投稿日:2022/05/03
更新日:2022/10/08
食品業界のM&Aは、中小企業を中心に多く見られるようになりました。
今回は食品業界のM&Aのメリットや注意点について解説します。
目次
食品業界は、人が生きていくために欠かせない「食」に関係している業界です。
一言で食品業界といっても職種はさまざまあり、従事している人も多い特徴を持っています。
人の生活を守っている食品業界は、決してなくなることはありません。
老若男女誰もが必要としている食品に関係する業界なので、業界規模も大きいです。
食品業界は経済産業省の統計分類表では、製造業の「食料品製造業」と「飲料・たばこ・飼料製造業」の2部門に属します。
製造業の中でも事業社数が最も多く、売上も製造業全体の1割強を占めており、国内の中でも大きな業界といえるでしょう。
政府統計の総合窓口ページによると、食品製造業は以下に分けられます。
また、飲料・煙草・飼料製造業は以下です。
このように、人が生きていくために欠かせないものが多く、人々の生活の根幹といってもいいでしょう。
食品業界大手3社を紹介します。
日本たばこ産業は、国内で唯一たばこ製造を行っていますが、それ以外にも医薬品や食品分野にも進出しています。
売上の6割は海外事業で、たばこ関連企業としては世界3位の世界的規模の企業です。
資本金 | 1,000億円 |
売上 | 2兆3,248億3,800万円 |
代表取締役 | 寺畠正道 |
利益 | 4,990億2,100万円 |
時価総額 | 4兆4,210億円 |
従業員数 | 55,381人 |
アサヒGHDは、酒類や飲料、食品事業を手掛けている企業です。
傘下にはアサヒビールやアサヒ飲料、アサヒグループ食品と馴染みの多い企業を抱えており、人々の生活を支えています。
資本金 | 2,200億4400万円 |
売上 | 2兆2,361億円 |
代表取締役 | 勝木敦志 |
利益 | 2,119億円 |
時価総額 | 2兆3,058億5,100万円 |
従業員数 | 30,020名 |
キリンHDは、麒麟麦酒株式会社を中心とするキリングループの持株会社です。
三菱グループの一員としても知られており、酒類や飲料、医薬品などを手掛けています。
資本金 | 1,020億4,579万3,357円 |
売上 | 1兆8,215億7,000万円 |
代表取締役 | 磯崎功典 |
利益 | 1,983億2,200万円 |
時価総額 | 1兆6,607億3,800万円 |
従業員数 | 29,515人 |
食品業界は売上規模が数千億円から1兆円規模の企業が多く、上場企業も120社を超える国内でも大きなマーケットです。
生きていくためには欠かせない食に関する業界なので、決して無くなることはありませんが、少子高齢化に伴い売上が下がっていく恐れはあります。
そこで、海外進出により売上確保を目指す動きも活発化しており、とくに東南アジア諸国では日本の食品メーカーによる製品の販売も当たり前になってきました。
また、コロナウイルスによる巣ごもりによりBtoB向けの売上は下がっていましたが、多少落ち着きを取り戻し、原材料費高騰を背景に値上げも進んでいる業界です。
最終的に調理した料理を直接提供する外食産業を除き、基本的にはBtoBの取引となります。
商社などが原材料を買い付けて食品メーカーに販売し、生産や加工したものを小売店などの流通に販売する流れです。
ただし、最近は食品メーカーが直接ECサイトを通じて消費者に販売するケースも出てきており、必ずしもこの流れではありません。
食品業界の市場規模の変遷を見ると以下の通りです。
年度 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 |
売上高 | 452,845億円 | 448,844億円 | 458,416億円 | 441,287億円 | 421,311億円 |
引用元:財務省「年次別法人企業統計調査(令和2年度)」
2018年から2020年を見ると売上が減少しています。
また、2020年は新型コロナウイルスによる巣ごもり需要により売上減少に拍車を掛けたと考えていいでしょう。
そして、2021年から2022年にかけては原材料高騰に伴い、値上げを実施する食品関連企業も多く、今後の見通しも不透明です。
少子高齢化に伴う国内マーケット縮小により海外市場に展開していく流れも加速しています。
食品業界の課題を人、業務、未来の観点から見てみましょう。
少子高齢化が進んでおり、食欲旺盛な子供や若者が減っているため、食品業界の売上も国内では減少していくと考えられています。
そのため価格を下げて生き残りを掛けたくても、原材料が高騰しているため、利益を減らさなくてはなりません。
日本国内のマーケットには限界もあるため、海外マーケットを狙って国外へ進出している企業も多数あります。
しかし、それができるのは豊富な資金を持った大企業しかできないため、食品業界の中小企業の競争は高まる一方です。
人の口に入る食品を取り扱う業界なので、消費者からの安全をはじめとする要求が高いため、品質管理が非常に重要です。
もし問題が起きればSNSなどで悪評が広まる可能性も高く、業務を慎重に進めなくてはなりません。
また、商品のライフサイクルも短く、新しい商材を常に展開していかなければ競争に勝てないプレッシャーもあります。
最終消費者の声を聞いていかなくてはならず、製造だけでなく開発もサイクルを早めなくてはなりません。
原材料を海外に頼るケースが多く、為替や国際情勢悪化による高騰が懸念されています。
企業努力で値上げを抑えたくても既に限界に達しており、商品価格をアップしている企業も出てきているのが実情です。
