投稿日:2022/10/20
更新日:2022/11/12
福岡県は九州を代表する都道府県であり、数多くの企業が存在する地域です。
しかし、近年では福岡県も含めて中小企業の数は減少傾向にあります。
企業減少の理由として挙げられるのが経営者の高齢化と後継者不足であり、それらは国内で問題視されています。
事業を引き継ぐ相手がいない場合、M&Aによる第三者への事業承継は有効な手段です。
この記事では、福岡県におけるM&A・事業承継の動向、支援機関や利用できる補助金などを解説していきます。
目次
まずは、福岡県における企業の現状を見ていきましょう。
年度 | 中小企業数 | うち小規模企業数 | うち中規模企業数 | 大企業数 | 合計 |
2009年 | 154,699 | 132,668 | 22,031 | 384 | 155,083 |
2012年 | 142,502 | 121,401 | 21,101 | 333 | 142,835 |
2014年 | 143,058 | 119,666 | 23,392 | 350 | 143,408 |
2016年 | 135,052 | 112,884 | 22,168 | 337 | 135,389 |
中小企業庁が発表した「都道府県別規模別企業数」によると、2016年度における中小企業の数は135,052社でした。
2009年度と比較すると19,647社減っており、この現象は福岡県に関わらず全国的に見られています。
中小企業が減少している理由は、経済不況による経営不振もあるでしょう。
しかし、近年では経営者の高齢化や後継者不足によって、廃業という選択を取る中小企業の数も増えています。
2022年4月、東京商工リサーチが発表した「2021年 全国社長の年齢 調査」によると、社長の平均年齢は全国平均で62.77歳、福岡県は62.83歳でした。
福岡県における経営者の平均年齢は全国と比較すると僅かに高く、高齢化の影響を受けています。
経営者の年齢がこのまま上がっていった場合、会社を存続させるためには事業を誰かに引き継がなければなりません。
しかし、近年では事業を引き継ぐ相手がいないという悩みを抱えている経営者が多く見られています。
福岡県の企業がM&Aによる事業承継を行う場合、どのようなメリットを得ることができるのでしょうか?
事業承継といえば、親族や従業員への承継を思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし、経営者自身が親族への承継を希望していた場合でも、親族側が事業を承継する意思を持っているとは限りません。
従業員への引継ぎを考えていても、従業員が株式を買い取る必要があるため、資金面の問題から断られることも充分にあり得ます。
親族や従業員に事業を引き継げないのであれば、M&Aによって第三者へ事業承継するという方法があります。
第三者に事業を引き継ぐことができれば、会社の存続を図ることが可能です。
M&Aといえば会社の売却というイメージが強いですが、事業承継の手段としても有効です。
周辺に事業を引き継げる相手がいない方は、M&Aによる事業承継も検討してみましょう。
株式の引き渡しなどによるM&Aを実施した場合、企業の価値評価額に応じた売却利益を獲得することができます。
引退を理由に事業承継を行った方であれば、老後の生活にもゆとりを持てることでしょう。
新規事業の立ち上げを理由にM&Aを実施した方であれば、売却利益を新たな事業を始める際の資金にあてることができます。
M&Aや事業承継を行わずに廃業してしまうと、テナントの撤去費用や資材の処分費用などが発生してしまいます。
廃業資金を回避して利益を獲得できることは、M&Aによる事業承継の大きなメリットです。
【関連記事】M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは? 種類やメリットも解説!
福岡県でM&Aを行う場合、主な相談先は大きく分けると「公的な支援機関」「民間の支援機関」に分類することができます。
それぞれ異なる強みを有しているため、自身の希望する条件に合わせて相談先を選びましょう。
ここからは、公的な支援機関と民間の支援機関の違いについて解説していきます。
基本的に、公的な支援機関は利益を出すことを目的として運営されていません。
そのため、多くの場合は事業承継やM&Aに関する相談に無料で対応しています。
また、後述する事業承継・引継ぎセンターという支援機関の中には後継者育成バンクというものがあり、利用する事によってマッチング相手を無料で探すことができます。
M&Aに関するすべてのサポートを一貫して行っているわけでは無いので、別途アドバイザーに依頼する必要はありますが、総合的に発生する費用は抑えることができるでしょう。
注意点として、後継者育成バンクは現状であまり知名度が高くないため、マッチング相手を見つけるまでに時間がかかることも考えられます。
スピード感のあるM&Aを行いたい場合は、民間の支援機関の利用も検討してみましょう。
民間の支援機関は、公的な支援機関と対象的に利益を出すことを目的として運営しています。
仲介会社などの支援機関は、成功報酬型といった報酬体系を設けていることが多いため、M&Aを実現できなければ利益を出すことができません。
そのような理由から、民間の支援機関はM&Aを実施するためのサポートが充実している傾向があります。
M&Aの成約率を高めたい方は、民間の支援機関の利用も検討してみましょう。
ただし、民間の支援機関を利用する際の手数料は、成約時の売却価格をもとに決められるケースが一般的です。
企業の価値が高い場合、依頼にかかる費用は高額になることも考えられます。
手数料などは依頼先によって異なるため、利用時はあらかじめ調べた上で依頼しましょう。
【関連記事】M&A仲介について解説!FAとの違い、サービス内容やメリットは?
