投稿日:2022/08/15
更新日:2022/08/15
秘密保持契約は、M&Aを進めていく上でさまざまなタイミングで締結をします。
M&Aは漏洩すると不利益が生じる情報を取り扱うことが多いため、秘密保持契約を結ぶことは、リスクを回避するための重要な項目といえるでしょう。
では、秘密保持契約とは具体的にどういった契約なのでしょうか?
この記事では、秘密保持契約を締結する目的やタイミング、記載する項目や作成時のポイントを紹介します。
目次
秘密保持契約とは、個人情報や秘密事項などの取り扱いに関して、第三者への漏洩を禁ずるための契約です。
英語ではNon Disclosure Agreementということから「NDA」と呼ばれることもあります。
M&Aを進めていく際には、買い手企業や仲介会社に対して、自社の情報を開示するタイミングがあります。
開示する情報の中には、外部に漏洩することによって不利益が発生するような内容もあるでしょう。
そのため、重要な情報を開示する際には、対策として秘密保持契約を結ぶ必要があるのです。
秘密保持契約の記載事項には、外部へ漏洩した際の損害賠償などが記載されています。
損害賠償の存在は、第三者への漏洩を防ぐための抑止力になるでしょう。
万が一外部に漏洩した際にも、秘密保持契約による取り決めに従って対応すれば良いため、スムーズに対処することができます。
また、売り手企業は、M&Aを検討しているという情報自体が流出することも避けなければなりません。
従業員や取引先に情報が出回った場合、会社の信頼性に悪影響が出る可能性があるため、離職や取引中止といった自体に陥ることも考えられます。
M&Aを行う際は、秘密保持契約の締結相手だけではなく、自身が情報を流出させないようにも気をつけましょう。
秘密保持契約の締結方法は、主に「差入方式」と「契約書方式」の2つがあります。
差し入れ方式とは、どちらか一方の企業が捺印・記名を行った契約書を作成し、もう一方の企業に差し入れる方式です。
受け取った企業の記名・捺印のみで手続きを行うことができるため、郵送コストや時間などを抑えることが可能です。
一方、契約書方式の場合は、両企業が契約書に記名と捺印を行います。
両企業が情報の開示を行う際には、差し入れ方式では無く契約書方式を使用します。
状況に合わせて、適切な締結方法を選択しましょう。
秘密保持契約は、M&A以外でも締結することがあります。
例として、他社と業務提携を行う際には、自社が所有している技術やノウハウを伝えなければなりません。
万が一、第三者に情報が流出した場合は、企業の信頼性や株価などに悪影響が生じる可能性があります。
情報が漏洩することによってリスクが生じるのであれば、秘密保持契約を締結することは有効な対策手段です。
また、業務提携以外にも、商談・取引・資本提携など、さまざまなタイミングで秘密保持契約は結ばれています。
秘密保持契約書は、顧問弁護士などの専門家に依頼して作成します。
しかし、自社の規模によっては専門家へ依頼することが難しいケースもあるでしょう。
そのような場合は、実際に公開されているひな形をもとに、内容を微修正して作成することも有効です。
例として、経済産業省が発表している「秘密情報の保護ハンドブック」の171ページ目からは、各種契約書の参考例が記載されています。
このような公開されている情報を参考にして、自身で秘密保持契約を作成することもできます。
【参考】経済産業省:秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~
秘密保持契約は、情報漏洩の流出を防ぐためなどに締結します。
ここからは、秘密保持契約を締結する目的について具体的に解説していきます。
【秘密保持契約を締結する目的】
M&Aを行う際には、顧客や従業員の個人情報などを開示することがあるため、それらが漏洩することは大きな問題になります。
流出の規模によっては、経営環境が大きく悪化することもあるでしょう。
個人情報の流出が原因となり、外部からの信用性を失ってしまい経営ができなくなることも考えられます。
故意に情報を流出させるケースは考えにくいですが、万が一情報を漏洩させないためにも、秘密保持契約による抑止は重要です。