低い利益率だと思い切った経営に着手できず、結果として海外企業に負けてしまう可能性も高く、成長をあまり期待できません。
食品業界でM&Aを行うメリットを紹介します。
食品業界内でのM&Aは、企業規模を大きくして競争力を付けられるでしょう。
資金も多くなることから、これまで挑戦できなかった海外市場への展開なども視野に入れられるかもしれません。
また、経験あるスタッフの雇用も可能なので、製造能力アップだけでなく、研究開発も加速できるでしょう。
他業種から食品業界企業をM&Aする場合、これまでの事業と食を掛け合わせた事業を展開できる点が大きなメリットです。
消費者にダイレクトに届けられる商材を扱うため、ブランドイメージもアップするかもしれません。
また、食は生活必需品なので、消費者に受け入れられれば売上アップも望めるでしょう。
M&Aによる売り手のメリットは、事業継承と売却益を得られる点です。
せっかく続けてきた事業を止めてしまうと、これまで取引のあった顧客に迷惑を掛けてしまいます。
また、従業員も路頭に迷わすことにつながるため、M&Aで事業を続けられるならば雇用の継続も可能です。
どうしても赤字で経営が難しくて事業を畳みたくても、顧客や従業員のことを考えて踏み切れない経営者もいるかもしれません。
そんなとき、M&Aを検討してみてもいいのではないでしょうか。
買い手側のメリットは、マーケット拡大と経験ある従業員の確保です。
自社だけでは競争力に欠ける場合、M&Aで統合して企業体力を付ければ経営を続けられるかもしれません。
また、少子化に伴い新たな雇用創出が難しい昨今ですが、M&Aならば即戦力を新たな仲間として迎え入れられます。
とくに海外マーケットを考えている場合は、従業員の確保は解決すべき重要な問題です。
少しでも経験あるスタッフを確保できれば、マーケット拡大の足がかりとなるでしょう。
では、食品業界でM&Aを行う場合はどのようなことに注意すべきでしょうか。
M&Aを行うならば、どんなシナジー効果があるかを事前に明確にしなければなりません。
今後一緒にやっていくならば、売上アップをどの程度できるのか、今ある事業と絡めて新たな事業を起こせるのかなど、相乗効果がなければ意味がないからです。
自社の経営を見直しつつ、買収先の生産能力や営業力を見定めて、シナジー効果を確認しておきましょう。
買収する先の企業価値の算定も事前に見ておくポイントです。
どこでも買収すれば売上アップや新たな市場開拓ができるわけではありません。
会社を大きくするには企業価値のある先を買収しなければ意味がないからです。
決算時の賃借対照表の確認だけでなく、どんな顧客を持っているのか、強い地域はどこかなどもM&A検討時に確認しておきましょう。
当事者間で交わされる特約の有無があるかも事前に見ておきましょう。
もし特約がある場合、一定の条件が揃うとある対象物を売手に買い戻される可能性があるからです。
M&Aではそこまで頻繁にあるものではありませんが、売手側がリスクを軽減して求めてくるケースもあるため、特約があったとしても内容の把握は必ず行ってください。
食品業を営んでいる企業の売却相場を把握することは、買い手企業・売り手企業の双方にとって重要です。
相場を把握することで、自社を安く売却してしまうリスクや、相場を大きく上回る価格で買収してしまうといった事例を避けることができるでしょう。
中小規模の食品業を営んでいる場合は、時価純資産に2〜5年分の営業利益を足すことでおおよその目安となる金額を算出することができます。
ただし、実際の売却価格はDCF法などの専門的な手法を組み合わせて求めるため、上記の計算によって算出された値と大きく異なることもあります。
より正確な売却価格を知りたい場合は、M&A仲介会社などの専門家に依頼することがおすすめです。
【関連記事】M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは? 種類やメリットも解説!
食品業界で実施されたM&Aの事例を5つ紹介します。
2019年5月、大豆製品の生産メーカーである株式会社やまみは、大手食品企業であるハウス食品グループ本社株式会社と資本業務提携をすることを発表しました。
両社が持つ食品のノウハウを活かし、事業の発展を目指す取り組みとなりました。
2021年8月、医薬と食の融合を目指している株式会社ファーマフーズは、医薬品製造及び販売を事業としている明治薬品株式会社の子会社化を行うことを発表しました。
製造などの技術を獲得することで、企業価値の向上を図りました。
2019年2月、柿の種やソフトサラダなどで有名な亀田製菓株式会社は、玄米や白米の販売を手掛ける株式会社マイセンの株式を90%取得したことを発表しました。
亀田製菓の持つノウハウや両社が持っている強みを活かし、企業価値の向上を目指しています。
2017年5月、食品製造メーカーであるオーケー食品工業株式会社は、油揚げの製造事業を行っているベジプロフーズ株式会社を子会社化することを発表しました。
子会社化によって、製品供給の安定化や事業の拡大を目指す取り組みとなりました。
2019年10月、調味料販売で有名なブルドックソース株式会社は、同じく調味料を販売しているサンフーズ株式会社の子会社化を発表しました。
子会社化を行うことによって、ブルドックソース株式会社は、ミツワソースやヒガシマルソースなどの新たなブランドを獲得することができました。
本記事をまとめると、
食品業界は、競争が激しいのに原材料高騰に伴う値上げなどで逆風が吹いている状況ですが、決してなくなることのない業界です。
だからこそ企業統合で業界順位を上げる為にM&A増加が予想されます。