投稿日:2022/04/28
更新日:2022/09/26
製造業のM&Aは大手企業の傘下入りを目的としたケースが多く、非常に注目されています。
そこで本記事では製造業のM&Aの動向やメリット、注意点を紹介するのでぜひ参考にしてください。
目次
製造業界は、原材料からモノを加工して製品を製造・販売・提供する産業です。
いわゆる「ものづくりの現場」であり、街にある中小企業から世界をマーケットにする大企業まで幅広く存在しています。
製造業界に従事している人口は非常に多く、現場でモノを実際に製造している人だけでなく、営業職や商品企画などの文系職種もあり、日本国内の重要産業といってもいいでしょう。
経済産業省では、製造業を以下のように定義しています。
業種も非常に多く、
となります。
日常生活を送る中にある製品を製造している企業全てが入っており、普段から目にするものから生産材などの工業製品まで、多岐に渡る業界といっていいでしょう。
引用元:経済産業省
製造業界の大手3社を見てみましょう。
ダイキン工業は国内だけでなく世界的にエアコンのメーカーとして知られています。
空調事業と換気事業は世界トップを誇り、従業員の8割は海外で働いている日本を代表するグローバル企業の1つです。
資本金 | 850億3,243万6,655円 |
売上 | 2兆5,503億500万円 |
代表取締役 | 十河政則 |
利益 | 2,655億1,300万円 |
時価総額 | 6兆190億9,500万円 |
従業員数 | 7,732名 |
SMCは空気圧制御機器メーカーで、空圧シリンダーなどの工場自動化設備の空圧制御機器で世界トップです。
海外展開にも力を入れており、世界81か国に営業拠点を設け、世界シェアも3割を獲得しています。
資本金 | 610億円 |
売上 | 5,796億4,800万円 |
代表取締役 | 髙田芳樹 |
利益 | 1,802億300万円 |
時価総額 | 4兆4,409億8,800万円 |
従業員数 | 19,746人 |
クボタは農業機械メーカーとして知られており、国内トップ、世界でも3位となる企業です。
農業機械以外にも建設機械や鉄管、産業用ディーゼルエンジンの製造も行っており、世界110ヶ国に事業展開をしています。
資本金 | 841億円 |
売上 | 2兆1,967億6,600万円 |
代表取締役 | 北尾裕一 |
利益 | 2,462億7百万円 |
時価総額 | 2兆7,233億6,000万円 |
従業員数 | 41,605人 |
製造業界は裾野が広く、製品の元を作る素材メーカーが上流にあり、その素材を使って部品を作る製造メーカーがあり、下流には素材や部品を組み立てて製品を作るメーカーがあります。
国内だけでなく海外との取引も多いため、為替や戦争などの外的要因による部品供給の遅れなどの影響も受けやすく、サプライチェーンの確保が重要です。
景気にも左右されやすく、最終製品の売上が下がれば業界全体の低迷にも繋がります。
そのため、海外市場を狙って事業展開していく企業が多いのも特徴といえるでしょう。
製造業界の取引は大きく以下になります。
出荷のリードタイムを早めるために自社倉庫などに在庫をストックしている企業もあり、製造は受注生産でないケースも多いです。
売上予測を立てながら製造を行っていく必要があり、営業活動だけでなくマーケティングや世界動向に対する柔軟な姿勢も求められます。
総務省・経済産業省の「2020年経済構造実態調査」によると、2018年の製造業売上高は413兆2,807億6,600万円、2019年は400兆9,097億9,900万円でした。
売上が年々減少している状況で、新型コロナウイルスや為替などの外部要因の見通しも不透明で、今後も減少傾向にあると考えられています。
業績低迷を理由に新たな設備投資も控えられる傾向で、急激な回復の見通しは立っていない状況です。
引用元:2020年経済構造実態調査
製造業界が抱える課題を、人・業務・未来の観点から見てみましょう。
少子高齢化による国内労働力の低下に伴い、製造業界でも人手不足が深刻化しています。
少しでも雇用確保できるように外国人人材の確保や、企業イメージ改善により若者に興味を持ってもらう動きも出ていますが、すぐに改善できるわけではありません。
特に中小企業では大きな問題となっているため、今後M&Aで解決を図る企業が多くなることも考えられます。
技術を持った人材の高齢化により技術継承がうまくいっていない企業もあり、業務が滞っています。
また、歴史ある企業も多いため、十分なデジタル化が進んでおらず、旧態依然の業務をしているところも少なくありません。
そのため、デジタル化を進めて属人化しないような工夫が必要ですが、初期費用も掛かることから、業務はできていることを理由に十分な浸透ができていない状況です。
なるべく少ない人材で業務を回していけるように、DXや工場自動化を進めていくことが喫緊の課題といえるでしょう。
世界で同時多発的に起きる新型コロナウイルスのような問題が今後も起きる可能性があります。
また、政治的・国際的な問題により左右される業界でもあるため、不確実性な問題に備えた準備が必要です。
社会情勢や環境変化に対して柔軟な姿勢が求められますが、予測は非常に難しいため、従来の安定したビジネスモデルだけでは通用しないと考えた方がいいでしょう。
製造業界のM&Aを行うメリットを見てみましょう。
同業種間であれば原材料費の削減や、技術の吸収などにより業界内における競争力をアップできる点は大きなメリットです。