公的な支援機関にM&Aや事業承継のサポートを依頼する場合、どのような相談先があるのでしょうか?
ここからは、M&Aや事業承継のサポートを行っている公的機関を4つ紹介していきます。
福岡県事業承継・引継ぎ支援センター | 中小企業の事業承継やM&Aに関するサポートを手掛けている機関 |
商工会議所 | 経営に関するサポートなどを行っている会員制の機関 |
福岡よろず支援拠点 | 国が設けた経営相談の無料窓口 |
福岡信用保証協会 | 融資を受ける際の保証人となって資金のサポートを行っている機関 |
福岡県事業承継・引継ぎ支援センターとは、福岡県の中小企業や小規模事業者の事業承継をサポートしている公的支援機関です。
親族内承継や従業員承継はもちろん、M&Aによる第三者への承継など幅広く対応しています。
事業承継を行う上での課題の抽出や、事業承継計画の策定といったサポートも行っているため、承継に関する不安を抱えている方におすすめの支援機関です。
また、福岡県事業承継・引継ぎ支援センター内に設置されている後継者育成バンクでは、買い手企業と売り手企業のマッチングを無料でサポートしています。
福岡県事業承継・引継ぎ支援センターを利用する際は、後継者育成バンクも活用して事業所受け機を勧めていきましょう。
機関名 | 福岡県事業承継・引継ぎ支援センター |
URL | https://fukuoka-hikitsugi.go.jp/ |
所在地 | 〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-9-28 福岡商工会議所ビル8階 |
商工会議所とは、地域経済の活性化などを目的として運営されている経済団体です。
福岡県内には、福岡市や久留米市、北九州市など合計19箇所に設けられています。
商工会議所では、中小企業の経営に関する全般的なサポートを行っています。
事業承継に関しては、経営者にあった承継方法の提案及び専門家の紹介などを手掛けているため、実施する際の相談先として候補に挙げられるでしょう。
また、商工会議所の利用は会員制であるため、事業承継を行う相手を自身で見つけることができるかもしれません。
経営者同士の関係を構築できることも、商工会議所を利用するメリットとして挙げられます。
機関名 | 商工会議所 |
URL | https://www.fukunet.or.jp/(福岡商工会議所) |
所在地 | 〒812-8505 福岡県福岡市博多区博多駅前2-9-28(福岡商工会議所) |
福岡よろず支援拠点とは、国が福岡県に設けた経営相談の無料窓口です。
福岡県内には本部がある博多市を含め、合計82箇所開設されています。
よろず支援拠点では、経営改善や製品開発といった、経営を行う上で事業者が抱える悩みについて全般的に対応しています。
また、事業承継に関する相談にも対応しているため、利用を検討している方は周辺のよろず支援機関を調べてみましょう。
オンラインでの相談にも対応している窓口が複数あるため、直接訪れることができなくても気軽に相談することが可能です。
機関名 | 福岡よろず支援拠点 |
URL | https://yorozu-fukuoka.go.jp/ |
所在地 | 〒812-0046 福岡県福岡市博多区吉塚本町9−15 福岡県中小企業振興センター 6F(本部) |
福岡信用保証協会とは、金融機関に借り入れを行う際に、公的な保証人として中小企業の資金調達を支援している機関です。
福岡県内には本部がある博多区を始め、北九州市や久留米市など計6箇所に拠点が設けられています。
事業承継やM&Aを行う際、資金面で不安がある方でも福岡信用保証協会を利用する事によって融資を受けやすくすることが可能です。
また、福岡県事業承継・引継ぎ支援センターと連携していることから、M&Aや事業承継に関する相談にも対応しています。
事業承継などを行う上で資金面の不安もある方は、福岡信用保証協会への相談も検討してみましょう。
機関名 | 福岡信用保証協会 |
URL | https://www.fukuoka-cgc.or.jp/ |
所在地 | 〒812-8555 福岡県福岡市博多区博多駅南2丁目2番1号(本部) |
福岡で事業承継の支援を行っている民間の機関は、主に以下の3つが挙げられます。
