投稿日:2022/04/28
更新日:2022/09/26
不動産業のM&Aは、事業承継だけでなく少子化やデジタル化を背景に検討している人も多く出てきています。
そこで本記事では、不動産業界の基礎知識とM&Aにおけるメリットと注意点を紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
不動産業界は、土地や建物を扱うサービス業に分類されます。
建物や土地に関わる仕事ですが、具体的な仕事内容は多岐にわたるため、なかなか理解できない人もいるかもしれません。
そこで、ここでは不動産業界とはどんなものか、定義を紹介します。
M&Aの動向をチェックするためにも不動産業界とはどんなものかを理解しておくと、ニュースも分かりやすくなるでしょう。
不動産業界は、大きく
の4つに分けられます。
建設・設計・施工を行うのは、ゼネコンやハウスメーカーなどです。
販売は、デベロッパーやハウスメーカー、住宅販売業者が行います。
賃貸は仲介会社が行い、管理は不動産管理会社などと不動産業界の中でも住み分けがされており、何を行うかで会社が大別されることを覚えておきましょう。
不動産業界の大手3社をみてみましょう。
三井不動産は戦後一貫して不動産業界の国内トップに君臨しており、三井住友銀行、三井物産と共に三井御三家の1つとして知られています。
東京ミッドタウンや三井アウトレットパーク、COREDO日本橋、ららぽーと、赤坂サカスなどの大規模案件が有名であり、さらに東京ディズニーランドの親会社としても有名です。
デベロッパーだけでなく、オフィスや商業施設の賃貸や分譲、仲介などでも営業利益を出しています。
資本金 | 3401億6200万円 |
売上 | 2兆75億5400万円 |
代表取締役 | 菰田正信 |
利益 | 2806億1700万円 |
時価総額 | 2兆6275億2100万円 |
従業員数 | 1,776名 |
三菱地所は三菱グループの中核企業の1つであり、国内不動産業界の2位に位置する企業です。
丸の内ビルディングや丸の内オアゾ、新丸の内ビルディングなどを手掛けた他、横浜みなとみらいの開発にも大きく関わっており、横浜ランドマークタワーを開業しました。
ビル事業でよく知られていますが、それ以外にも住宅事業や不動産投資ファンド運営、ホテル事業なども手掛けており、海外事業にも力を入れています。
資本金 | 142,414,266,891円 |
売上 | 1兆3021億9600万円 |
代表取締役 | 吉田淳一 |
利益 | 2407億6800万円 |
時価総額 | 2兆5582億3400万円 |
従業員数 | 880名 |
住友不動産は住友グループの1企業であり、1949年の財閥解体によって設立されました。
新宿住友ビルディングや新宿NSビル、泉ガーデンタワー、住友不動産六本木グランドタワーなどのビル建設だけでなく、シティタワー シリーズをはじめとする住宅開発も行っています。
その他、海外展開も積極的に行っており、中国大連市に大規模マンションの開発の計画もある日本を代表する不動産会社です。
資本金 | 1228億500万円 |
売上 | 9174億7200万円 |
代表取締役 | 仁島浩順 |
利益 | 2343億3200万円 |
時価総額 | 1兆6572億5500万円 |
従業員数 | 13,530名 |
不動産業界の取引は大規模となるケースが多く、基本的には営業から仕事は始まるため、業績と比例して収益も上がる特性を持っています。
不動産流通推進センターの「2021不動産業統計集(9月期改訂)」によると不動産業の法人数は増加傾向です。
また物件そのものも高額なので、けっして市場規模も小さいものではありません。
引用元:2021不動産業統計集(9月期改訂)
不動産業界の基本的な取引の流れは、
です。
まず最初に土地を手に入れて、土地の環境や歴史を調査後にコンセプトを決めて、建物の計画を立てます。
その後、計画に基づいた施工が行われ、流通会社の協力を得て販売活動を行い、テナントや住居購入者入居後、建物の管理やマネジメントを行うのが一連の流れです。
主に用地取得と企画・開発はデベロッパーが行い、建物の施工は取引業者が行います。
その後の販売はデベロッパーだけでなく住宅販売業者などが行い、管理も専門の管理会社が行うケースが多いです。
財務省の「年次別法人企業統計調査(令和2年度)」によると不動産業界の市場は、2016年から2018年まで拡大を続けていましたが、2019年以降2年連続で売上が縮小しています。
2016年から2020年までの売上高は以下の通りです。
年度 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 |
売上高 | 42兆9824億円 | 43億4335億円 | 46兆5363億円 | 45兆3835億円 | 44兆3182億円 |
引用元:年次別法人企業統計調査(令和2年度)
東京オリンピックの需要が背景にあると考えられますが、さらに2020年は新型コロナウイルスの影響もあるといえるでしょう。
また、国土交通省の「令和3年度 住宅経済関連データ」によると新築住宅着工数も減少しており、新築住宅の需要も減ってきていると考えられます。
新型コロナウイルスにより、テレワーク推奨によるオフィス需要の減少も不動産業界には大きなダメージです。
2025年に大阪万博が控えており、全く不動産業界にいいニュースがないわけではありませんが、こちらも新型コロナウイルスが国内外においてどうなっているか不透明な状況が続いています。
引用元:令和3年度 住宅経済関連データ
近年の売上高が減少している不動産業界には課題があります。
少子高齢化による人口減は不動産業界にとって大きな課題です。
年々、日本の人口は減っており住宅購入を検討する30代も同様に減っており、特に地方はさらに拍車が掛かっており、空き家や住宅価格の下落が起きています。
