人材業のM&A動向やメリット、売却・買収の事例などを紹介!

投稿日:2022/05/05

更新日:2022/09/26

人材業のM&Aは水面下でよく見られるようになってきました。

少子高齢化を迎える国内において、今後さらに雇用の流動が激しくなると考えられますが、その際に人材業界が果たす役割は大きなものとなります。

将来性があることを理由に人材業のM&Aを検討する人もいるのではないでしょうか。

そこで今回は、人材業のM&Aについてメリットや注意点について解説します。

人材業界とは

人材業界とは、人材の紹介や派遣事業を通じて企業と人をつなぐ業界です。

少子化に伴い、即戦力を求める企業も増えており人材業界の役割は今後も期待されます。

また、企業の選択肢も増えているため、就職や転職を求める人も人材業を生業とする企業の助けを借りるケースも普通の光景となりました。

将来的には高齢者の再就職支援やグローバル人材確保など、まだまだできることが多いのも人材業界の特徴です。

人がいなくては企業が成り立たないので、需要がなくなることもないでしょう。

人材業界の定義

人材業界はサービス業の1つであり、日本産業標準分類では中分類「職業紹介・労働者派遣業」に分類されます。

人材業界の主な事業柱は、

  • 人材紹介
  • 人材派遣
  • 人材広告
  • 人材コンサルティング

の4つです。

求職者と求人者のマッチングを行う人材紹介や、派遣社員に登録している人を求職社へ派遣する人材派遣は就職時に利用者も多いため、有名企業も数多くあります。

どれかに特化している企業もあれば、総合的に人材に関すること全てを行っている大企業もあるため、これからM&Aを検討している場合はどの分野に秀でているかを見極めておくといいでしょう。

人材業界の大手3社

人材業界の大手3社

リクルートHD

リクルートHDは、「リクナビ」や「リクナビNEXT」などの就職・転職サイト運営で有名な株式会社リクルートなどを傘下におく持株会社です。

もともと人材関連企業からスタートして会社規模を大きくしている歴史もあり、国内人材業の最大手といってもいいでしょう。

資本金400億円
売上2兆2,693億円
代表取締役出木場久征
利益1,628億円
時価総額8兆1,711億3,500万円
従業員数46,800名

パーソルHD

パーソルHDは、パーソルテンプスタッフ、パーソルキャリアなどを傘下に置く持株会社です。

人材派遣会社テンプスタッフが母体となっており、転職支援サービス「DODA」は長年多くの転職者と求人企業に利用されてきた歴史があります。

資本金174億7,900万円
売上9,258億1,800万円
代表取締役和田孝雄
利益441億1,100万円
時価総額6,140億1,200万円
従業員数54,760名

パソナグループ

パソナグループは人材派遣会社として有名なパソナを傘下に置く企業です。

派遣事業だけで40年以上の実績もあるため、多くの求職者が利用した企業の1つといっていいでしょう。

資本金50億円
売上3,249億8,400万円
代表取締役南部靖之
利益105億7,700万円
時価総額864億2,400万円
従業員数21,789名

人材業界の特性

人材業界は自社ではなく、取引企業の業績や業界の状況によって業績が左右される点は他業界と大きな違いです。

自社努力としては競合と比較してどれだけ優秀な人材を紹介できるか、あるいは派遣できるかが重要となるため、人材の見極めと育成環境がポイントとなります。

また、派遣事業は風当たりも強く給与面などの待遇改善を求める労働者もおり、今後も法改正によって変化があるかもしれません。

人材を商品とするため、今後もなくなることはありませんが、すでに競争は起こっており、新たに参入してもすぐに売上を立てるのは難しいでしょう。

人材業界の取引の流れ

人材業界の取引の流れ

人材業界の取引は、人材紹介と人材派遣とで少々異なるため、双方を紹介します。

人材紹介の場合、求職者と求人企業の間に人材紹介会社が入り、求職者には就職・転職支援を、求人企業に対しては求職者の紹介による成功報酬を対価としてもらうビジネスです。

