中小企業が事業承継を行う方法は?承継相手ごとの違いについて解説!

投稿日:2022/09/22

更新日:2022/09/22

近年、経営者が高齢になったことを理由に、事業承継を検討するケースが増えています。

事業を引き継ぐ相手を決める際は、親族や従業員などが候補に挙げられるでしょう。

しかしながら、事業を引き継ぐ相手がいないという中小企業も少なくありません。

周囲に自社を引き継ぐ相手がいない場合は、M&Aによる第三者への承継という手段が挙げられます。

この記事では、中小企業が事業承継を行う方法について解説していきます。

事業承継とは

まず最初に、事業承継の概要について解説します。

事業承継とは、会社を後継者に承継することで、事業を存続することを指します。

中小企業の場合、経営者の技量によって経営が成り立っていることも多いでしょう。

そのため、中小企業が事業承継を行う際は、誰に事業を引き継ぐかによって会社のその後に大きな影響を与えると考えられます。

また、事業承継の構成要素は「人の承継」「資産の承継」「知的財産の承継」の3つです。

人の承継は経営権の承継のことであり、資産の承継は株式や事業用の資産などを承継することです。

知的財産は経営を行うためのノウハウやブランドを指しており、目に見えない無形の資産が当てはまります。

事業承継は、この3つを後継者へ引き継ぐことで完了します。

中小企業における事業承継の現状や課題

近年、後継者問題に悩む経営者が増えており、中小企業の数は減少傾向にあります。

ここからは、中小企業における事業承継の現状や課題について解説していきます。

中小企業の数は減少し続けている

出典:第1部 令和元年度(2019年度)の中小企業の動向

中小企業庁が発表した令和元年度(2019年度)の中小企業の動向によると、1999年から2016年にかけて中小企業の数が減少傾向にあります。

特に、小規模企業の数は1999年時点で422万9000者であったのにも関わらず、2016年時点では304万8000者まで上がっており、中規模企業よりも減少の傾向が顕著です。

中小企業が減少している理由の一つとして、経営者の高齢化が挙げられます。

年々、日本国内では経営者の高齢化が進んでおり、事業を続けることができなくなるケースが増えています。

経営者が高齢化によって事業を続けられなくなった場合、後継者に事業を引き継ぐことで会社を存続することが可能です。

しかしながら、事業を引き継ぐ後継者がいる中小企業の数は、年々減少傾向にあります。

後継者がいない中小企業が増えている

出典:東京都産業労働局 東京の中小企業の現状

東京都産業労働局が公開している「東京の中小企業の現状」によると、後継者が決まっている中小規模の製造業者の割合は、年々減少傾向にあります。

2021年度では、後継者が決まっていると答えた企業の数は48.3%となっており半数を下回りました。

2021年度における回答の内訳は、決まっていると答えた企業の割合が48.3%、候補はいるが決まっていないと答えた企業は25.0%、候補がいないと答えた企業は10.0%と続いています。

また、事業継続の意向に関して廃業を予定していると答えた企業のうち、廃業を決意した主な理由について「経営者の高齢化」と答えた企業は36.9%、「後継者の不在」と答えた企業は24.9%です。

経営が好調で事業を続けたいと考えていた場合でも、経営者が高齢になり後継者がいなければ、廃業という選択を取ることも多いでしょう。

近年では、後継者がいない場合の手段として、M&Aによる第三者への承継を行うケースが増えています。

事業を承継する相手は誰がいる?

