投稿日:2022/04/28
更新日:2022/09/26
医療・介護業のM&Aは、病院の経営難などを理由に活発な動きを見せています。
しかし、非営利性を求められる医療・介護業のM&Aには注意点も多く、一般の株式会社の場合とは違うため事前に確認が必要です。
本記事では医療・介護業のM&Aについて解説しますので、業界動向などを深く知るきっかけになるでしょう。
目次
医療・介護業界は、人の健康に関わる職業のため、会社の選択肢はありますが、決してなくなりません。
他の業界が不況で売上を減らしたとしても、医療・介護業界のニーズはなくならないので、安定している業界といえるでしょう。
また、少子高齢化により医療や介護を必要とする人も増えていることから、さらに利益を上げられる期待もあります。
しかし医療・介護業界には数多くの職種があるため、これからM&Aを検討している人は、知識を持っておくといいでしょう。
医療・介護業界とは、医療行為や医療類似行為、これらに関連するサービスを行う業界を指します。
医療・介護業は大きく
の3つに分けることができ、とくに医療機関に所属して業務を行う職種が一般的です。
医療機関の代表的な職種は、
などが挙げられます。
国家資格が必要なものもあり、誰もがなれるものでもありませんが、職種によっては面接や試験だけで就けるため、従事者も多い業界の1つです。
医療・介護業界の大手3社を見てみましょう。
ニチイ学館は、医療・介護・ヘルスケア・教育関連企業であり、とくに介護業界では最大手です。
医療関連事業では、病院や診療所の医療事務全般と経営コンサルティングを行っています。
介護関連は全国に障がい福祉サービスを展開し、ヘルスケアでは家事代行やシニア向けコミュニティサイトの運営などの実施し、多くの実績があることで有名です。
教育関連では医療関連の人材育成を行っており、『教育から就業まで』をコンセプトとしています。
資本金 | 119億3300万円 |
売上 | 2979億6500万円 |
代表取締役 | 森信介 |
利益 | 591億8100万円 |
時価総額 | 1215億7500万円 |
従業員数 | 34,076人 |
SOMPOホールディングスは、損害保険ジャパン株式会社などの保険会社を中心に傘下におく持株会社ですが、介護事業で有名なSOMPOケア株式会社があります。
その他、ヘルスケア事業を行っているSOMPOヘルスサポート株式会社やウェルネス・コミュニケーションズ株式会社もあり、医療・介護業界でも大手企業の1つです。
資本金 | 1000億円 |
売上 | 3兆8463億2300万円 |
代表取締役 | 櫻田謙悟 |
利益 | 2021億円 |
時価総額 | 1兆7927億3400万円 |
従業員数 | 381名 |
ベネッセHDは、「進研ゼミ」や「こどもちゃれんじ」などの教育事業だけでなく、株式会社ベネッセスタイルケアと株式会社ベネッセMCMなどのシニア・介護事業を行う企業を傘下に置いています。
企業理念に「よく生きる」を掲げており、高齢化社会へのサービスも展開している企業です。
資本金 | 137億8000万円 |
売上 | 4485億7700万円 |
代表取締役 | 小林仁 |
利益 | 212億6600万円 |
時価総額 | 2258億6200万円 |
従業員数 | 20,294人 |
高齢化社会を迎えているため、医療や介護業界は地域に根ざした体制が求められており、リハビリテーションや予防医療など、積極的に事業規模を拡大していける伸び代があるといえるでしょう。
そのため、働き手の需要は今後さらに増えると考えられますが、後述する通り人手不足は深刻で、大きな課題となっています。
医療・介護業界の取引は、病院やリハビリテーション施設の場合は、患者との関係だけなので複雑ではなく、受診や薬代などの費用を頂くものです。
医療機器メーカーは、病院などが顧客となるため、営業活動を行い、受注、納品という流れになります。
経済産業省の「我が国医療機器産業の現状」によると、医療給付費は2025年度には約54兆円、介護給付費は約20兆円に達する見込みとされています。
まだまだ伸びていく業界と考えられており、背景には高齢化社会があると考えていいでしょう。
高齢者人口が増えていけばいくほど、医療・介護業界の需要も高まるため、今後も売上が期待できる業界といえます。
引用元:我が国医療機器産業の現状
医療・介護業界にはどんな課題があるのかを見てみましょう。
医療・介護業界は、少子高齢化が進んでいる状況の中、人手不足が大きな問題となっています。
人が不足すれば長時間労働を強いられるケースも増えてしまい、結果として休職や退職につながる点も大きな問題です。
少ない医療・介護従事者で対応しなければならず、とくに地方の過疎地域では人手不足の状況が顕著に出ており、早急な対応が求められます。
人手不足も背景にありますが、医療・介護従事者1人の業務が増えています。
厳しい環境になれば離職率も高まってしまい、さらに業務が重くなる悪循環が起きているといえるでしょう。
デジタル活用による業務改善など、少しでも仕事を減らす対応が必要とされています。
2025年に第一次ベビーブームの団塊世代が全員75歳以上となり、日本の人口でも多くを占めていることから医療・介護業界の負担も大きくなると考えられます。
しかし、反対に若者は少なくなっているため、十分な労働者を確保できず、医療・介護業界の基盤を維持できない恐れがあるといえるでしょう。
そのため、地域の大病院と小規模のクリニックをつなぐネットワークを構築し、情報共有でケアできる体制作りや仕事改善のためのデジタル化が必要と考えられています。