人材派遣の場合、派遣社員とは雇用契約を結び給与の支払いを行います。

派遣先企業とは人材派遣契約を結び、派遣料金を支払ってもらうビジネスモデルです。

どちらも共通しているのは、求職者と求人企業との間に入っている点で、基本的に対価は企業から支払ってもらうケースが多いですが、昨今は求職者にも支払って得ている企業もあります。

今後も大きな流れは変わらないでしょうが、求職者が費用を出してでも使いたいと思われる人材企業も増えてくるかもしれません。

人材業界の市場規模

矢野経済研究所の調査によると、人材業界の2020年度売上は前年度0.3%増の8兆2,225億円でした。

この数年右肩上がりで売上は上がっていましたが、コロナ禍による採用活動の消極化により、人材紹介業は前年割れとなっています。

今後、少子化により若手の求職者は減るため、高齢者向け再就職支援の事業が活況を迎えるかもしれません。

そのため、少子化だといってもやり方によってはまだ売上を伸ばせる余地のある業界と考えられます。

引用元:矢野経済研究所

人材業界の課題

人材業界の課題

人材業界の課題を人、業務、未来の観点から見てみましょう。

人の課題

昔に比べて雇用構造が大きく変わり、働く女性が増えており、高齢者の働き手やグローバル人材も今以上に必要となってきます。

いつまでも若手重視の就職や転職支援をしていると競合に負けてしまうため、同じ人材業界の中でも事業転換を迫られる企業もあるかもしれません。

長期雇用が当たり前でなくなった状況なので、今後も人の流動は増えていくと考えられます。

その中で人材業界が果たす役割は、今以上に重要なものとなるでしょう。

業務の課題

人を相手にした事業なので、顧客となる求職者に合わせた業務時間となり、どうしても遅い時間まで仕事せざるを得ない労働環境です。

1人が抱える業務量も多く、事務作業に追われているスタッフもいます。

そのため1人の業務量を算出して、AIなどに置き換えられる部分がないかの精査が必要でしょう。

事務作業の時間が多く取られている場合は、ソフトの導入を行い効率化を図らなくてはスタッフの残業時間は減りません。

未来の課題

今後ますます雇用の流動化は起こると考えられており、転職エージェントを頼る人材も増えていくと思われます。

年齢や国籍に関係なく求職者は出てくるため、人材業界はさまざまなケースに対応できる準備をしなくてはなりません。

ライフスタイルの変化と共に就労環境も大きく変わります。

時代に合わせて人材業界も変化しなくてはならないため、時流を見極める目が経営者には求められるでしょう。

人材業界のM&Aを行うメリット

人材業界のM&Aを行うメリット

人材業界のM&Aを行うメリットを紹介します。

同業種間でのメリット

人材業界同士のM&Aならば、取り扱い企業案件数の拡大だけでなく、非公開求人と呼ばれる有名企業の案件を獲得できるでしょう。

双方の事業ノウハウも共有できるため、人材業界内の市場位置も上がり、ブランド力も身に付けられます。

人材業界も認知度が高い方が求職者をはじめ利用者が増える傾向です。

他業種間でのメリット

異業種から人材業のM&Aを行う場合は、立ち上げ初期に苦労する法人営業コストを減らせます。

紹介案件がなければ求職者は集まりません。

しかし、M&Aで買収できればすでに取引ある顧客を入手できるので、堅調な売上推移の人材業界への参入が比較的楽になります。

すぐに人材業界へ進出したい場合は、企業や事業買収を検討するといいでしょう。

売り手のメリット

売り手のメリットは、競争の激しい人材業界において事業の安定化と成長が望める点です。

とくに自社だけでは限界がある場合は、人材業界内の大手企業の傘下に入って巻き返しもできるでしょう。

また、事業継承も同時にできるため、これまで抱えてきた顧客や従業員に迷惑を掛けることなく事業を手放して売却益を得られます。

買い手のメリット

買い手のメリットは、ノウハウを持ったスタッフと取引先を確保して企業成長を早められる点です。

人材業界ではいかに多くの取引先があるかは、売上アップのための必須事項です。

求人者も求職者も双方ともなくてはならない人材業界では、新規法人営業はかなりの労力が要ります。

M&Aならば双方とも短期間で入手できるため、事業規模を短期間で大きくしたい場合は検討するといいでしょう。

人材業界のM&Aを行う注意点

