投稿日:2022/10/05
更新日:2022/10/09
埼玉県は首都圏にあることから、東京都の企業と交流が多い地域です。
企業の数は全国で5位と高く、特に製造業を営む企業の数が多い傾向にあります。
しかし、近年では埼玉県も含めて、後継者不足に悩む企業の数が増えています。
製造業を営む経営者は他業種よりも平均年齢が高いことから、現時点で後継者問題に直面している方も少なくないでしょう。
この記事では、埼玉県のM&Aや事業承継、使用できる補助金や売却事例などを紹介していきます。
目次
埼玉県は全国的に見ても企業数が多い地域ですが、近年ではその数が減少し続けています。
ここからは、埼玉県における企業の特徴や現状について解説していきます。
経済産業省が実施した工業統計調査によると、2020年度における埼玉県の事業所数は10,490所です。
この値は、大阪府・愛知県に続き、国内で3番目の事業所数です。
従業員数は全国で4番目に多い389,487人、出荷額は約13兆7582億円で7番目に高く、製造業が盛んな地域といえるでしょう。
また、埼玉県は都内からのアクセスが良好で、平らな土地が多い地域です。
そのような特徴が、埼玉県における製造業の発展に影響していると言われています。
中小企業庁が発表した情報によると、2016年時点における埼玉県の企業数は161,613社でした。
これは、東京都・大阪府・愛知県・神奈川県に続いて5番目に多い企業数です。
また、総企業数のうち161,341社は中小企業となっており、同じく5番目に高い値を記録しています。
埼玉県には、小規模企業を中心に数多くの企業が存在しています。
企業数は国内で5番目に多い埼玉県ですが、中小企業の数は年々減少傾向にあります。
2009年度における中小企業の数は186,837社でしたが、2016年度では161,341社となっており、25,496社減少しています。
近年、日本国内では後継者が不在な中小企業が増えており、埼玉県の企業も例外ではありません。
後継者がいなかった場合、経営状況が良好な企業でも事業を続けることが困難になるでしょう。
経営者の高齢化が進んでいる現代において、事業を引き継ぐ相手を見つけることが経営の課題となっている企業は多いと考えられます。
事業を引き継ぐ相手が身近にいない場合、M&Aによる第三者への承継は企業を存続させる方法として有効です。
M&Aによる事業承継は国も推奨していることから、親族や従業員以外へ会社を引き継ぐ事例は今後増えていくことが予測されます。
埼玉県には、M&Aや事業承継のサポートを行っている公的機関が複数存在します。
ここからは、各公的機関の特徴について個別に解説していきます。
埼玉県事業承継・引継ぎ支援センター | 中小企業の事業承継をサポートしている相談窓口 |
商工会議所 | 会員制の総合経済団体 |
埼玉県よろず支援拠点 | 経営全般に関する相談に対応している相談窓口 |
埼玉県信用保証協会 | 公的な保証人として資金調達をサポートしている機関 |
埼玉県事業承継・引継ぎ支援センターとは、中小企業の事業承継を支援するために設けられた公的な相談窓口です。
国からの依頼によって、埼玉県商工会議所が実施しています。
埼玉県事業承継・引継ぎ支援センターでは、事業承継やM&Aに関する全般的な相談に対応しています。
それらの相談には無料で対応しているため、M&Aや事業承継に関して不安がある方におすすめです。
加えて、2020年からは後継者人材バンクという、買い手と売り手をマッチングさせるための事業を新たに開始しました。
後継者人材バンクの登録は無料のため、費用を抑えてマッチング相手を探すことが可能です。
また、事業承継・引継ぎ支援センターは各都道府県に設置されています。
地域ごとに窓口を設けているため、気軽に訪れやすいというメリットもあります。
機関名 | 埼玉県事業承継・引継ぎ支援センター |
URL | https://www.3192shoukei.jp/ |
所在地 | 埼玉県さいたま市浦和区高砂3-17-15 さいたま商工会議所会館4F |
商工会議所とは、非営利目的で創設された会員制の総合経済団体です。
各都道府県の複数箇所に設けられており、埼玉県では川越市・さいたま市・所沢市・春日部市など各地に点在しています。
商工会議所は地域経済の発展を目的としていることから、創業する経営者の支援や経営に関するサポートを依頼することが可能です。
事業承継に関しては、詳細な情報が記載されているガイドブックの配布や、相談に対応している専門機関の紹介を行っています。
幅広いサポートを受けるためには会員になる必要がありますが、多くの企業が入会していることから、自身でM&Aによる売却・買収をするマッチング相手を見つけることもできるでしょう。
機関名 | 商工会議所 |