医療・介護業界でM&Aを行うメリットを見てみましょう。
同業種間であれば、知識と経験あるスタッフをそのまま抱え込めるため、事業拡大できる点が大きなメリットです。
新しい人材を雇えたとしても教育をしなければなりませんが、M&Aならばその心配はなく、すぐに働ける人材を確保できます。
また、設備も必要なものとそうでないものを精査し、コスト削減にも繋げられるでしょう。
そのため、事前に優秀なスタッフや十分な施設のある医療・介護施設かを確認し、M&Aを検討してください。
他業種間によるM&Aの場合、まだまだ発展が望める医療・介護業界への進出が可能となります。
新規参入するとなると、人材確保から教育、地域住民からの信頼獲得など、売上を作るまでに多くの時間を要しますが、M&Aならばその必要がなくなります。
少しでも早く医療・介護業界に進出したい場合は、M&Aを検討するといいでしょう。
売り手の場合、医療・介護業を廃業することなく、事業継承させられます。
そのため、これまで働いていたスタッフの雇用だけでなく、患者たちを継続してサポートできる点は大きなメリットです。
また、売却した利益を得られる点も売り手のメリットといえるでしょう。
廃業した際のコストを出すこともありません。
買い手側は、事業拡大や人材育成コストの削減をできる点が大きなメリットです。
とくに働き手不足が叫ばれる医療・介護業において経験あるスタッフを増やせることは、更なる事業拡大に必要な条件といえるでしょう。
自社だけでは企業規模をすぐに大きくすることは難しいですが、M&Aならば可能です。
業界内の地位を高めたい、地域で大きな医療・介護業を行いたいなどの考えがある場合は、M&Aで買収できる先を探してみてもいいかもしれません。
一方で、医療・介護業界のM&Aを行う際の注意点も理解しておく必要があります。
買収の基本合意が終わった後、行政手続きを確実に行う必要があるため、事前に何をすべきか確認しておきましょう。
公正取引委員会への届出や臨時報告書の提出などが必要です。
会社法に則り書類が必要となるため、わからなければ専門家に依頼するといいでしょう。
買収後の手続きにかかる時間を考慮しておけば、スムーズに最後まで進めていけるし、その後の社内調整や事業開始なども開始できます。
M&Aにおける譲渡といっても「株式譲渡」と「事業譲渡」では内容が全く違うため明確にしておきましょう。
株式譲渡は、譲渡企業が保有株式を譲渡し、会社の経営を承継させる手続きをいい、会社全てを譲渡すると考えていいでしょう。
このとき、事業だけでなく債権債務も含めた経営権の譲渡となる点が事業譲渡と大きく違う点です。
事業譲渡は、会社の一部または全ての事業を第三者に譲渡することをいい、会社自体を譲渡するわけではありません。
譲渡範囲をどうするかを明確にしてからM&Aを検討するといいでしょう。
医療・介護業の法人は主に医療法人となっており、非営利性が求められています。
そのため、一般の株式会社買収とは違い、注意すべき点が少なくありません。
医療法人の経営権を買収するには、出資特分の取得と社員総会による議決権を過半数取得する必要があります。
また、理事長には医師や歯科医師の有資格者から選任しなければなりません。
医療・介護業といった事業を売却する際の価格は、通常の企業と同じ方法で求めることができます。
企業の売却価格は、企業が持つ将来性や準資産の値などを加味した「企業価値評価」にて算出されます。
企業価値評価を行うためには専門的な知識を要するため、売却価格を求める際はM&A仲介会社などの専門家に依頼することが一般的です。
また、営業利益の3年分を売却価格の目安とすることもありますが、自社の立地などによって実際の売却価格は変動することもあるため注意が必要です。
【関連記事】M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは? 種類やメリットも解説!
医療・介護業界では、どのようなM&Aが行われてきたのでしょうか。
2016年6月、訪問マッサージ事業を運営していた株式会社ケアプラスは、警備会社である綜合警備保障株式会社(以下、ALSOK)に株式を譲渡しました。
ALSOKは2014年から介護事業を運営しており、株式譲渡によってさらなる事業の拡大発展を目指しました。
2018年6月、生命保険会社である日本生命保険相互会社は、介護分野などの情報サービス事業を手掛ける株式会社ライフケアパートナーズを100%子会社化することを発表しました。
100%子会社化することによって、より充実したサービスの展開を目指しました。
2015年10月、損害保険ジャパン株式会社などの保険会社を持つSOMPOホールディングスは、ワタミグループの一員であるワタミの介護株式会社の発行株式をすべて取得しました。
SOMPOホールディングスグループは、ワタミの介護株式会社の株式を取得することで、介護事業サービスに本格参入することを公表しました。
2019年12月、介護事業を運営する株式会社ツクイは、訪問介護事業を行っているアサヒサンクリーン株式会社の株式を譲り受けることを発表しました。
事業の譲渡によって、地域戦略の拡大を目指しました。
2017年7月、介護事業の持株会社であるソニーライフケア株式会社は、老人ホームなどを運営するゆうあいホールディングスを完全子会社化することを公表しました。
ソニーライフケア株式会社のグループ傘下同士のシナジーを獲得し、品質の向上を目的として子会社化を実施しました。
この記事の結論をまとめると、
医療・介護業のM&Aは他業種とくらべて営利目的だけではなく公共の福祉を担う面もあります。その点も含めて、慎重に進めるべきM&Aと言えます。