投稿日:2022/10/24
更新日:2022/10/24
愛知県はものづくりが盛んな地域であり、特に自動車産業が活発です。
企業数が多い地域でもあり、令和3年経済センサス‐活動調査の結果によると都道府県別企業等数は、東京都と大阪府に続いて3位でした。
しかし、近年では愛知県を含め、後継者が不足している企業の数が増えています。
親族や従業員に事業を引き継ぐことができなかった場合、次の選択肢として考えられるのがM&Aによる第三者への事業承継です。
この記事では、愛知県でのM&Aや事業承継を支援している機関や、利用できる補助金などを紹介していきます
目次
まず最初に、愛知県におけるM&Aや事業承継の動向を把握しておきましょう。
愛知県は、県内総生産における製造業の割合も高いことから、「ものづくり県」として有名な地域です。
経済産業省が発表した工業統計調査によると、愛知県の製造品出荷額等は47兆9,244億円でした。
この値は、同じく製造業が盛んといわれている神奈川県や静岡県を大きく上回っており、全国で一番です。
愛知県の製造業が盛んな理由は、主に自動車産業におけるシェア率の高さが挙げられます。
自動車産業の出荷額は愛知県が全国の約4割を占めており、製造業の発展に大きく貢献しています。
また、愛知県にはトヨタ自動車といった大手企業が多く存在していますが、製造業を営む企業のうち9割以上が中小企業です。
愛知県は、事業規模に関わらず製造業が盛んな地域であるといえるでしょう。
製造業が盛んな愛知県ですが、2009年以降中小企業の数が減少し続けています。
中小企業庁が発表した都道府県別規模別企業数によると、2009年から2016年にかけて、中小企業の数が32,499社減少しました。
中小企業の減少傾向は、愛知県に限らず全国的に見られています。
中小企業数が減少している要因として挙げられるのが、経営者の高齢化です。
経営者の平均年齢は年々増加傾向にあり、愛知県も例外ではありません。
経営者が高齢になった場合、会社を存続させるためには事業承継を行う必要があります。
しかし、近年は事業承継を行う相手が周囲にいないことによって、廃業を選択する経営者の数も増えています。
後継者不足が発生する理由の1つには、親族内承継の減少が影響しているでしょう。
事業承継の種類は、主に「親族内承継」「従業員への承継」「第三者への承継」の3つが存在します。
親族内承継は、中小企業の事業承継において最もメジャーな選択肢であると考えられます。
数十年前までは、9割以上の企業が親族内承継によって事業承継を行っていました。
親族内承継は周囲からの理解が得やすく、後継者の育成期間を長く設けられるといったメリットがあります。
精神的な安心感があることから、親族内承継を希望している経営者も少なくありません。
しかし、近年では働き方に対する考え方が多様化していることから、親族側が事業承継を希望していない事例が増えています。
少子化の影響によって、事業承継を行える親族がいないこともあるでしょう。
さまざまな要因が積み重なっていることによって、親族内承継の事例は徐々に減少し続けています。
親族内承継が難しい場合、次の選択肢として考えられるのが従業員への事業承継です。
親族内承継と比較すると承継者候補の数が必然的に多くなることから、個人の適性を見て事業承継の相手を選択することができます。
しかしながら、従業員への事業承継は資金面でのハードルの高さが問題になりやすい選択肢です。
従業員への事業承継は、株式の譲渡によって経営権を引き継ぐケースが多く見られます。
従業員は株式を経営者から買い取る必要があるため、多額の資金を用意しなければいけません。
そのような理由から、従業員への事業承継を実施できないといったことも考えられます。
親族や従業員に事業承継ができなかった場合、3つ目の選択肢として挙げられるのが、M&A第三者への事業承継です。
M&Aといえば企業の売却というイメージが強いですが、近年では事業承継の手段として利用する事例も増えています。
第三者への事業承継には抵抗を感じるといった方も少なくありませんが、事業承継を行わずに廃業してしまうと、従業員は新たな働き口を見つけなければいけません。
廃業時にはテナントの撤去費用なども発生することがあるため、資金面での負担が発生することもあるでしょう。
M&Aによる事業売却を行った場合、会社は存続するので従業員の雇用を維持することが可能です。
企業価値に応じた売却益も獲得できるため、引退後の生活にゆとりを持つこともできるでしょう。
M&Aによる事業承継は国内でも推進されている動きがあり、公的な支援機関の設立や、補助金の導入などによってサポートが行われています。
事業承継に悩んでいるかたは、第三者への事業承継も一度検討してみましょう。
愛知県内には、M&Aや承継をサポートしている支援機関が複数存在しています。
それぞれの違いを把握して、自身に適した相談先を選択しましょう。
支援機関 | 特徴 |
M&A仲介会社 | M&Aに関する全般的なサポートを手掛けている |
