投稿日:2022/05/05
更新日:2022/09/26
旅行業は新型コロナウイルスの影響で減収に見舞われた業界の1つです。
そのため、M&Aで生き残りを検討する経営者もいるかもしれません。
そこで今回は旅行業のM&Aについてメリットや注意点を解説します。
目次
旅行業界は、個人や団体、企業の旅行希望者に移動手段や宿泊施設の手配を行う企業をいいます。
宿泊と移動が合わさったパッケージ商品の企画と販売も行うだけでなく、個人旅行のサポートなども業務に含まれており、旅行に関してはすべて行うところから、専門店まで幅広いです。
旅行はレジャーの1つであり絶対必要なものではないし、景気に売上は左右される業界でもあります。
しかし、旅行を楽しみにしている人は多く、業界として無くなることはないでしょう。
旅行業界はサービス業の一部であり、日本標準産業分類では「生活関連サービス業、娯楽業」の「旅行業」に分類されます。
さらに業種としては「旅行業」と「旅行代理店業」の2つに分けられ、個人向けに旅行企画をできるのは「旅行業」です。
「旅行代理店業」は、旅行業者と代理店契約を結んで商品を代理販売する権利を得た企業となります。
旅行に関する企業であることに違いはなく、とくに個人レベルであれば旅行会社だろうが代理店だろうがあまり気にしないでしょう。
旅行の多様化が進んでいるので、チケットの売買も来店だけでなくオンラインで完結する仕組みを持った企業も多く、今後はさらにインターネット販売が増えていくと考えられます。
JTBは国内旅行業者の最大手であり、個人旅行から学校や団体向けパッケージの企画、企業向けなどさまざまな商品が用意されています。
国内有数の大企業ですが上場しておらず、非上場企業としても有名です。
資本金 | 1億円 |
売上 | 3,721億1,200万円 |
代表取締役 | 山北栄二郎 |
利益 | △975億5,600万円 |
時価総額 | 1,900億円 |
従業員数 | 23,785名 |
リクルートは、人材会社としての方が売上は多いですが、国内・海外旅行の予約サイト「じゃらん」を運営しています。
目的に合わせた旅行を選べるため、プライベートだけでなく出張目的のホテル予約やレンタカーなどの予約もできるので、多くの人に利用されているサイトです。
資本金 | 3億5,000万円 |
売上 | 5,670億円 |
代表取締役 | 北村吉弘 |
利益 | -131.1億円 |
時価総額 | 不明 |
従業員数 | 15,807人 |
KNT-CTホールディングスは、近畿日本ツーリストを傘下におく持株会社です。
団体旅行セールスに強みを持ちながらも、個人向け商材も取り扱っており、「近ツリ」や「近ツー」などの愛称で親しまれています。
資本金 | 80億4,100万円 |
売上 | 878億8,900万円 |
代表取締役 | 米田昭正 |
利益 | △270億8,200万円 |
時価総額 | 426億900万円 |
従業員数 | 5,451名 |
旅行業界は宿泊施設や移動手段の予約だけでなく、テーマパークや商店、地方物産製造企業などとの連携が必要で、幅広いネットワークが必要です。
インターネット専業の販売会社も業績を伸ばしていますが、すでに企業も多いので競争が激しくコスト勝負になっている面も否めません。
そこで、自社独自のパッケージを出したユニークな商材を販売するなど、商品開発に力を入れる企業努力は必要です。
また、景気や外部環境に左右されやすく、最近では新型コロナウイルスの影響で多大な損失を出した業界としても知られています。
今後は日本国内の人口が少なくなるため、海外から旅行者を迎え入れる事業の需要が伸びるのではないでしょうか。
旅行業界の取引は、旅行会社が中心となります。
旅行会社が宿泊施設や鉄道や航空などの運送業、その他テーマパークや商店などを手配し、個人や団体、企業に販売する流れが一般的です。
