投稿日:2022/06/04
更新日:2022/09/26
産業廃棄物処理業は、行政から認められた企業が行う業務であり、M&Aが積極的に行われている業界です。
社会的に必要不可欠といえる事業の一つであり、今後もさらなる発展が期待されているでしょう。
この記事では、産業廃棄物業のM&Aについて、メリットや注意点、動向などを解説します。
目次
産業廃棄物処理業界とは、一般企業の事業活動の中で発生した産業廃棄物の処理を行う業界です。
一般家庭で発生したゴミなどは、産業廃棄物の分類には含まれません。
収集を行う廃棄物の中には、毒性や感染性を含んだ健康を害する恐れがあるものもあり、そういった廃棄物は「特別管理産業廃棄物」として扱われます。
この特別管理産業廃棄物を扱う業者も、産業廃棄物業に含まれます。
産業廃棄物業はサービス業の一部に含まれており、日本標準産業分類では小分類の「産業廃棄物処理業」に分けられます。
回収を行う廃棄物は、大きく分けると「産業廃棄物」と「特別管理産業廃棄物」があります。
「産業廃棄物」と「特別管理産業廃棄物」の種類には、以下のものがあります。
産業廃棄物の種類 | 燃えがら、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類、ゴムくず、金属くずなど |
特別管理産業廃棄物の種類 | 廃油(引火性廃油)、廃酸(廃強酸)、廃アルカリ(廃強アルカリ)、感染性廃棄物など |
産業廃棄物業界を代表する大手3社をみていきましょう。
ダイセキは、産業廃棄物業界の中でも大手と言われる企業です。
1945年創業という長い歴史を持っており、公害の発生が問題視され始めた1971年からは、産業廃棄物処理業もスタートしました。
1999年には上場を果たしており、これは産業廃棄物業界では初めての出来事です。
資本金 | 63億8200万円 |
売上 | 568億6,700万円(2022年2月期) |
代表取締役 | 山本哲也 |
利益 | 連結:129億4,000万円(2022年2月期) |
時価総額 | 237,150百万円 |
従業員数 | 連結:26,564人 |
エンビプロホールディングスは、1950年に鉄スクラップ問屋として創業しました。
2010年に純粋持株会社に移行しており、2018年には東証一部上場を果たしています。
資源循環事業を中心に、環境コンサル事業や障がい福祉サービス事業など幅広く手掛けています。
資本金 | 15億2,483万656円 |
売上 | 409億円(2021年6月期) |
代表取締役 | 佐野 富和 |
利益 | 連結:25億円(2021年6月期) |
時価総額 | 28,025百万円 |
従業員数 | 連結:418人 |
リバーホールディングス株式会社は、2020年3月に新規上場した産業廃棄物業の企業です。
産業廃棄物処理全般の課題解決や金属リサイクル業などを行っており、幅広い事業を手掛けています。
近年ではSDGs課題にも積極的に取り組んでおり、新しい時代の発展に貢献しています。
資本金 | 17億1500万円 |
売上 | 連結:366億8100万円(2019年6月期) |
代表取締役 | 鈴木 孝雄 |
利益 | 連結:13億8600万円(2019年6月期) |
時価総額 | 25,553百万円 |
従業員数 | 単独:59名 |
産業廃棄物業を行うには、市区町村などの自治体に申請を行う必要があるため、新規参入が難しいという特性があります。
活動エリアを広げるとコストがかかってしまうことから、地域に根ざして事業を行っていることも多い業界です。
専門の処理施設や特殊車両も必要なため、新規に事業を行うには莫大なコストが必要になります。
それらの特性から、M&Aのニーズが高い業界といえるでしょう。
また、産業廃棄物処理業を専門で行っている企業はあまり多くなく、自社内での廃棄物を処理するために兼業として行っている企業が多いという特徴もあります。
産業廃棄物業の取引は、主に工場や建設現場などの産業廃棄物が発生する法人企業と行います。
産業廃棄物収集運搬作業員が産業廃棄物を集めて収集現場まで運搬を行い、適切に処理します。
他の業者から委託されて回収・運搬を行う場合は、専門の許可を得ている必要があります。
移動の際に県をまたぐ場合は、それぞれの都道府県から許可を得ていなければなりません。
産業廃棄物業界の国内での市場規模は、年間約5兆円といわれています。
引用元:業界動向
2011年や2012年は震災の影響により市場規模は大きくなりましたが、2000年移行の流れを見ると全体的に横ばいの傾向があります。
人口の減少に伴い国内市場の規模は減少が懸念されていますが、大手企業は海外市場の拡大に向けて金属の回収など様々な取り組みを行っています。
また、2020年の産業廃棄物業界の売上金額は、2兆6,634億円です。
コロナの影響によって2020年の前半は規模が収縮しましたが、年度の後半からは業績が回復し、前年度の売上金額を上回る結果となりました。
産業廃棄物業界の課題を詳しく見ていきましょう。
人口の減少や高齢化の影響により、産業廃棄物業界も人手不足が大きな問題になっています。
労働環境の問題から、人材の定着率があまり高い業界ともいえる業界ではありません。
深夜帯の作業が多く、最低賃金を下回って作業を行っている従業員もいるため、人材不足に陥ってしまうという課題があります。
加えて、不法投棄問題などのネガティブイメージが強い業界であることも人手不足を招いている原因の一つであると言えるでしょう。
M&Aによる人材確保や他業種の兼業によって事業を続けている企業も多くあります。
産業廃棄物業界の業務の課題は、競合他社との差別化が図りにくいという点です。
基本的に新規の顧客を得るためには、競合他社との価格競争に勝つ必要があるため、薄利多売による事業拡大を狙う必要があります。
他の業種と異なりサービスの徹底によるアプローチを行うのが難しいため、企業努力による差別化は簡単とはいえません。
