投稿日:2022/05/03
更新日:2022/10/08
教育業界のM&Aは、生き残るためによく見られるようになりました。
そこで今回は、教育業のM&Aについて、動向やメリット、注意点を中心に解説します。
目次
教育業界は、学習に関するサービスを提供している業界です。
学ぶことは誰もが享受できるものなので、乳幼児から高齢者までを対象としたさまざまなサービスがあります。
また、学びは人が生活していく中で無くなるものでもないため、業界としてすぐに廃れていくことも考えにくいです。
教育業界は、教育活動や教養、技能、技術などを教授する事業所です。
総務省の日本標準産業分類によると教育業界は「教育、学習支援業」に分類され、さらに細かく分けると
となります。
子供たちが通う小学校や中学校だけでなく、大人向けの職業訓練なども教育業界の一部です。
また、博物館や美術館なども教育業界に含まれているので、「学習」を軸にした事業は、全てといってもいいかもしれません。
ベネッセホールディングスは、「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」などで知られる国内通信教育の最大手企業「株式会社ベネッセコーポレーション」を傘下に置く持株会社です。
「教育のベネッセ」とも呼ばれており、時代の教育方針に合わせた教材作成にも力を入れています。
資本金 | 137億8,000万円 |
売上 | 4,485億7,700万円 |
代表取締役 | 小林仁 |
利益 | 212億6,600万円 |
時価総額 | 2,258億6,200万円 |
従業員数 | 20,294人 |
学研ホールディングスは、教育雑誌や学習参考書など教育関連の出版を中心に発展してきた企業です。
自宅学習だけでなく学習塾で使われるテキストの作成だけでなく、博物館などのディスプレイ設置やEラーニングなど教育に関して幅広い商材を扱っています。
資本金 | 198億1,700万円 |
売上 | 1,405億5,900万円 |
代表取締役 | 宮原博昭 |
利益 | 45億2,300万円 |
時価総額 | 388億7,600万円 |
従業員数 | 6,970名 |
ヒューマンホールディングスは、社会人向けの資格取得や就職・転職のための職業訓練学校を運営する「ヒューマンアカデミー」などを傘下に置く持株会社です。
大人向けだけでなく児童向けの教育事業も行っており、数多くの卒業生や修了生の実績あるサービスを展開しています。
資本金 | 12億9,990万円 |
売上 | 858億1,100万円 |
代表取締役 | 佐藤朋也 |
利益 | 27億200万円 |
時価総額 | 93億6,100万円 |
従業員数 | 4,132人 |
教育業界は、「社会で活躍できる人物を育てること」が役割となっていますが、文部科学省による学習指導要領の改訂などにより、変化の動きが激しい業界といえるでしょう。
公共教育機関の指導要綱が変わると、それに合わせて学習内容だけでなく入学試験の内容も変更されるため、学習塾や予備校も追随しなければなりません。
また、小学生からプログラミングや英語学習も開始するなど、時代の流れと共に変化があるため教育する側もやるべきことが増えます。
しかし、老若男女を対象とした事業であることは変わらないし、教育するためには資格が必要な職種もあるため、すぐに無くなるような業界ではありません。
教育業界の主な分野は、「生徒向け」と「社会人向け」の2つに分けられます。
費用の対価として知識や情報などを提供する業界で顧客は双方とも消費者となるため、BtoCの取引が一般的です。
中には新入社員研修や営業研修など企業むけに教育を行っている場合もありますが、売上の多くは一般消費者向けのものとなります。
矢野経済研究所の「教育産業市場に関する調査」によると、2020年度は2兆6,997億1,000万円の市場規模でした。
この数年多少の増減はありますが、大きく崩れていないことから安定した業界といえるでしょう。
コロナ禍によりオンラインやリモート化が進み、利用者の利便性が上がった点やコストを抑えられる点もメリットです。
一方で今後の少子化問題などと合わせて競争も激しくなると予想されており、統廃合も進んでいくと考えられます。
引用元:教育産業市場に関する調査
教育業界の問題を人、業務、未来の観点から見てみましょう。
少子化によって子供1人に掛ける教育費は上がっており、親御さんの教育に対する熱量も上がっていますが、それに応えられる教育者の不足は課題となっています。
評判の良い教育者の元に生徒が殺到すると、1人1人への対応ができないし、やろうと思えば負担が集中するだけで、結果として優秀な人材が退職してしまうかもしれません。
教育業界では1人でも多くの高度な教育ができる人材を育成し、退職させないための労働環境の整備が求められています。
通信技術の発達とコロナ禍の影響でスマートフォンやタブレットを用いたeラーニングが急速に普及していますが、デジタル化の波に遅れている企業もあります。
とくにスマートフォンのアプリを活用した語学勉強などは、学生だけでなく社会人にも使われており、個人の都合に合わせて利用できる点で人気です。
教育業界でも今後さらにデジタル化は普及すると考えられており、対応できない企業は淘汰されていくことでしょう。
少子化に伴う教育市場の縮小は近い未来にやってくると予想され、各社対応に迫られています。
教育業界の売上は子供を対象とした学習塾や予備校が大きなウエイトを占めており、少子化は各社の業績に響くことは間違いありません。