宿泊施設などのサービス提供者からは手数料を徴収し、個人や団体などの旅行客からは代金と手数料をもらって売上を立てるビジネスで、双方からもらえる点は旅行業界の特性です。
なお、個人や団体への販売には、旅行会社と販売代理店契約を結んだ代理店が入るケースもあります。
旅行目的も多様化しており、パッケージ型の募集型旅行から全てオリジナルの完全個人旅行まであるため、どんな分野に得意な旅行会社かを事前に確認するといいでしょう。
国土交通省の観光庁による調査によると、2019年の日本人国内旅行消費額は21兆9,000億円でしたが、2020年は10兆円、2021年は9.2兆円でした。
2019年までは売上は右肩上がりでしたが、2020年以降は新型コロナウイルスによる影響をダイレクトに受けており、旅行業界は大幅な売上減に見舞われています。
Go To トラベル施策がありましたが、一時的なものなのでコロナ禍以前に戻るにはまだ少し時間を要しそうです。
今後もまだコロナウイルスの状況が見えておらず、先行きは不透明な状況が続きます。
国内人口も減っていくため、海外からの訪日外国人向けサービスを拡充していきたいですが、コロナ禍が落ち着いてからになるでしょう。
引用元:観光庁
旅行業界の課題を人、業務、未来の観点から見てみましょう。
少子化により旅行業界も人手不足が深刻です。
現在はコロナ禍により旅行需要が減っているため人員削減や新規採用見送りなど、従業員を抑えていますが、需要が戻ってきてもすぐに人員補充できるか見通しが立っていません。
海外ガイドやオペレーションスタッフもコロナ禍で仕事がなくなり、職を離れているケースも多く、海外旅行が復活しても団体向けパッケージ商材を作れない可能性もあります。
しかし、お金に余裕を持った高齢者の人口は増えていくため、うまくこの層を取り込めれば売上増に結びつけられるかもしれません。
インバウンド需要を見込んだ外国人採用など、コロナ禍で大きく変わった旅行業界はさらなる変化が必要です。
旅行業界のデジタル化も決して進んでいるとはいえず、アナログで業務を進めている企業もあります。
とくに個人情報の管理や書類作成などの事務作業に時間を要しているケースもあり、管理システムの導入を進めていかなくてはなりません。
また、ホームページは開設したもののアップデートができていない、さらにSNSの活用や検索サイトへの登録をできていない宿泊施設も目立ちます。
人手不足も原因の1つですが、旅行業界の担い手の高齢化や通常業務が多く手を回せないことがその理由でしょう。
他業界も同様ですが、旅行業界もDXの推進が必要と考えられます。
今後もコロナウイルスのような世界的に未曾有の事態が起きるケースがあり、不測の事態にも対応できる柔軟さが必要です。
為替や国際情勢からの影響も受けるため、海外旅行だけを扱っている旅行会社は国内旅行への参入も検討が必要でしょう。
またコロナ禍が落ち着けばアウトバウンドの需要は非常にあると考えられるため、外国人を相手とした事業を展開すれば成功するかもしれません。
人口と資産が増えていくと思われる東南アジアやインドをターゲットに、インバウンドを狙ったマーケティングをしていてはいかがでしょうか。
旅行業界でのM&Aを行うメリットを見てみましょう。
旅行業界同士のM&Aは、事業強化と販路拡大のメリットがあります。
これまで持っていた双方のノウハウを共有できるため、これまでできなかった事業への挑戦や新たな市場への進出などが容易になるでしょう。
旅行業界の場合、得意とする地域や年齢層などが違う2社が統合すれば相乗効果があると考えられます。
異業種からM&Aをする場合は、旅行業界への参入障壁をさらに下げられます。
インターネット販売を通じた旅行代理店業は、比較的参入がしやすいですが、M&Aで旅行業を行っている企業を買収できれば、軌道に乗せるまでの時間を短くできるでしょう。
短期間で旅行業界へ市場を開拓したい場合は、M&Aを検討するといいかもしれません。