経験ある従業員の確保もできるため、新たな人材獲得のコスト削減につながるだけでなく、これまでのノウハウを活かした新たな製品を生み出せる可能性もあります。
また、設備の獲得も可能なので生産能力アップも期待できるでしょう。
他業種間でのメリットは、日本でも重要な市場である製造業への進出ができる点です。
製造業へ異業種から進出するとなると、人材確保だけでなく設備投資が必要ですが、M&Aで一気に解決できます。
また、現在の事業と製造業を掛け合わせた新たなマーケット創出も期待できるかもしれません。
売り手側のメリットは、廃業コストの回避と売却利益獲得です。
廃業するにもコストがかかりますがM&Aならばその必要がなくなり、売却することで利益を得られます。
また、事業継承と従業員の雇用を守れる点もメリットといえるでしょう。
事業を残せれば、これまで取引のあった顧客に迷惑をかける心配も無くなります。
廃業となると顧客や従業員への影響を気にする経営者は多いでしょうが、M&Aならばその心配を最低限に減らせるでしょう。
買い手側のメリットは、事業成長の促進と人材や設備、ノウハウを短期間に得られることです。
製造業の場合、ノウハウと人材がいなければ顧客に満足される製品製造ができませんが、M&Aなら短期間で解決できます。
効率よく製造業での売上アップを狙う場合、M&Aを検討してみてもいいでしょう。
一方で製造業界でM&Aを行う際の注意点も確認しておきましょう。
せっかくM&Aが成功したとしても、その後のアフターマネジメント策をまとめていないと会社としてのまとまりが出せないだけでなく、シナジー効果を発揮できません。
新しい人材や設備を既存のものと一気に合併させてしまうと、どこかで歪みが生じてしまう恐れがあるため、事前に進め方を決めておく必要があります。
組織編成だけでなく、従業員のフォローを行い、社内の不安を解消しておかなければ、先々大きな問題となりかねません。
M&Aを実施するときは、同じ目線で買収先と交渉しなければうまくいきません。
どこかで「買ってやるんだ」という態度が出てしまうと、付いてきてほしい従業員たちが入社を拒否する可能性もあり、M&Aによる人材確保が思うように進まないでしょう。
どうしたらうまくいくのかを意識してコミュニケーションを取ってください。
価値判断を徹底して行わないとM&Aはうまくいきません。
買収先の考えていることや文化などを無視して買収すると、従業員から反対されるだけでなく、企業規模がでかくなっただけで利益を上げられないでしょう。
また、原価計算も明確に行わなければ、買収後に利益を出せずに逆に赤字事業となってしまう可能性もあります。
時間とコストを掛けてM&Aを行うのならば、シナジー効果をしっかり出せるように事前に企業調査を行い、利益を出せるかを確認しましょう。
製造業を営んでいる企業を売却する際の価格は、経営者であれば気になるところでしょう。
一般的な中小企業であれば、時価純資産に2〜5年分の営業利益を足した金額が売却価格の目安になります。
例として、自社の純資産が3000万円で年間の営業利益が1000万円の場合、5000〜8000万円が売却価格の目安であるといえるでしょう。
ただし、実際に売却価格を算出する際は、企業が持つ独自の強みや、買収によって生じるシナジーも加味して計算します。
そのため、最終的な売却価格は目安となる金額を上回ることも考えられます。
より正確な売却価格を知りたい場合は、M&A仲介会社などの専門家に依頼することがおすすめです。
【関連記事】M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは? 種類やメリットも解説!
製造業界のM&Aの実例を5つ紹介します。
2017年、金属加工や塗装を事業としている日創プロニティ株式会社は、金属の精密加工を得意とする綾目精機株式会社を子会社化することを発表しました。
相互の関係を連結することによってシナジーを生み、段階的な成長を目的として子会社化が行われました。
2019年2月、機械事業を手掛ける日阪製作所は、機械技術や食品類のノウハウを所有している小松川化工機株式会社の株式取得を行うことを公表しました。
子会社化によって、食品や医療の事業拡大、新規顧客の獲得を目指しています。
2021年、非金属の商社であるアルコニックス株式会社が、電子部品のメーカーであるジュピター工業株式会社の連結子会社化を公表しました。
ジュピター工業株式会社は電子部品や半導体などに関する高い技術を有しており、企業価値向上を図っています。
2019年4月、総合化学メーカーである宇部興産株式会社は、スペインのコンパウンドメーカーであるRepol S.L.の買収を締結したことを発表しました。
買収によって、宇部興産株式会社はコンパ運と技術やリサイクル技術の向上を図りました。
2019年3月、部品メーカーである株式会社ムロコーポレーションは、高い樹脂成形技術を持つイガリホールディングス株式会社を子会社化することを公表しました。
イガリホールディングスを子会社化することによって、物流などの効率化や技術力の向上を図り、事業のさらなる発展を目指しました。
この記事をまとめると
売上が右肩下がりではありますが、日本にとって製造業が大きな市場であることは間違いありません。
そのため、製造業界で売上拡大を考えている場合、労働人口と設備の確保や事業継承を解決するM&Aを検討する価値があると言えます。