 (経営革新) | 209件 | 105件 | 50.24% |
令和3年度補正予算 1次公募(専門家活用) | 790件 | 407件 | 51.52% |
令和3年度補正予算 1次公募(廃業・再チャレンジ) | 34件 | 19件 | 55.88% |
令和4年度当初予算 (経営革新) | 71件 | 50件 | 70.42% |
令和4年度当初予算 (専門家活用) | 199件 | 172件 | 86.43% |
令和4年度補正予算 (廃業・再チャレンジ) | 5件 | 4件 | 80.00% |
令和3年度当初予算における経営革新の採択率は55.15%、専門家活用の採択率は87.41%と高い数値を記録しています。
しかしながら、令和3年度補正予算における採択率は50.24%まで低下しており、専門家活用の採択率に関しては51.52%と大きく減少しました。
これは、M&Aをサポートしている期間が補助金の活用を働きかける動きが強まったことが影響していると考えられます。
実際に、専門家活用における令和3年度当初予算の申請者数は270件であるのに対し、令和3年度補正予算の一次公募では790件まで増加しています。
また、令和4年度当初予算において申請者数が低下している理由は、補助率や補助条件などが、令和3年度補正予算の方が優れていたことが挙げられるでしょう。
ここからは、実際に補助金を申請する際の流れについて解説していきます。
【事業承継・引継ぎ補助金を申請する流れ】
まず最初に、自身が申請する年度の事業承継・引継ぎ補助金に関する情報を集めます。
補助率や補助上限額だけではなく、自身が申請の条件を満たしているかという部分も必ず確認しましょう。
補助対象事業及び申請要件は、年度や自身が申請する類型によって異なるため注意が必要です。
申請する年度のWEBサイトを確認して、必要な条件を満たしているのかを調べて、自身が利用できるのかを確認することが大切です。
事業承継・引継ぎ補助金の情報を集めた後は、認定経営革新等支援機関へ相談をします。
自身の事業計画を、認定経営革新等支援機関に確認してもらいましょう。
確認をしてもらった後は、確認書の発行もして貰う必要があります。
また、令和4年度当初予算及び令和3年度補正予算では、この手続きは「経営革新事業」と「廃業・再チャレンジ事業」の申請を行う場合のみ実施します。
補助金の申請はネットでの申し込みになるため、gBizIDプライムのアカウントを取得する必要があります。
gBizIDプライムのアカウント取得にかかる時間は1週間~2週間程度は要するので、早めの申請を行いましょう。
gBizIDプライムのアカウントを取得するすることで、補助金の電子申請システムである「jGrants(Jグランツ)」を利用することができます。
gBizIDプライムのアカウントを取得した後は、必要な書類を揃えた上で、jGrantsのフォームから交付申請を行います。
提出する書類は補助金ごとに異なるため、申請する年度の公募要項を確認しておきます。
申請を受け付けている期間も年度や補助金によって変わるので、必要書類と合わせて調べておきましょう。
交付申請後は、採択の結果がjGrantsにて通知されます。
申請が通った場合は、補助対象となる事業を実施します。
原則として、補助事業が完了してから30日以内、または交付決定通知書に記載された期限日の翌月10日までに実績報告書などを提出する必要があります。
書類の提出は、jGrantsの専用フォームから行いましょう。
実績報告後、事務局にて確定検査が行われ、完了後に補助金が交付されます。
補助金が交付された後は、一定期間報告を行う必要があります。
報告する内容や実施期間は申請した事業によって異なるので、あらかじめ確認しておきましょう。
事業承継・引継ぎ補助金は、事業の引継ぎや譲渡を行う際の大きな後押しとなる制度です。
自身が申請条件を満たしている場合は、是非活用をしましょう。
募集要項や補助金の上限額などは、年度によって異なります。
自身が申請を行う際は、申請する年度の事業承継・引継ぎ補助金に関する情報を集め、あらかじめ準備を行うことが大切です。
また、申請はできる時期は決まっているため、利用を検討している方は定期的に募集時期を確認しておきましょう。