秘密保持契約は、個人情報以外にも会社の情報を守るといった目的で締結されます。
自社のノウハウが外部企業に流出した場合は、同業種の企業に模倣されてしまい、結果的に競争力が低下する可能性があります。
異業種の企業に流出した場合も、ノウハウを参考に新たな事業を始められてしまえば、競合企業が増えて利益が得られにくくなることもあるでしょう。
企業の情報が流出することは、将来的に得られる利益を損失してしまうリスクに繋がるのです。
そのような損失が生じた場合、相手に損害賠償請求等を行うためにも、秘密保持契約の締結は必要不可欠です。
情報を厳重に管理していた場合でも、想定外のトラブルによって第三者へ情報が流出することもあるでしょう。
情報が流出した場合、秘密保持契約を締結していなければ、どのように対処すればよいのかを把握することができません。
流出させた相手への責任追及をすることもできなくなるため、泣き寝入りする自体に陥ることも考えられます。
想定外の情報漏洩に備えるためにも、秘密保持契約によって対応方法を明確にしておくことが大切です。
秘密保持契約書を作成する場合には、以下の項目を記載しましょう。
また、専門家などの第三者へ作成を依頼した場合でも、実際にどのような内容が記載されているのかを把握することも大切です。
ここからは、秘密保持契約書に記載する項目について、個別に解説していきます。
【秘密保持契約書に記載する項目】
まず最初に、秘密情報に該当する項目を明確に定義する必要があります。
定義を行う際には、秘密情報から除外する項目を決めることが一般的です。
除外されている情報であれば、第三者へ流出してしまった場合でも、責任を負う必要がありません。
除外する項目に関しては、主に以下の内容が挙げられます。
【秘密情報の定義から除外する主な項目】
秘密保持契約書には、秘密情報をどこまで開示してよいのかを記載します。
開示する範囲は、役員や仲介会社、弁護士などのM&Aに係わる人物が挙げられます。
グループ企業の子会社を買収する際には、対象企業の親会社の役員も開示範囲に含めましょう。
また、それらに該当する人物が守秘義務を負うことも記載する必要があります。
秘密保持契約書には、提示された情報を「目的以外の用途で使用してはいけない」というように記載する必要があります。
目的以外の使用を禁止することで、需要者が提出された情報をもとに、新たな事業を始めるといったことを防ぐことが可能です。
加えて、技術を利用して、需要者側の利益を拡大するといったことも防げます。
顧客情報を悪用された場合は、既存の顧客に営業を掛けられて利益が低下するといったことも考えられるため、目的外での使用は必ず制限を設けましょう。
秘密保持契約を締結する際には、有効期限を設けておくことが一般的です。
有効期限の目安は1~5年程度ですが、M&Aが長引いた場合に備えて延長できるように記載もしておきましょう。
有効期限を設ける理由は、秘密情報を管理するためにはセキュリティ対策などのコストが発生するからです。
情報の内容によっては時間とともに価値が失われていくため、保持する理由がなくなることもあります。
保持する理由がない情報の管理コストを永遠に負担することは、需要者にとっても望ましくありません。
そのような状況を回避するためにも、秘密保持契約には有効期限を設ける必要があります。
秘密情報が漏洩した場合の対処を行うために、秘密保持契約書には、損害賠償についての記載をしなければいけません。
損害賠償に関する記載をすることによって、漏洩時の対応をスムーズに進められるだけではなく、漏洩自体の抑止にもなります。
また、需要者側は、損害賠償の額に関して上限額が記載されているかを確認しましょう。
上限が記載されていない場合は、負担しきれないような賠償金額になるリスクがあります。
秘密保持契約書には、有効期限を過ぎたあとに秘密情報を、どのように取り扱うかを記載する必要があります。
需要者側が資料などを抱えていたままでいると、意図していないタイミングで秘密情報が漏洩するかもしれません。
情報漏洩のリスクを解消するためにも、「有効期限が切れたあとの資料は、情報提供者の指示に従って破棄や返却をしなければならない」といった内容を記載しておきましょう。
M&Aにおける秘密保持契約には、主に「売り手企業」「買い手企業」「M&A仲介会社」の3社が関連します。