売り手のメリットは、売却益を得られる点です。
インターネット販売により参入しやすくなったことから、旅行業界も中小企業が多く、事業が思うようにいかない旅行会社もあるでしょう。
そんな時、廃業するとコストもかかってしまうため、売却した利益で新しい事業やセカンドライフを送るなど、経営者には選択肢を増やせるメリットがあります。
買い手のメリットは、経験あるスタッフの確保とサービス向上です。
旅行業界も人手不足が深刻化していくと考えられるので、今のうちから優秀なスタッフを抱え込んでおきたいと考える経営者もいるでしょう。
また、自社にないサービスを持っている旅行会社を買収できれば、これまでにない企画や商品を販売できるチャンスとなります。
自分達だけで新しい商品や市場を開拓できない場合、M&Aによる解決方法もあると覚えておくといいでしょう。
旅行代理店など、旅行業に携わる企業の売却価格は、年間の利益や従業員数など会社の規模によって大きく異なります。
そのため、旅行業界全体の売却相場は一概にはいえません。
規模の大きい旅行代理店では、売却価格が数億円となるケースも珍しくないでしょう。
自社の売却価格を知りたい場合は、M&A仲介会社などの専門家に企業価値評価を依頼することで、目安となる金額を知ることができます。
また、類似した業種や規模の企業の取引事例を参考にして、目安となる金額を知ることも可能です。
注意点として、中小規模などの企業がM&Aによって自社を売却した場合、取引価格が公開されていないケースがあります。
企業価値評価について詳しく知りたい方は、下記の記事をご参照ください。
【関連記事】M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは? 種類やメリットも解説!
旅行業界では、どのようなM&Aが行われてきたのでしょうか。
2020年4月、多種多様な業種の企業を傘下に有する楽天株式会社は、旅行業などを運営する株式会社Voyaginを吸収合併することを発表しました。
吸収合併によって、楽天株式会社はさらなる事業の効率化及びサービス向上を図りました。
2021年4月、アパホテルの運営などを行っているアパグループは、宮城県大崎市にある東北イン古川駅前を取得する株式譲渡契約を締結しました。
取得に伴い、2021年4月20日からアパホテル〈宮城古川駅前〉をオープンすることを発表しました。
2019年12月、タクシー事業や不動産事業を運営する第一交通産業株式会社は、旅行業を営む株式会社西日本日中旅行社の株式取得を発表しました。
西日本日中旅行社の買収によって、中国子会社との連携によるシナジーを目指しています。
2022年2月、鉄道事業を運営する西日本旅客鉄道は、電子チケット発給会社であるJTRweb Limitedと資本業務提携を行うことを発表しました。
業務提携によって、観光コンテンツの作成や観光客の西日本への誘客を目指しています。
2020年1月、株式会社HANATOUR JAPANはレンタカー事業を株式会社マルエイコーポレーションに譲渡することを発表しました。
市場環境の変化に伴い、事業選択の観点から事業譲渡が行われました。
旅行業界でM&Aを行う際の注意点は、まずはタイミングです。
旅行業界は景気に左右されやすい業界なので、国際情勢や外的要因で景気が良くないときに買収すると、黒字化するのに時間を要します。
そのため、先行きの見通しが良くなってからM&Aを検討するといいでしょう。
また、買収先の強みを知りつつ、自社サービスとの相乗効果があるかを事前に確認してください。
せっかく買収しても強みのないサービスならば、シナジー効果を出せません。
相手を知りつつ己を知ってからM&Aを検討しましょう。
本記事をまとめると、
コロナ禍により大打撃を受けた業界ですが、2022年のGWを見るとかなり活発に動いています。実際に直近では他業種からの参入などの動きもありM&Aにおいても何らかの動きがあると考えられます。