M&Aマッチングサイト | 自身でM&Aを行う相手を探すことができる |
銀行 | 資金面も含めた相談ができる |
公的な支援機関 | M&Aや事業承継に対する相談に無料で対応している |
M&A仲介会社とは、M&Aに関わる相談から成約までを一貫して支援している企業です。
事業の売却・買収を検討している多くの企業とのネットワークを有しているため、プロの目線からマッチングに適した相手を見つけてもらうことが可能です。
M&A仲介会社は買い手企業と売り手企業を中立的な立場から支援するので、交渉によって不利になりにくいという特徴があります。
弁護士や税理士といった専門家と提携して事業を展開しているため、契約書の作成や内部監査であるデューデリジェンスまで幅広く対応しています。
M&Aに関する全般的なサポートを依頼したい方は、M&A仲介会社の利用も検討してみましょう。
M&Aマッチングサイトとは、買い手企業と売り手企業のマッチングを支援しているサイトです。
ホームページ上に企業の情報を掲載するといった形式で支援を行っているため、経営者自身でマッチングに適した企業を見つけることができます。
掲載されている情報は企業名が特定されない範囲に抑えられているので、自社の売却を検討していることが外部に漏れることは無いでしょう。
また、M&Aマッチングサイトは基本的に経営者のマッチングのみをサポートしているため、アドバイザーなどは自身で探す必要があります。
しかし、一部のM&Aマッチングサイトは専門家の紹介なども手掛けていることもあります。
M&Aマッチングサイトの利用を検討している方は、提供しているサービス内容も確認しておきましょう。
M&Aや事業承継を実施する際、資金不足を解消するため銀行に融資を依頼することもあるでしょう。
しかし、一部の銀行ではM&Aの相談に対応している専門部署を設けていることもあります。
そのような銀行であれば、M&Aに関するさまざまな支援を受けることも可能です。
事業承継に関するセミナーなども開催していることもあるため、知識を深めるために参加を検討してみてもよいでしょう。
また、地方銀行などは地元企業との関わりが強いことから、特定エリアでマッチングに適した相手を紹介してもらえるかもしれません。
繋がりのある銀行がある方は、M&Aや事業承継の相談に対応しているか確認してみましょう。
近年、国内では後継者不足によって廃業する企業が増えていることから、事業承継の支援を行っているさまざまな機関が設立されています。
公的な支援機関は、基本的にM&Aに関する相談に無料で対応しているという強みがあります。
M&Aを進めていく際には別途で専門家に依頼する必要がありますが、検討段階で発生する費用を抑えられることは大きな強みといえるでしょう。
また、M&Aのサポートを行っている機関は愛知県内に複数あります。
公的機関への相談を検討している方は、それぞれの特徴を把握しておきましょう。
ここからは、愛知県内でM&Aや事業承継のサポートに対応している公的機関を4つ紹介します。
【愛知県でM&A・事業承継の相談に対応している公的機関】
商工会議所とは、会員制で利用することができる地域密着型の公的機関です。
商工会議所は地域経済を活性化させることを目的として運営されており、経営に関するサポートから事業承継のサポートまで幅広く対応しています。
地域の企業を支援していることから、拠点は各都道府県に複数設けられており、愛知県内では名古屋市・豊田市・一宮市など、さまざまな市に設立されています。
また、名古屋商工会議所には事業承継に関する専門の窓口が用意されており、予約制で利用することが可能です。
税理士などへの相談も無料で行えるのて、税務に関する不安などを抱えている方にもおすすめの支援機関です。
機関名 | 商工会議所 |
URL | https://www.nagoya-cci.or.jp/index.html (名古屋商工会議所) |
所在地 | 〒460-8422 愛知県名古屋市中区栄2-10-19 名古屋商工会議所ビル(名古屋商工会議所) |
愛知県事業承継・引継ぎ支援センターとは、愛知県に所在する中小企業などの事業承継をサポートしている公的機関です。
M&Aによる第三者への承継や、親族・従業員への承継など幅広く対応しています。
事業承継診断による課題の抽出や、事業承継計画の策定なども無料で手掛けていることから、事業承継を検討し始めた経営者の方にもおすすめの相談先です。
また、事業承継・引継ぎ支援センターでは後継者人材バンクという事業も行っています。
後継者育成バンクでは、創業希望者と後継者が不在な経営者のマッチングを支援しています。
承継相手が決まっていない方は、後継者育成バンクの利用も検討してみましょう。
機関名 | 愛知県事業承継・引継ぎ支援センター |
URL | https://shoukei-aichi.go.jp/ |
所在地 | 〒460-0008 愛知県名古屋市中区栄2-10-19 名古屋商工会議所ビル6階 |
愛知よろず支援拠点とは、国が愛知県に設置した経営の無料相談所です。