ここからは、秘密保持契約を締結するタイミングについて、個別に解説していきます。
【秘密保持契約を締結するタイミング】
1つ目は、M&A仲介会社に情報を提供するタイミングです。
ここでは、売り手企業とM&A仲介会社の間で秘密保持契約が取り交わされます。
売り手企業側は、ノンネームシート」と「企業価値レポート」の作成依頼を行うために、仲介会社へ財務諸表を提出します。
ノンネームシートとは企業名が特定されない範囲の情報が記載された資料で、企業価値レポートとは売却価格の目安となる企業価値に関する資料です。
どちらもM&Aを行うためには必須となるため、秘密保持契約を締結して作成を依頼します。
2つ目は、買い手企業がネームクリアを打診するタイミングです。
このタイミングでは、買い手企業とM&A仲介会社の間で秘密保持契約を締結します。
ネームクリアとは、ノンネームシートを見て買い手企業が興味を示した場合に、さらなる情報の提供を依頼することです。
開示後には企業名を把握することができるため、情報漏洩の対策として秘密保持契約を交わします。
3つ目は、デューデリジェンスを実施する前です。
ここでは、買い手企業と売り手企業の間で秘密保持契約が結ばれます。
デューデリジェンスとは企業の内部監査のことであり、売り手企業側が簿外債務などのリスクを抱えていないかを把握するために実施されます。
デューデリジェンスでは、財務・税務・顧客・人事制度など、提供する情報は多岐に渡ります。
企業に関する重要な情報が開示されるため、秘密保持契約の締結は必須です。
また、デューデリジェンスに関する秘密保持契約は、事前に作成する基本合意契約書の中に記載することが一般的です。
【関連記事】デューデリジェンスとは?目的や種類、流れや費用などを解説
秘密保持契約書を作成する際には、以下の要素を抑えておきましょう。
ここからは、秘密保持契約書を作成する際のポイントについて個別に解説していきます。
【秘密保持契約書の作成ポイント】
秘密情報保持契約書に記載する秘密情報の範囲や定義は、明確に定める必要があります。
範囲などが不明確だと、情報を悪用された場合に対処することができません。
範囲や定義を決める際には、秘密情報の範囲を広く設定して、どの項目を除外するかを明確に記載しておきましょう。
また、秘密保持契約を締結する目的を明確にしておくことも大切です。
目的が明確であれば、範囲や定義、有効期間などを正しく設定することができるでしょう。
M&Aがスムーズに進んでいたとしても、最終契約の段階で折り合いがつかず、結果的に破談になることも考えられます。
破談後も買い手企業が情報を所有し続けると、それらを悪用される恐れがあります。
M&Aが中止になった場合、秘密情報をどのように取り扱うのかを記載しておきましょう。
具体的に、秘密保持契約書には「M&Aが中止になった場合、秘密情報は返却または廃棄すること」といった旨を記載します。
また、目的外の使用は、秘密保持契約の有効期限が過ぎたあとも禁ずることを記載しておけば、M&Aが白紙になった場合のリスクを減らすこともできるでしょう。
秘密保持契約書には、情報が漏洩した際に負担する損害賠償について記載されています。
記載内容が不明確だった場合には、違反した場合の対処を正確に行うことができません。
秘密保持契約に意味を持たせるためにも、違反した場合の対処については明確に記載しておきましょう。
また、買い手企業側は、万が一に備えて損害賠償の金額などは減らしたいと考えるでしょう。
一方、売り手企業側は、情報漏洩の損失を減らすためにも、賠償金額などは多く設定したいと思うことは当然です。
どちらの意思も尊重するためにも、賠償に関しては両社が納得できる範囲で定めましょう。
秘密保持契約は、情報を開示する機会が多いM&Aにおいて重要な契約です。
情報漏洩のリスクを抑えるためにも、必要な場面では必ず締結を行いましょう。
また、秘密保持契約書には、秘密情報の定義・情報の開示範囲・目的外の使用を禁ずること・情報漏洩時の損害賠償などが記載されています。
秘密保持契約書を作成したい場合は、公開されているひな形などを参考にして行いましょう。
自身のみで作成することが難しい場合は、専門家へアドバイスや作成を依頼することも有効な手段です。