URL | https://www.saitamacci.or.jp/ (さいたま商工会議所) |
所在地 | 〒330-0063 さいたま市浦和区高砂3-17-15 さいたま商工会議所会館3F (さいたま商工会議所) |
埼玉県よろず支援拠点は、国が埼玉県に設置した経営に関する総合的な相談窓口です。
埼玉県では大宮に事業所があり、県内27箇所に相談窓口が設けられています。
埼玉県よろず支援拠点では、売上の拡大や経営改善、事業承継に関する相談など幅広く対応しています。
事業承継以外にも、経営に関する全般的な相談をする際におすすめの支援機関です。
機関名 | 埼玉県よろず支援拠点 |
URL | https://saitama-yorozu.go.jp/ |
所在地 | 〒330-8669 埼玉県さいたま市大宮区桜木町1-7-5 ソニックシティビル10F |
埼玉県信用保証協会とは、経営に関する資金の貸し入れを行う際、公的な保証人として資金調達をサポートしている機関です。
埼玉県にはさいたま市に本店があり、熊川市・川越市・春日部市に支店が設けられています。
創業を行う際の資金調達、財務面の強みや弱みを把握するための無料診断サービスなど幅広く対応しています。
事業承継を行う場合には、埼玉県内に事業所を有している企業の資金の貸し入れをサポートしています。
事業承継に関して資金面での不安があるかたにおすすめの公的機関です。
機関名 | 埼玉県信用保証協会 |
URL | https://www.cgc-saitama.or.jp/ |
所在地 | 〒330-9608 さいたま市大宮区桜木町1-7-5 ソニックシティビル11階 |
埼玉県でM&Aによる事業承継を行う場合は、民間の支援機関にもサポートを依頼することができます。
M&A仲介会社とは、M&Aを実施する相手企業の選定から成約までのサポートを一貫して手掛けている機関です。
M&Aによる買収・売却を検討している企業との繋がりを有しており、専門家の目線で取引に適した相手企業を紹介してもらうことができます。
仲介会社にはM&Aに関する全般的な知識を有しているアドバイザーが在籍していることから、第三者への事業承継を検討している際におすすめの支援機関です。
また、M&Aを行う際には法務や税務に関する知識が必要なため、弁護士や税理士などのサポートも必要不可欠です。
M&A仲介会社はそれらの専門家とのネットワークも保有しているので、自身で探す必要がありません。
M&Aによる事業承継を行う際、銀行は資金調達を行うための融資を依頼することができます。
しかし、一部の銀行ではM&Aに関する相談窓口も設けていることから、第三者への事業承継に関するサポートを依頼することが可能です。
銀行にM&Aのサポートを依頼するメリットは、サポートと融資に関する相談を同時に依頼できるという点です。
基本的に銀行が融資を行う場合は資金回収の目処が立っている場合であるため、買い手企業は買収を行う上でのリスク判断をすることもできます。
自社と提携している銀行がある場合は、一度相談してみてもよいでしょう。
M&Aマッチングプラットフォームとは、買い手企業と売り手企業とネット上に掲載し、マッチングをサポートしているWEBサイトです。
埼玉県に限らず、全国から自身でマッチング候補の企業を見つけたい場合におすすめです。
基本的にM&Aマッチングプラットフォームでは企業のマッチングのみをサポートしていますが、一部では専門家の紹介などを行っているサイトもあります。
ただし、サポートの範囲はサイトごとに異なるため、必要書類の作成などに対応していないこともあるため注意が必要です。
M&Aに関するさまざまなサポートを依頼したい場合は、利用を検討しているプラットフォームの概要を調べておきましょう。
埼玉県では、M&Aや事業承継に関わる補助金を利用することができます。
事業を引き継ぐ後継者がいなかった場合、経営状況に関わらず企業を存続することができません。
そのような状況を回避するために、さまざまな機関が補助金によるサポートを行っています。
ここからは、埼玉県でのM&A・事業承継で使用できる補助金を解説していきます。
新座市事業承継・M&A支援事業補助金とは、新座市が市内にある企業の事業継続をサポートするために設けた補助金です。
事業承継のコンサルティング費用や、M&Aの選定を依頼するための仲介費用など、幅広い用途で使用することが可能です。
補助対象は、市内の事務所や店舗にて事業を営んでいる法人または個人事業主が該当しています。
注意点として、業種ごとに資本金額または出資の総額、従業員数などに上限が設けられています。
利用を検討している場合は、自身が申請要件を満たしているかを調べておきましょう。
受付期間 | 令和5年2月28日 |