M&A仲介会社 | M&Aに関する全般的なサポートを行っている会社 |
M&Aマッチングサイト | 企業同士のマッチングをサポートしているサイト |
民間の銀行 | 一部の銀行ではM&Aのサポートも行っている |
M&A仲介会社とは、M&Aに関する相談から成約までのサポートを行っている民間の支援機関です。
全般的な支援を一貫して行っていることから、M&Aに関する知識が無い方でも安心して任せることができます。
加えて、事業の売却・買収を希望している多くの経営者と繋がりを有しているため、専門家の目線からマッチングに適した相手を選定してもらうことも可能です。
また、M&A仲介会社にサポートを依頼した場合は、売却価格などの交渉をアドバイザーに一任することができます。
交渉によって不利になりにくいことも、M&A仲介会社に依頼するメリットの1つです。
M&Aマッチングサイトとは、買い手企業と売り手企業をウェブページ上に掲載し、企業同士のマッチングをサポートしているサイトです。
掲載されている企業の情報を確認しながら、自身の目線でマッチングする企業を選ぶことが可能です。
また、基本的にM&Aマッチングサイトでは企業同士のマッチングのみを支援しているので、自身でアドバイザーなどの専門家を見つける必要があります。
しかし、一部のマッチングサイトでは専門家の紹介もサービスに含まれていることがあります。
M&Aマッチングサイトの利用を検討している方は、提供しているサービスの内容を調べておくと良いでしょう。
M&Aや事業承継を行う際、資金調達を行うために銀行に融資を依頼することもあるでしょう。
しかし、一部の銀行ではM&Aの支援を行っている窓口を設けているため、サポートを依頼することも可能です。
銀行は多くの企業と繋がりを有しているので、企業の売却・買収を希望している企業を紹介してもらえるかもしれません。
自社と繋がりのある銀行がある場合は、M&Aの支援に対応しているか確認してみてもよいでしょう。
福岡県でM&Aや事業承継を行う際には、条件を満たすことで以下の補助金や助成金を申請することができます。
自身の状況に合わせて、補助金などの利用も検討してみましょう。
事業承継・M&A促進化事業助成金とは、北九州市の事業承継をサポートするために設けられている助成金です。
北九州市に本社を有する企業や、承継後に市内で事業を営む方などを対象にサポートを行っています。
支援の対象事業は、事業承継計画の策定やM&Aの仲介を専門家などに委託する際の費用が該当します。
注意点として、募集期間は年度によって指定があるため、利用を検討している方はホームページで確認しておきましょう。
利用時には、交付申請書といった必要書類を提出し審査を通過した上で、報告書や精算書などを提出することによって助成金が交付されます。
【事業承継・M&A促進化事業助成金の詳細(令和4年度)】
募集期間 | 一次募集:2022年4月1日~4月28日 二次募集:2022年8月1日~8月31日 三次募集:2022年10月3日~12月28日 |
助成金額 | 対象経費の2分の1 |
補助上限額 | 50万円まで(千円未満切り捨て) |
URL | https://www.city.kitakyushu.lg.jp/san-kei/10700210.html |
事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継をきっかけとして新たな取組を行う企業を支援するための補助金です。
福岡県の企業に限らず、全国の中小企業を対象に支援を行っています。
事業承継・引継ぎ補助金の申請類型は「経営革新事業」「専門家活用事業」「廃業・再チャレンジ事業」に分類されており、利用者の条件に合わせて選択する必要があります。
経営革新事業とは、M&Aや事業承継によって経営革新を図る企業を支援するものです。
親族や従業員への承継に限らず、M&Aによる第三者への承継を行う際に利用することができます。
専門家活用事業とは、M&Aのサポートを専門家に依頼する際の費用を補助するためのものです。
「買い手支援型」と「売り手支援型」の2種類があるため、条件にあった支援型を選びましょう。
廃業・再チャレンジ事業とは、廃業や再チャレンジを伴うM&A・事業承継を行う際に申請できるものです。