中小企業や小規模事業者、創業予定の経営者などが抱えている経営の悩みに対応しています。
事業承継に関する相談にも対応しており、専門のコーディネーターに状況に合わせた相談をすることが可能です。
よろず支援拠点も、事業承継・引継ぎ支援センターと同じく全国に設置されており、愛知県内では名古屋と豊橋市にサテライトが設けられています。
また、春日井市・稲沢市・碧南市などにも出張商談窓口が設けられているため、利用を検討しているかたは周辺の相談窓口を調べてみましょう。
経営や事業承継に関する全般的な相談を行いたい方にもおすすめの支援機関です。
機関名 | 愛知よろず支援拠点 |
URL | https://www.aibsc.jp/supports/aichi_prefectural_support_center/ |
所在地 | 〒440-0888 豊橋市駅前大通2丁目81 emCAMPUS EAST 4階406号室 (豊橋サテライト) |
愛知信用保証協会とは、中小企業や小規模事業者が金融機関から融資を受ける際、公的な保証人となり資金援助をサポートしている機関です。
事業承継に関する融資のサポートはもちろん、財務面での強み・弱みの診断を依頼することもできます。
また、各種専門家や中小企業診断士協会などと繋がりがあるため、経営課題の解決や経営改善計画の策定に関する相談もすることが可能です。
財政面を中心に、M&Aに関する不安を抱えている方は、愛知信用保証協会への相談も検討してみましょう。
機関名 | 愛知信用保証協会 |
URL | https://www.cgc-aichi.or.jp/ |
所在地 | 〒453-8558 愛知県名古屋市中村区椿町7番9号(本店) |
愛知県では、補助金によってM&Aや事業承継の支援を行っている地域が複数あります。
事業承継やM&Aを行う予定がある経営者の方は、自身が申請条件を満たしているか確認しておきましょう。
豊山町事業承継事業費補助金とは、豊島町で中小企業を継承した後継者を支援するために設けられた補助金です。
サポートの対象は、豊島町内に本社を置く中小企業や、市内に在籍する個人事業主などが該当します。
補助対象は、後継者に事業を引き継ぐ際に発生する工事費や広告費、外部企業にコンサルを依頼する際の委託料などが当てはまります。
募集期間 | 2022/4/18~ |
補助額 | 補助対象経費の50% |
補助上限額 | 10万円 |
URL | https://www.town.toyoyama.lg.jp/sangyo/1004195/1004774.html |
豊田市中小企業経営力高度化事業補助金とは、業種を問わず市内の中小企業を支援することを目的として設けられた補助金です。
補助の対象は、豊田市に本社を置く企業や、市内に事業所や住所を持つ個人が該当します。
この補助金は6つの事業に分類されており、M&A・事業承継以外にも、人材の育成や確保に関わる費用なども対象に支援しています。
また、事業承継やM&Aを行う際は、専門家に仲介などを委託する際の費用が対象に含まれます。
募集期間 | 2022/4/1~2023/3/31 |
補助額 | 対象経費の2分の1 |
補助上限額 | 30万円(事業承継・M&A事業) |
URL | https://www.city.toyota.aichi.jp/jigyousha/kigyoyuchi/1042732.html |
事業継続支援補助金とは、犬山市の中小企業を支援するために設けられた補助金です。
利用する際には、犬山市が行う中小企業診断士による診断を受け、策定した経営計画をもとに取り組みを進めていく必要があります。
補助の対象経費は、経営計画を実現するために必要なアドバイザーへの委託費や、設備投資の費用などが該当します。
募集期間 | 専門家による支援補助:2022/8/11~2023/1/31 設備投資補助:2022/8/11~2022/9/30 |
補助額 | 補助対象経費の2分の1 |
補助上限額 | 専門家による支援補助:50万 設備投資補助:100万(中小企業は50万、小規模企業者は15万円を超える設備投資が必要) |
URL | https://www.city.inuyama.aichi.jp/jigyo/kigyoshien/1007848.html |
事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継を理由に、経営革新やM&A、再チャレンジなどを行う中小企業をサポートするために設けられている補助金です。
この補助金は、愛知県に限らず全国の企業が申請可能です。
事業承継・引継ぎ補助金は「経営革新事業」「専門家活用事業」「廃業・再チャレンジ事業」の3つに分類されており、それぞれ補助対象などが異なります。
経営革新事業とは、事業承継によって新たな取組を実施する際に発生する費用の一部を補助するもので
す。親族内承継・従業員承継・M&Aによる第三者への承継を行う際に利用できます。