対象経費 | 事業承継に係る課題分析・コンサルティング費用/事業承継計画作成費用/企業価値算定に係る費用/M&A買い手先選定などに係る委託・仲介費用 |
補助額 | 20万円まで |
補助率 | 対象経費の2分の1の額(千円未満切捨て) |
URL | https://www.city.niiza.lg.jp/soshiki/19/syokei.html |
埼玉県起業支援金とは、公益財団法人埼玉県産業振興公社が実施している、地域の企業を支援するための事業です。
対象地域は、秩父市・飯能市・本庄市・ときがわ町・横瀬町・皆野町・小鹿野町・東秩父村・神川町が該当します。
令和4年度の申込み期限は現時点で過ぎていますが、利用者の募集は毎年行っています。
利用を検討している方は、現時点で募集を行っているのかを確認しておきましょう。
公募期間 | 令和4年4月15日~5月31日 |
対象経費 | 新たに起業する方が起業に要する経費(人件費、店舗等借入費、設備費、原材料費、借料、知的財産権等関連経費、謝金、旅費、外注費、委託費、マーケティング調査費、広報費など) |
補助額 | 200万円以内 |
補助率 | 補助対象経費の2分の1以内 |
URL | https://www.city.niiza.lg.jp/soshiki/19/syokei.html |
事業承継・引継ぎ補助金とは、M&Aや事業承継に関するさまざまな経費に対して使用できる補助金です。
埼玉県に関わらず、全国の企業が申請対象に該当します。
事業承継・引継ぎ補助金は「経営革新事業」「専門家活用事業」「廃業・再チャレンジ事業」の3タイプが存在しており、それぞれ申請要件や補助対象経費が異なります。
また、募集は毎年行っていますが、補助率や上限額などは年度によって変化します。
利用を検討している方は、自身が利用する予定の年度における募集要項をあらかじめ調べておきましょう。
補助率 | 補助対象経費の3分の2以内 |
補助上限額 | 600万円以内 |
補助下限額 | 100万円 |
上乗せ額(廃業の費用) | +150万円以内 |
【関連記事】事業承継・引き継ぎ補助金について解説!種類ごとの違い、申請の流れも紹介
ここからは、M&Aのサポートを仲介会社に依頼した場合の流れについて解説していきます。
【仲介会社に依頼してM&Aを行う際の流れ】
まず最初に、M&Aのサポート依頼する仲介会社を選定します。
M&Aに関する相談に無料で対応していることが多いため、相談を交えつつ自身にあった仲介会社を探しましょう。
仲介会社が見つかったあとは、業務委託契約を結びM&Aに必要なプロセスを進めていきます。
仲介会社との契約を結んだら、マッチング候補の企業を選定してもらいましょう。
会社を譲渡する場合は、ノンネームシートと呼ばれる資料を使用して候補企業を探します。
ノンネームシートとは、企業名が判明しない範囲の情報が記載された概要書です。
M&Aによって企業を第三者へ譲渡することは、外部に広まらないように注意する必要があります。
従業員に周知されてしまった場合、自社を売却するというイメージを持たれ、モチベーションが低下する可能性があります。
取引などに知られてしまうと、経営状況が良くないのではと不信に思われ、提携が打ち切られてしまう恐れもあるでしょう。
そのようなリスクを回避するために、最終合意契約を結ぶまでは情報を公開しないことが一般的です。
また、買い手企業がノンネームシートの情報によって売り手企業に興味を持った場合、秘密保持契約を結んで情報の公開を行います。
情報の公開後、両企業が取引を進める意思を持った場合は経営者同士の面談に進みます。
M&A仲介会社に依頼した場合、条件交渉はアドバイザーに依頼することができるため、売却・買収金額といった交渉を自身で行う必要がありません。
そのため、面談時には相手が会社運営に対してどのような意識を持っているのかを把握し、経営ビジョンに共感できるかを確認しましょう。
面談後に両企業の経営者が交渉を進めていく意思を持った場合は、基本合意契約書の締結を行います。
基本合意契約書とは、取引の手法や譲渡価格、今後のスケジュールなどが記載されている書類です。
注意点として、基本合意書はM&Aを進めていく意思を示すためのものという立ち位置であるため、一部の項目を除き法的な拘束力がありません。
後述するデューデリジェンスの結果次第では、譲渡価格などが変わることもあります。
基本合意契約書を締結した後は、買い手企業が売り手企業に対してデューデリジェンスを実施します。
デューデリジェンスとは会社の内部監査のことであり、買収する上でリスクとなるような要素が無いかを把握するために行われます。
また、デューデリジェンスをスムーズに進めるためには、売り手企業の協力が必要不可欠です。