事業を承継する相手の候補として、子供などの親族や自社で働いている従業員が挙げられます。

また、M&Aを実施することによって第三者へ承継する事例も増えてきています。

ここからは、事業を承継する相手について個別に解説していきます。

親族への承継

親族内承継は、昔から多く見られる事業承継の方法です。

一昔前までは、事業承継の相手といえばご子息などの親族が一般的とされており、事業承継の約9割は親族内承継でした。

しかしながら、近年では親族内承継の割合が6割程度に減少しています。

親族内承継が減った理由としては、職業選択の自由化が進んでいることがあるでしょう。

親である経営者はご子息への承継を望んでいたとしても、本人が承継を希望していないことも考えられます。

親族内承継を希望している際は、早期のうちに承継について話し合っておくことが大切です。

従業員への承継

親族が承継を希望していなかった場合、従業員への承継を考えることが多いでしょう。

従業員を多数雇用していれば、複数の候補の中から経営を任せる相手を選択することができます。

複数の候補から経営能力を持つ相手を専任できることは、従業員への承継を行う上での大きな利点です。

しかしながら、従業員へ承継する際には、自社株を従業員に買収してもらう必要があります。

無償で引き継ぐ場合でも、贈与税が発生してしまうため、資金面の負担は発生してしまいます。

従業員への承継を検討している場合は、それらを考慮した上で実施しましょう。

M&Aによる第三者への承継

近年注目を集めているのが、M&Aによる第三者への承継です。

M&Aとは、Merger And Acquisition(合併と買収)の略称であり、会社や経営権を買収することを指します。

M&Aによって自社を売却することで、親族や従業員に事業を引き継げなかった場合でも、廃業せずに事業を存続することが可能です。

廃業をする際には、テナントの撤去費用や資材の廃棄費用など、資金面の負担が発生します。

第三者へ承継する場合は、それらの費用の支払いを回避できるため、資金面の負担を抑えられます。

加えて、企業価値に対応した売却益を得られるといった点も、M&Aによる売却のメリットです。

M&Aによる事業承継は廃業を回避する手段として有効であることから、中小企業庁が推進している承継方法の一つです。

注意点として、自社の買収を希望する企業がすぐに見つかるとは限りません。

M&Aによる売却を希望する際は、早期のうちから進めていくことが大切です。

親族や従業員に承継するメリット・デメリット

事業承継をする相手を検討するためにも、承継相手ごとのメリットやデメリットを把握しておきましょう。

ここからは、親族や従業員に承継する際のメリット・デメリットについて個別に解説していきます。

親族・従業員に承継するメリット

まず最初に、親族や従業員に承継するメリットを把握しておきましょう。

【親族・従業員に承継するメリット】

  • 1.周囲からの理解を得やすい
  • 2.早期に後継者を確保できる
  • 3.承継後の業務も進めやすい

1.周囲からの理解を得やすい

親族や従業員は、経営者との繋がりがあるため、自社の風土や経営者の意思を理解していることが多いでしょう。

経営の方針なども把握していることから、取引先や他の従業員からも理解が得やすい事業承継の方法だといえます。

特に、親族内承継は一昔前まで当たり前だったことから、従業員の承継以上に受け入れられやすい承継方法だと考えられます。

また、事業を譲り渡す経営者側も、自身が知っている相手であれば安心して事業承継を行うことができるでしょう。

内外問わず心理的な安心を得られるというのは、親族や従業員に事業承継をするメリットです。

2.早期に後継者を確保できる

親族や従業員に事業を承継する場合、後継者の候補を早期の段階から決めることが可能です。

承継する相手が決まっていれば、経営を行うためのノウハウを押してるための時間を充分に確保することができます。

承継者が決まっているという安心感を得られるため、心理的な負担も抑えられるでしょう。

注意点として、事業を譲り渡そうと考えている相手が、事業を承継する意思を持っているのかを確認しておく必要があります。

経営者の苦労を間近で見てきた親族や従業員は、事業を承継したいと考えているとは限りません。

事業承継をスムーズに行うためにも、後継者候補の意思を把握しておくことが大切です。

早期のうちに承継について話し合うことで、後継者の教育期間を充分に確保することができます。

3.承継後の業務も進めやすい

M&Aによる第三者への承継と比較すると、親族や従業員に事業承継をした場合は、承継後の業務が進めやすいというメリットがあります。

第三者へ事業を承継する際には、経営統合作業やノウハウの引継ぎを行う必要があるので、それらを実施するための時間が発生します。

親族や後継者に事業承継をする場合は、あらかじめ教育をするための時間を確保できるため、事業承継後の業務も円滑に行うことができるでしょう。

親族・従業員に承継するデメリット

一方で、親族や従業員に承継することには、以下のデメリットあります。

【親族・従業員に承継するデメリット】

  • 1.適任者が見つからない可能性がある
  • 2.従業員の資金力が求められる

1.適任者が見つからない可能性がある

親族や従業員に承継を希望していた場合でも、その相手が経営の手腕を有しているとは限りません。

充分な資質を持ち合わせていない相手を承継者に就任してしまうと、事業が回らずに会社が傾いてしまう恐れがあります。

承継後に経営不信に陥ってしまうと、他の従業員のモチベーション低下を招いてしまいます。

親族や従業員への承継は心情的に安心感を得やすい方法ですが、相手の資質を考慮して、会社を存続できるのかを検討することも大切です。

2.従業員の資金力が求められる

従業員への事業承継で大きな問題になるのが、株式を買い取る際の資金です。

中小規模の企業でも、経営者が所有している株式をすべて買い取るには多額の資金が必要になります。

従業員の資金調達が難しい場合は、M&Aによる第三者への承継を検討しても良いでしょう。

また、株式の譲渡によって親族へ承継する際にも、相続や贈与に発生する税金を考慮する必要があります。

株式の評価額を下げる、生前贈与を行うといった節税対策を行いましょう

M&Aによって第三者へ承継するメリット・デメリット

一方で、M&Aによって第三者に承継する場合、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?