デジタル化によって授業を受けやすくするなど、個性を持たせて競合他社に負けない企業作りが必要です。
しかし、倒産が避けられないケースも出てくると予想されるので、大手企業への吸収合併などが今後さらに加速していくのではないかと考えられます。
教育業界でM&Aを行うメリットにはどんなものがあるでしょうか。
教育業界同士のM&Aは、ノウハウの共有と競争力強化が期待できます。
小学生向けに強い、中高生向けに強いなどの特徴を持った学習塾同士が一緒になれば、教育手法の共有と、お互いにこれまで手を出していなかった市場も獲得可能です。
過去にも教育業界同士でのM&A事例は多く、株式会社ナガセによる株式会社早稲田塾のM&Aはよく知られています。
他業種から教育業のM&Aは、すでに競争の激しい教育業界へ市場を広げられるメリットがあります。
既存のやり方に固執している企業もまだ教育業界にはいるため、たとえば通信事業を行っている企業であれば、オンラインに特化した教育事業を展開できるかもしれません。
今後は従来のビジネスモデルは教育業界で通用しないと考えられており、新しい業界の知識も活かせるでしょう。
そのため、教育業のノウハウを手に入れるためにM&Aを検討するのもいいかもしれません。
売り手のメリットは、従業員の雇用確保と事業継承が挙げられます。
第三者に企業を譲渡すれば、ほとんどの従業員の雇用継続が認められるでしょう。
また、これまでの事業で培ってきたノウハウや技術を承継できるため、事業継続も可能となります。
従業員の雇用を気にしている経営者は、M&Aによる売却も1つの手段と覚えておきましょう。
買い手のメリットは、短期間で事業成長できる点です。
教育業界同士の場合、自社が不得意としている年齢層や地域を得意とする先を見つけると、販路を広げられるためシナジー効果を生み出せるでしょう。
M&Aにより経験あるスタッフの確保とノウハウ、既存顧客、不動産などを取り込むことが可能なので、ビジネス拡大を容易にします。
業界内での順位も上がり、さらにブランド力を付けられれば、知名度も上がり顧客獲得もやりやすくなるでしょう。
教育業界の場合、一番の資産は優秀な講師です。
もしM&Aによってこれまでの待遇が変わってしまったら、せっかく確保できた優秀な講師に退職されてしまうリスクがあります。
1人1人の講師と向き合って、M&Aの経緯と今後について話し合う時間を設けてください。
教育業界は離職率も高いので、M&A後の労働環境の整備も重要なので怠ってはいけません。
また、とくに異業種から教育業のM&Aを行った場合、売上見込みを簡単に出さないようにしましょう。
教室数と生徒数で売上見込みを算出できますが、学校卒業と共に辞めていく生徒と同数の新規入塾者を毎年獲得できるとは限りません。
少し厳しめの収益予測をするようにしましょう。
学習塾などを売却する際の価格は、生徒や講師の人数やブランド力、将来性などによって大きく異なります。
それらは学習塾によって違いがあるため、相場となる金額を求めることは困難であるといえるでしょう。
また、実際に学習塾の売却価格を求める際は、企業価値評価によって算出された値を元に、両企業の交渉によって決められます。
例として、企業価値評価の方法には、「DCF法」や「時価純資産法」などがあります。
DCF法とは、将来獲得が見込まれるキャッシュフローに、買収によって生じるリスクを掛け合わせて算出する方法です。
一方、時価純資産法を使用する際は、時価純資産に2〜5年分の営業利益を足して求めます。
売却価格を求める場合、それらの方法を組み合わせて売却価格の基準となる金額を算出します。
企業価値評価の方法を詳しく知りたい方は、下記の記事をご参照ください。
【関連記事】M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは? 種類やメリットも解説!
教育業界で実際に行われたM&Aの事例を5つ紹介します。
2014年10月、進研ゼミなどで有名な株式会社ベネッセホールディングスは、英会話事業を行っている株式会社ミネルヴァインテリジェンスを子会社化したことを発表しました。
英会話事業の発展や拠点の増加を目指す取り組みとなりました。
2018年6月、IT教育などを手掛けるエスエイティーティー株式会社は、スマホ家庭教師「manabo」の開発運用を行っている株式会社マナボの株式を取得したことを発表しました。
エスエイティーティー株式会社が運営しているeラーニングシステムとmanaboが持つシステムを掛け合わせることで、新たなサービスの展開を目指しています。
2014年、東進ハイスクールで有名な株式会社ナガセは、株式会社サマデイなどが手掛ける早稲田塾事業の会社分割を行い、新設会社の株式を取得したということが発表されました。
早稲田塾事業のノウハウを取得することにより、競争力の強化が図られました。
2016年7月、教育総合サービス事業を手掛ける株式会社ウィザスは、翻訳業務などを行っている株式会社吉香を連結子会社化することを発表しました。
株式会社吉香をグループ会社に加えることによって、語学に関する教育サービスのシナジーを図っています。
2018年12月、学習塾を運営する株式会社京進は、日本語教育事業を展開する株式会社ダイナミック ビジネス カレッジを連結子会社化する動きを発表しました。
株式会社京進が運営している日本語教育事業の発展に加え、全体的な語学関連事業とのシナジーが図られました。
本記事をまとめると、
教育業界は老若男女関係なく誰もが顧客となりうるし、学習することは無くならないので安定している業界です。
しかし、少子化により今後の競争はさらに激しくなると予想されます。