人材業界のM&Aを行う注意点

人材業界でM&Aを行う場合、自社とのシナジー効果を見定めましょう。

自社で注力している方面と違う分野に注力している企業を買収した方が、経営資源を有効活用できるため、経営統合によって企業規模を大きくしやすいです。

また、人材業界の中でも人材紹介や派遣などによって実績がどの程度あるのか、集客力はあるかも確認しなければなりません。

あまり求人者も求職企業もない場合は、業務だけ増やしてしまい、せっかく確保した人材を余らせてしまうかもしれません。

その他、DXによる業務効率を受け入れる余地があるかも見極めるポイントです。

せっかく経営統合するならば、相乗効果を期待できる形でなければ意味がないので、相性のいい企業を探してください。

人材業界の売却相場

人材業を営んでいる企業が自社を売却する場合、相場となる金額はどれくらいになるのでしょうか。

結論からいうと、M&Aによる売却価格は企業の将来性や資産によって大きく異なるため、業界全体の相場となる価格は一概に決めることができません。

ただし、自社の売却価格の目安となる金額は、時価純資産に2〜5年分の営業利益を足すことで求めることができます。

この算出方法は「時価純資産法」と呼ばれる企業価値を評価する方法であり、実際には他の手法なども組み合わせて売却価格を決定します。

他の企業価値評価方法も知りたい方は、下記の記事をご参照ください。

【関連記事】M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは? 種類やメリットも解説!

人材業界でのM&A・会社売却の事例

ここでは、人材業界のM&Aの実例を5つ紹介します。

1.株式会社パソナによるNTTグループ人材サービス会社6社の株式習得

2017年3月、人材サービスを行っている株式会社パソナは、NTTグループの人材サービス会社6社の株式取得と事業譲受の契約を交わしたを発表しました。

両社の認知力などの融合によって、営業活動やサービスの拡大を目指しています。

2.エンジャパン株式会社による株式会社Brocanteの子会社化

2019年12月、人材紹介サービスの運営を行っているエンジャパン株式会社は、フリーランス向けの案件祭をを運営している株式会社Brocanteの完全子会社を行うことを発表しました。

子会社化に伴い、エン・ジャパンはフリーランス向け事業領域にて、収益の向上を目指しています。

3.株式会社クイックによる株式会社クロノスの子会社化

2019年7月、人材サービス企業である株式会社クイックは、システム開発を得意とする株式会社クロノスを子会社化することを発表しました。

人材不足の解消をITで解消することが求められている現代で、IT化を進めることで企業価値向上を図っています。

4.株式会社アウトソーシングによる株式会社ISC就職支援センターの子会社化

2021年9月、人材派遣サービスを営んでいる株式会社アウトソーシングは、茨城を中心に高い知名度を誇る株式会社ISC就職支援センターを子会社化したことを発表しました。

子会社化によって、アウトソーシングは茨城県の対応力強化及び、グループ連携によるシナジーを見込んでいます。

5.株式会社ツナググループホールディングスによる株式会社GEEKの子会社化

2020年3月、人材サービス業を運営しているツナググループホールディングスは、WEB開発を得意としている株式会社GEEKを子会社化することを発表しました。

GEEKが持つHRテックのサービス開発技術を取り入れることで、スピードとコストパフォーマンスを兼ね備えたサービスの提供を目指しています。

人材業界M&Aのまとめ

ビジネスシーン・握手

この記事をまとめると、

  • コロナ禍でも人材業界は堅調に売上を伸ばしてきた
  • 将来的には雇用の流動性が激しくなると考えられ、人材業界の役割も重要となる
  • 高齢者の再就職支援やグローバル人材の受け入れなど、柔軟な対応が求められる
  • 人材業界はどれだけ多くの企業や求人者と取引があるかが重要なので、M&A時にはこれまでの実績を細かく見るべきである

人材業界のM&Aは競争力を付けることを理由に増えており、今後もさらに活性化すると考えられます。

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