M&Aによって第三者へ承継するメリット

M&Aによって第三者へ承継することには、以下のメリットが存在します。

【M&Aによって第三者へ承継するメリット】

  • 1.後継者問題を解消できる
  • 2.従業員の雇用を維持できる
  • 3.創業者利益を獲得できる

1.後継者問題を解消できる

近年では、後継者がいないという問題を抱えている中小企業の数が増えています。

親族や従業員への承継を希望していた場合でも、本人が承継を希望しているとは限りません。

そのような問題を解消したい場合には、M&Aによる第三者への承継が有効です。

第三者から承継相手を見つけることができれば、周囲に承継する相手がいなくても事業を存続することが可能です。

親族や従業員から承継する相手が見つからない際には、M&Aによる第三者への承継を検討してみましょう。

2.従業員の雇用を維持できる

事業を承継する相手が見つからなかった場合、経営がうまく回っていても廃業せざる負えないことも考えられます。

廃業をしてしまうと、従業員は新たな働き口を見つける必要があります。

経営者にとって、長年関わってきた従業員の生活に影響を与えることは避けたいと考えることもあるでしょう。

周囲に承継できる相手がいない際には、M&Aによって第三者へ事業承継をすることによって会社を存続させることができます。

また、経営基盤が整った企業に自社を売却すれば、承継後に廃業するリスクも抑えられるでしょう。

3.創業者利益を獲得できる

M&Aによって第三者へ事業を売却することによって、経営者は企業価値に応じた売却利益を獲得することができます。

獲得した資金を生活資金に当てれば、老後の生活も安定して行うことができるでしょう。

個人保証や負債なども第三者へ引き継ぐことができれば、経営に関する精神的な負担も解消することが可能です。

事業を引き継ぐこと無く廃業した場合、事業を行う上での有形資産を処分する費用が発生します。

売却によって資金を獲得できることは、M&Aを実施することの大きなメリットです。

M&Aによって第三者へ承継するデメリット

M&Aによって第三者へ承継する場合は、以下のデメリットがあることを把握しておきましょう。

【M&Aによって第三者へ承継するデメリット】

  • 1.買い手が見つからない可能性がある
  • 2.希望している条件で売却できない可能性がある

1.買い手が見つからない可能性がある

M&Aによって事業の売却を希望していた場合でも、買収を希望する企業がすぐに見つかるとは限りらないため注意が必要です。

買い手企業側は、買収によってシナジーを発揮できるかを考慮して買収する企業を選定します。

買収するメリットを提示することができなければ、自社を売却することは難しいでしょう。

M&Aによって事業承継を行う際には、自社のアピールポイントを明確にしておくことが大切です。

また、個人で買収を希望する企業を見つけ、適した相手を選択することは容易ではありません。

M&A仲介会社など、専門家にサポートを依頼して進めていきましょう。

2.希望している条件で売却できない可能性がある

M&Aによって企業を売却する場合、売却価格は企業が所有している純資産や将来的に生み出す利益などによって決定します。

充分な収益が見込まれていない企業であれば、希望していた価格で売却できないことも考えられます。

自社をより高く売却したい際には、充分な利益を挙げられているタイミングで売却をしましょう。

純資産額を増加させるために、不要な資産を売却するといった方法も有効です。

また、自社が赤字だった場合でも、独自の強みを持った企業であれば、買収を希望する企業が現れる可能性もあります。