結果としてコストを抑えるためには人件費を削る必要があるため、人材不足につながってしまうといった悪循環が生まれやすい業界であるともいえます。
業務の改善のためには、事業提携やM&Aによる競合他社との共存が求められます。
産業廃棄物業界の未来の課題は、IT技術をどれだけ取り入れることができるかです。
廃棄物処理業は労働の災害が多く、人員不足も問題視されています。
これらの課題の一部は、ITの活用によって解消できると考えられています。
管理業務の一部や廃棄物の分配をIT技術の導入によって効率化することにより、安全かつ低コストで作業効率化に繋げられると考えられています。
一部では、産業廃棄物の回収ルートをAIによって作成することによって、運搬に対する効率化を目指すと言った取り組みも行われています。
未来の課題を解決するためには、人員の労働量をできる限り抑える必要があるでしょう。
ここからは産業廃棄物業界でM&Aを行うメリットを紹介します。
商業廃棄物業界同士でM&Aを行うメリットは、処理技術の向上や人員不足の解消が挙げられます。
大手の企業が処理技術のさらなる上昇に向けて、中小の産業廃棄物企業を買収するケースが多く見られます。
また、産業廃棄物に対する知識を持った人材を多く確保できることも大きな利点であるといえるでしょう。
また、特定の地域で産業廃棄物業を行うためには、自治体の許可が必要です。
許可を得るためには時間がかかるため、効率的に活動エリアを広げるための手段であるともいえます。
他業種感でのメリットは、新規参入する際の時間を抑えられるという点が挙げられます。
産業廃棄物処理業は、新規参入が難しい業界といわれています。
M&Aによる買収を行うことよって、スムーズに新規事業を進める事ができるため、業界へ参入するための有効的な手段であるといえるでしょう。
売り手のメリットは、利益を得た上で事業から撤退できるといったことが挙げられます。
産業廃棄物業は、設備などを新規で導入するためには多大な時間とコストがかかります。
売り手側が買い手の欲している設備を導入している場合は、M&Aを成功させるための大きな要因になりでしょう。
加えて、技術力を持った従業員の生活を守ることができるというのも大きな利点です。
買い手のメリットは、新たな設備の導入や技術力のある人員の獲得が挙げられます。
時間やコストを抑えて新たな設備を導入できるのは、買い手側にとって魅力的な要素であるといえるでしょう。
教育の手間を抑えて技術力のもった人員を複数人確保できるのも大きな利点です。
産業廃棄物業を行っている企業を買収する際は、必要な設備を明確にしておくことで、スムーズな取引が行えるでしょう。
産業廃棄物に携わっている企業の規模は、大手から中小企業までさまざまです。
企業の売却価格は将来性や資産などによって大きく異なるため、相場となる価格を一概に決めることは困難です。
自社の売却価格の目安を知りたい場合は、類似した業種・規模の取引事例を参考にしましょう。
また、自社の時価純資産に2〜5年分の営業利益を足すことで、目安となる売却価格を算出することもできます。
より正確な売却価格を知りたい際には、M&A仲介会社などの専門家に企業価値評価を依頼しましょう。
【関連記事】M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは? 種類やメリットも解説!
産業廃棄物業界のM&Aを行う際、注意しないといけない点も少なくありません。
産業廃棄物処理業者は、主に「収集運搬業」「中間処理業」「最終処分業」に分けられます。
それぞれ申請に必要な手続きが異なるため、M&Aを行う企業はどの業務を行っているか確認する必要があります。
「中間処理業」「最終処分業」は、産業廃棄物処分業という区分に含まれており、保持している設備が多いことから、多くの利益を見込めるでしょう。
産業廃棄物業は、その特性から不法投棄といった違法行為を行っているケースもあります。
M&Aを実施した後に問題行為が発覚し、最悪の場合、産業廃棄物業の許可が取り消されるといった可能性もあります。
産業廃棄物業を行っている業者のM&Aを検討する場合は、マニュフェストをきちんと発行しているかなどを事前に確認しておきましょう。
産業廃棄物業界では、どのようなM&Aが行われてきたのでしょうか。
2021年4月、大型家電量販店を運営する株式会社ヤマダホールディングスは、廃棄物中間処理業を運営する株式会社三久を子会社化することを発表しました。
子会社化によって、ヤマダホールディングスは環境関連事業の発展を進めることを目指しました。
2021年10月、株式会社エンビプロ・ホールディングスは、バイオ燃料などの製造・販売を行っている富士見BMS株式会社の子会社化を進める動きを発表しました。
富士見BMSがグループに加わることによって、生産体制の効率化や、バイオマス燃料の需要拡大が期待されています。
2021年7月、自動販売機の補充業務などを営むアシードホールディングス株式会社は、ロジックイノベーション株式会社を子会社化することを発表しました。
ロジックイノベーションは物流及びリサイクル事業を運営しており、シナジーによる事業拡大を目指しています。
2020年8月、三菱ケミカル株式会社は産業廃棄物業を運営するリファインバース株式会社と資本業務提携をすることを発表しました。
リファインバースは産業廃棄物全般のノウハウを持っており、廃棄物のリサイクル及び有効利用を目指しています。
2019年12月、環境ソリューション事業を運営する株式会社新東京グループは、株式会社グリーンシステムズを子会社化することを発表しました。
子会社化に伴い、京葉地域から京浜地域へと事業拡大を目指しています。
産業廃棄物業のM&Aに関して、以下の内容を紹介していきました。
産業廃棄物業のM&Aは、新規参入や事業エリアの拡大が望めるため、今後も活発的に行われることが予想されます。