売り手企業が調査に協力的だった場合は、買い手企業からの信頼も高まるでしょう。
承継後の関係を良好に保つためにも、買い手企業側から資料の提出などを求められた際は素早く対応することが大切です。
【関連記事】デューデリジェンスとは?目的や種類、流れや費用などを解説
デューデリジェンスが完了した後は、経営者同士で再度交渉を行います。
デューデリジェンスによって買収リスクとなる要素が見つからなかった場合は、基本合意契約の内容に基づいて交渉を進めていきます。
従業員の雇用体系など、現時点で具体的に決まっていない部分があれば話し合いましょう。
反対に、デューデリジェンスによって買収リスクが判明した場合は、売却・買収価格などを調整して再度交渉を行うこともあります。
買収リスクが大きかった場合、交渉自体が破談になる恐れもあるため、自社の分析はあらかじめ入念に行っておくことが大切です。
買収リスクが小さかった際には、後述するクロージングの完了日までに解消するといった方法もあります。
経営者同士の交渉によってM&Aを実施することが決定したら、最終合意契約の締結を行います。
最終合意契約を締結した後は、クロージング作業を進めていきましょう。
クロージングとは、企業同士の経営統合作業のことを指します。
クロージングを進める際は、最終合意契約に記載されている内容をもとに進めていきます。
株式の名義人変更といった必要な作業を実施していきましょう。
また、デューデリジェンスによって小さな買収リスクが見つかった場合は、クロージング完了日までに解消するといったこともあります。
クロージング日を迎えて経営権の譲渡などを実施したらM&Aは完了です。
【関連記事】M&Aのクロージングとは 手続きや流れ、必要書類などを解説!
M&Aに関する知識を深めておくためにも、実際にどのような取引が行われたことがあるのかを把握しておきましょう。
ここからは、埼玉県に関わりのある売り手・買い手企業のM&A事例を5つ紹介します。
【埼玉県におけるM&A事例】
2022年10月、オンライン英会話事業を手掛けている株式会社レアジョブは、株式会社ボーダーリンクの株式を柄で取得し完全子会社化することを発表しました。
ボーダーリンクは外国語支援事業を営んでおり、埼玉県さいたま市に本社を構えている企業です。
レアジョブは2021年10月にボーダーリンクの株式を49%取得しています。
レアジョブはボーダーリンクの株式を追加で取得することによって、さらなる事業拡大を図りました。
2022年7月、産業機器・建設機械の販売やレンタル事業を行っている株式会社南陽は、株式会社エイ・エス・エイ・ピイの株式を取得し子会社化することを発表しました。
エイ・エス・エイ・ピイは、埼玉県さいたま市に本社を置く半導体製造装置の製造・販売を手掛けている企業です。
南陽はエイ・エス・エイ・ピイと技術力を組み合わせ、幅広い分野でのシナジー発揮を図りました。
2022年3月、埼玉県飯能市に本社を持ち、電子機器製品の開発やスポーツ製品の販売などを手掛けているマミヤ・オーピー株式会社は、株式会社シャフトラボの株式を取得し子会社化することを発表しました。
シャフトラボは、カーボンシャフトの製造や販売などを行っている企業です。
マミヤ・オーピーは、該当企業の買収にあたってゴルフ用品子会社のキャスコを売却しています。
シャフトラボの子会社化によって経営資源を集中し、企業価値の向上を図りました。
2020年1月、医薬品の販売事業などを手掛けているイワキ株式会社は、スペラファーマ株式会社の株式を取得し子会社化することを発表しました。
スペラファーマは、埼玉県川越市にある武州製薬が出資している企業であり、医薬品の開発事業などを行っています。
イワキはスペラファーマの子会社化によって、取引先のニーズに応えられるソリューションの提供を図りました。
2019年12月、埼玉県さいたま市に本社を持ち、焼肉レストラン経営などを手掛けている株式会社安楽亭は、株式会社アークミールの株式を取得し子会社化することを発表しました。
アークミールは、「ステーキのどん」「どん亭」といったレストランの運営を行っている企業です。
安楽亭とアークミールは事業内容に共通点が多いことから、買収によってシナジーを発揮し、企業価値の向上を図りました。
埼玉県は全国で5番目に企業数が多く、製造業が盛んな地域です。
しかしながら、中小企業の数は年々減り続けており、2009年から2016年にかけては約25,000社減少しています。
後継者がいないことによって廃業する場合、第三者へ事業を承継することで会社を存続させることが可能です。
第三者の事業承継はさまざまな機関が推奨していることから、補助金等によるサポートを受けることもできます。
後継者問題に悩んでいる経営者の方は、ぜひ一度第三者への承継も検討してみてはいかがでしょうか。