M&Aによる事業承継を希望している際は、自社の収益に関わらず専門家に一度相談してみましょう。

事業承継をするまでの流れ

事業承継を行うための方法は、親族や従業員に承継する場合と、M&Aによって第三者へ承継する場合で異なります。

ここからは、事業承継をするまでの流れについて解説していきます。

親族・従業員に承継する場合

親族や従業員に事業承継をする場合は、以下の流れで進めていきます。

【親族・従業員に承継する流れ】

  • 1.事業承継の準備
  • 2.自社の情報を整理する
  • 3.経営の改善を図る
  • 4.事業承継計画の策定
  • 5.事業承継を開始

1.事業承継の準備

まず最初は、事業承継を行うための事前準備を進めていきます。

事業を承継する相手の選定はもちろん、次の承継者として経営をするための育成などを行う必要があります。

加えて、資産の承継や経営資源の承継なども、計画性を持って進めていく必要があるでしょう。

事業承継は、取引先や従業員のその後に大きな影響を与える作業です。

充分な時間を確保して、事業承継を実施するための事前準備を進めていくことが重要です。

2.自社の情報を整理する

次に、自社の情報を調べ上げて、経営状況などを把握しましょう。

事業を続けていくための利益は挙げられているのか、自社にはどのような強みがあるのかなどを理解しておけば、後継者も安心して事業を引き継ぐことができます。

また、自社にはどのような課題があるのかを調べておくことも大切です。

長所・短所・経営状況・課題などをまとめて、自社の状況を分析しましょう。

3.経営の改善を図る

自社の分析によって経営の課題が見つかった場合は、それを解消するためにどのような取り組みを行うのか考えます。

経営者と後継者で、経営を続けていくために何が必要なのかを話し合いましょう。

改善するべき課題を見つける手段として、後継者以外の従業員も含めて会社の将来について議論するという方法も有効です。

従業員も事業承継に関わることで一体感が生まれ、モチベーションの向上を図ることもできます。

また、経営の改善だけではなく、自社の長所を伸ばしていくことも、企業の価値を高めるために大切な要素です。

自社の強みを伸ばし、課題を解消することができれば、承継後も事業を成長させることができるでしょう。

4.事業承継計画の策定

課題を解決する方法などが決まったら、事業承継計画書に内容を落とし込みます。

事業承継計画書とは、会社の現状や事業承継の課題、中長期的な行動計画などをまとめた書類です。

策定時のポイントは、「誰が」「いつ」「何を」「どのように」事業計画を進めていくのかを明確にすることです。

会社の10年後を見据えて、目的が達成できる計画を策定しましょう。

5.事業承継を開始

事業承継計画書が完成した後は、実際に必要な作業を進めていきます。

経営に関するノウハウの承継・事業資産の譲渡・株式の譲渡などを、計画書の内容に合わせて実行していきましょう。

また、事業承継を実行していく際には、専門家にサポートを依頼すると安心です。

弁護士や税理士などの専門家に依頼し、スムーズな事業承継を実現していきましょう。

M&Aによって第三者へ承継する場合

M&Aによって第三者へ事業承継を行う場合は、以下の流れで進めていきます。

【M&Aによって第三者へ承継する流れ】

  • 1.仲介会社などにサポートを依頼する
  • 2.相手企業を選定する
  • 3.トップ面談を行う
  • 4.基本合意契約書を締結する
  • 5.デューデリジェンスを実施する
  • 6.再度交渉し最終合意契約を締結する
  • 7.クロージング