専門家活用事業とは、M&Aによって事業承継を行う際、専門家への依頼費を補助するためのものです。
事業の買収を希望する経営者に限らず、売却を行う場合でも申請することができます。
廃業・再チャレンジ事業とは、中小企業が事業承継を行うとき、再チャレンジを伴う廃業費用を補助するためのものです。申請要件に該当していれば、経営革新事業や専門家活用事業と併用することも可能です。
また、募集期間や補助額などは年度によって異なるため、利用時にはあらかじめ調べておきましょう。
【令和3年度補正予算 事業承継・引継ぎ補助金の概要】
募集期間 | 1次公募:2022年5月31日〜2022年6月30日 2次公募:2022年7月27日〜2022年9月2日 3次公募:2022年10月6日~2022年11月24日 4次公募:2022年12月下旬~2023年2月上旬 |
助成金額 | 対象経費の3分の2 |
補助上限額 | 600万円以内(廃業・再チャレンジ事業は+150万以内) |
補助下限額 | 100万円 |
URL | https://jsh.go.jp/r3h/ |
【関連記事】事業承継・引き継ぎ補助金について解説!種類ごとの違い、申請の流れも紹介
愛知県では、M&Aによる事業の買収・売却が数多く行われてきました。
M&Aに関する知識を深めるためにも、どのような取引事例があったのかを把握しておきましょう。
ここからは、愛知県に本社を持つ売り手企業や買い手企業によるM&A事例を5つ紹介して行きます。
【愛知県におけるM&A事例】
2022年10月、愛知県名古屋市に本社を持つ株式会社SYSホールディングスは、つくばソフトウェアエンジニアリング株式会社の株式をすべて取得し子会社化することを発表しました。
SYSホールディングスは、製造業や情報インフラ事業などをグループ展開している持株会社です。
つくばソフトウェアエンジニアリングは、映像編集ソフトウェアを中心にソフトウェア開発事業を展開しています。
また、つくばソフトウェアエンジニアリングの子会社はタイの日系企業との関わりを有しています。
SYSホールディングスはつくばソフトウェアエンジニアリングの子会社化によって、技術力の向上及びタイでの営業力強化を図りました。
該当企業の取得価額は4億7115万円~5億7115万円の予定です。
2022年10月、愛知県に本社を置くダイコク電機株式会社は、同じく愛知に拠点を構えるグローバルワイズ及び子会社であるインフォウェアの株式を取得し子会社化することを発表しました。
ダイコク電機は、パチンコホール向け支援サービスなどを手掛けている企業です。
グローバルワイズは、クラウドサービスを含むシステム開発会社として事業を行っています。
グローバルワイズの子会社によって、ダイコク電機は自社が展開しているサービスのクラウド化を進める際のシナジー発揮を図りました。
該当企業の取得価額は合計で2億1500万円です。
2022年8月、福祉事業・介護事業・外食事業をグループ展開しているAHCグループは、株式会社CONFEL及び株式会社RAISEの株式を取得し子会社化することを発表しました。
CONFELとRAISEはどちらも愛知県に本社を有しており、福祉事業所の運営をしている企業です。
AHCグループは該当企業の株式取得によって、両社の展開地域でサービスを提供し、競争力の強化を図りました。
取得価額は合計で約5億円です。
2022年7月、居酒屋を中心に飲食店の運営などを手掛けている株式会社海帆は、株式会社SSSの株式を取得し子会社化することを公表しました。
SSSは居酒屋事業を営んでいる愛知県の企業で、19店舗を展開しています。
海帆はSSSとの共通点を活かしシナジーを発揮し、企業価値の向上を図りました。
該当企業の取得価額は6億3000万円です。
2022年3月、愛知県名古屋市と東京都新宿区に本社を持つ株式会社プロトコーポレーションは、アドベンチャーの傘下企業であるコスミック流通産業株式会社とコスミックGCシステム株式会社の株式を取得し子会社化することを発表しました。
プロトコーポレーションは、中古車情報サイトであるグーネットと整備工場検索サイトのグーネットピットを運営している企業で、自動車関連領域におけるDX化を推進しています。
一方、コスミック流通産業とコスミックGCシステムは、商品券やギフト券などの販売専門ショップを営んでいる企業です。
プロトコーポレーションは今回の株式取得によって、両者が持つ流通業と自社が有するDX化のノウハウを組み合わせ、シナジーの最大化を図りました。
該当企業の取得価額は合計で15億7100万円です。
愛知県はものづくり県として有名な地域で、数多くの中小企業が存在しています。
しかし、近年では中小企業の後継者が全国的に見られており、事業承継が推進されている動きがあります。
親族や従業員への事業承継が難しい場合は、第三者への事業承継も事業存続のために有効な手段です。
愛知県内には、公的な支援機関も含め、事業承継のサポートを行っているさまざまな団体があります。
自身が求める支援内容に合わせて、適切な支援機関へ相談してみましょう。