都心部に人が集中するため、限られた土地と建物の価格は上昇し、地方との格差が生まれているのも事実です。
高齢化を意識し、シニア向け物件への特化が急務といえるでしょう。
デベロッパーとは違い、街の不動産屋は他業界と比べてもデジタル化が遅れており、未だに帳簿を手入力やFAXによる受付などを行っている企業もあります。
また、内覧希望者に時間を作って車で物件まで送迎し、細かな雑務も日々あることから残業時間がどうしても増えてしまう状況です。
このため、長時間残業を嫌い退職してしまう若者も多く、人材不足に悩まされている企業も多いでしょう。
効率良い仕事環境にするため、デジタル化を進め、煩雑な作業の自動化を実現しなければ問題解決にならないと考えられます。
新しいシステムの導入を嫌がる人もいるとのことですが、業界全体で業務の効率化を検討しなければなりません。
2022年より生産緑地の優遇期間の終了に伴い、空き地が増えて地価の下落が懸念されています。
さらに人口減少も進んでいくことから、空き家問題の悪化も予想されます。
また、コロナ禍における働き方の変化から、大きな収入源であったオフィス賃貸の事業も大きく崩れると考えられており、不動産業界の未来には大きな課題があると覚えておきましょう。
不動産業界のM&Aを行うメリットを見てみましょう。
同業種の場合、すでに販路や顧客を持っているため、事業拡大に繋げやすいメリットがあります。
従業員だけでなく、これまでの経験もそのまま活かせるため、同業種間でのM&Aを最初に検討するといいのではないでしょうか。
他業種間の場合、新たな事業として不動産業を扱えるようになるので、新規マーケットへの進出を検討できます。
不動産業界は規模の縮小はあるかもしれませんが、決して無くなることはないので、新たに参入したい場合はおすすめです。
売り手にとってのメリットは、大幅な節税になることが挙げられます。
会社の廃業を検討している場合、廃業コストを削減できるだけでなく、M&Aの方が大きな節税効果を実現できるため、検討するといいでしょう。
また、雇用維持も可能なので、従業員を守りたいと考える経営者はM&Aで売ってしまうことをおすすめします。
買い手のメリットは、安価で不動産を入手できることです。
そして、市場には出回っていない物件も入手できるため、再開発や投資対象として検討できるでしょう。
その他、新たな雇用と有力顧客の獲得もできるので、M&Aで支配力を高めたいと考えてみてもいいかもしれません。
これから不動産業界のM&Aを検討しているときの注意点を見てみましょう。
投資金額の回収ができないと判断されると、固定資産である不動産の価値を下げる会計処理をしなくてはなりません。
不動産業界のM&Aは、多くの不動産を入手できる機会ではありますが、回収できなければ損失として会計処理するリスクがあるため、リスクの評価が必要です。
仕入れや営業の一部だけが利益を出している状態の会社をM&Aしても、人件費が余計に掛かってしまう懸念があり不安定です。
そのため、事前に属人的な仕事をしている企業かどうかを見定める必要があります。
営業利益がどのように出されているのかを見定めてください。
買収先企業が得意とする地域がある場合、開発をしたくても今後活性化が期待できなければ意味がありません。
すでに得意としている地域が今後も投資を見込める場合は、M&Aを検討してもいいでしょう。
不動産業を営んでいる企業が自社を売却する場合、いくらで売れるのかを考える経営者も少なくないでしょう。
結論から言うと、不動産会社を含めた企業をM&Aによって売却する際には、企業価値評価を行ったのちに譲渡価格を決定するため、相場となる金額は一概にはいえません。
自身で企業価値評価を行なって目安となる金額を求めることもできますが、より正確な売却価格を知りたい場合は、M&A仲介会社などの専門家に依頼することがおすすめです。
自社の売却価格の目安を把握して、適切な価格での交渉を行いましょう。
また、企業価値評価について詳しく知りたい方は、下記の記事をご参照ください。
【関連記事】M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは? 種類やメリットも解説!
ここでは、不動産業界のM&Aや売却の実例を5つ紹介します。
2019年6月、不動産会社であるハウスコム株式会社は、リニューアル工事やマンションのリフォー厶業務などを幅広く手掛けているエスケイビル建材株式会社を子会社化することを発表しました。
ハウスコム株式会社は2016年にリフォーム事業を開始しており、子会社化によって一連の業務の強化を図りました。
2015年4月、大手ゼネコン会社である株式会社長谷工コーポレーションは、不動産業を運営している総合地所株式会社を子会社化しました。
長谷工コーポレーションの持つ施工実績と、総合地所株式会社が持つ営業力を融合することで、さらなるサービスの提供を目指しました。
2021年1月、建築事業やレンタル事業など幅広く手掛けている株式会社ナックが、住宅フランチャイズ企業であるエースホーム株式会社を子会社化することを発表しました。
子会社化によって、ノウハウの獲得や新製品の開発など収益力の強化を目指しました。
2018年5月、不動産賃貸仲介事業を運営しているAPAMAN株式会社は、賃貸管理業などを運営している株式会社プレストサービスを孫会社化することを発表しました。
プレストサービスが持つ賃貸管理などのノウハウを獲得することで、さらなる事業の発展を目指しました。
2017年6月、総合建設会社である大林組は、連結子会社である大林道路株式会社を完全子会社化することを発表しました。
完全子会社化を目指す理由は、グループ経営の基盤を安定化させることが目的であると考えられます。
この記事をまとめると
人にとって必需品ともいえる「衣食住」の「住」に関係する不動産業界は、決して無くなることはありませんが、M&Aを行う際は将来も見据えて慎重にならなくてはなりません。