利用時には、経営革新事業や専門家活用事業と併用して申請することもできます。
状況に合わせて、自身が該当する類型を選択しましょう。
【事業承継・引継ぎ補助金(令和3年度補正予算)の詳細】
募集期間 | 2次公募:2022年7月27日〜2022年9月2日 3次公募:2022年10月6日~2022年11月24日 4次公募:2022年12月下旬~2023年2月上旬 |
助成金額 | 対象経費の3分の2 |
補助上限額 | 600万円以内(廃業・再チャレンジ事業は+150万以内) |
補助下限額 | 100万円 |
URL | https://jsh.go.jp/r3h/ |
九州を代表する都道府県である福岡県では、数多くのM&A事例が存在しています。
M&Aによる事業承継を行う際のイメージを掴むためにも、どのような事例があったのかを把握しておきましょう。
ここからは、福岡に本社を設けている買い手企業・売り手企業が関わったM&Aの事例を5つ紹介していきます。
2022年6月、EC物流・食品物流・医薬品物流事業などを営んでいる株式会社丸和運輸機関は、株式会社M・Kロジが有する株式をすべて取得し子会社化することを決定しました。
M・Kロジは福岡県糟屋郡宇美町に本社を持ち、丸和運輸機関と同じく物流業を行っている企業です。
中間流通業者を通さず、自社のECサイトを通じて直接販売を行うD2C事業者向けのサービスを得意としています。
丸和運輸機関はM・Kロジの子会社化によって、自社グループにおけるEC物流事業の強化を図りました。
該当企業の取得価額は41億4400万円です。
2022年5月、住宅設備機器や建築資材のインターネット販売を手掛けている株式会社サンワカンパニーは、株式会社ベストブライトの株式をすべて取得し子会社化することを発表しました。
ベストブライトは福岡市南区で建売住宅事業などを営んでいる企業です。
九州地区を中心に成長を遂げているベストブライトを子会社に迎え入れる事によって、サンワカンパニーはグループ全体の成長を図りました。
該当企業の取得価額は2億8200万円です。
2022年4月、福岡市中央区に本社を持つ三井松島ホールディングス株式会社は、日本カタンホールディングスの株式を50.06%取得し子会社化することを決定しました。
三井松島ホールディングスは、石炭販売や再生可能エネルギーによる発電などをグループ展開している企業です。
一方、日本カタンホールディングスは、送電線用架線金具を取り扱う日本カタン株式会社の持ち株会社であり、子会社化に伴って吸収合併を実施する旨を発表しました。
三井松島ホールディングスは、老朽化設備の更新によって送電線工事量は増加するものと考え、グループの企業価値向上を図りました。
該当企業の取得価額は19億2700万円です。
2022年1月、福岡市博多区に本社を設けているテノ.ホールディングスは、介護事業などを手掛けている株式会社フォルテの株式を取得し子会社化することを発表しました。
テノ.ホールディングスは、介護サービスを含む家庭総合支援や保育事業などを行っている企業です。
フォルテをグループに迎え入れることによって、テノ.ホールディングスは介護事業の成長を図りました。
該当企業の取得価額は6億500万円です。
2021年10月、福岡市博多区に本社を置くヤマシタヘルスケアホールディングスは、同じく福岡市博多区に所在するイーディライトの株式を追加取得し子会社化することを決定しました。
ヤマシタヘルスケアホールディングスは、医療や介護を営む企業を子会社に持ち、ヘルスケア領域における事業構築を進めている持株会社です。
一方、イーディライトはEPARKの子会社であり、病院向けのソリューション事業を展開している企業です。
イーディライトの子会社化によって、ヤマシタヘルスケアホールディングスはシナジーの発揮を図りました。
該当企業の取得価額は1700万円です。
福岡県では経営者の高齢化が進んでおり、後継者がいない企業の数が増加傾向にあります。
M&Aによる第三者への事業承継は、親族や従業員への承継を行えない際に、企業を存続させる方法として有効です。
M&Aや事業承継を行う際には、公的な支援機関や民間の支援機関にサポートを依頼することができます。
自身が求めるサービス内容に合わせて、適切な支援機関を選択しましょう。