1.仲介会社などにサポートを依頼する

M&Aを実施する際には、税務や財務などの知識が必要になるため個人で進めていくことは容易ではありません。

M&Aによって事業承継を行いたい場合は、仲介会社などの専門家にサポートを依頼することをおすすめします。

M&A仲介会社は、M&Aを実施するためのさまざまなノウハウを有しています。

実行する上での不明点などがあれば、一度相談してみても良いでしょう。

また、ACコンサルティングではM&Aに関する相談に無料で対応しているので、ご不明点がある場合はお気軽にお問い合わせください。

ACコンサルティングに無料で相談してみる

2.相手企業を選定する

次に、事業承継を行う相手企業の選定を行います。

M&A仲介会社に依頼した場合は、保有しているネットワークの中から条件にあったマッチング相手を選定してもらうことが可能です。

買い手企業を探す際には、企業名が特定されない範囲の情報が記載された「ノンネームシート」を使用します。

ノンネームシートを使用する理由は、自社の情報が漏洩するリスクを抑えるためです。

仲介会社ではノンネームシートの作成もサポートしているので、情報の開示範囲をアドバイザーと共有しておきましょう。

3.トップ面談を行う

条件に合う買い手企業が見つかった場合は、トップ面談に進みます。

トップ面談とは、両企業の経営者が顔を合わせ、M&Aに関する話し合いを行うことです。

事業承継について抱えている疑問点や不安、課題などを解消することを意識して進めましょう。

トップ面談を実施する際のポイントは、相手企業が経営に対してどのような意識を持っているのかを見極めることです。

経営に対する意識が大きくずれていた場合、事業を承継する上ですれ違いが生じてしまい、取引が難航する恐れがあります。

反対に、経営に関して共感できる要素が多ければ、やり取りがスムーズに進む上、承継後も安心して事業を任せることができるでしょう。

相手企業の経営者がどのような相手なのかを把握して、信頼関係を構築していくことが大切です。

4.基本合意契約書を締結する

トップ面談後に、両企業の経営者がM&Aを進めていく意識を持った場合は、基本合意契約書の締結を進めます。

基本合意契約書とは、M&Aを進める際のスケジュールや契約内容が記載された書類であり、交渉を進めていく意思を示すために締結します。

注意点として、基本合意契約書に記載されている内容は、一部を除き法的な拘束力がありません。

基本合意契約書の立ち位置は、あくまでM&Aを進めていく意思を示すためのものです。

後述するデューデリジェンスの結果次第は、取引内容が変化する可能性があることを覚えておきましょう。

5.デューデリジェンスを実施する

基本合意契約書を締結した後は、買い手企業によってデューデリジェンスが実施されます。

デューデリジェンスとは、買収リスクの規模や有無を把握することを目的として実施される、企業の内部監査のことです。

株式譲渡によって事業承継を行った場合、売り手企業が抱えている負債などは買い手企業へ引き継がれます。

事前に買収リスクとなる要素を買い手企業に伝えていた場合は問題ありませんが、簿外債務などを売り手企業側が把握できていないこともあるでしょう。

デューデリジェンスは、買い手企業が想定外のリスクを引き継がないために実施されます。

スムーズに完了させるためにも、売り手企業はデューデリジェンスの実施に可能な限り協力することが大切です。

【関連記事】デューデリジェンスとは?目的や種類、流れや費用などを解説

6.再度交渉し最終合意契約を締結する

デューデリジェンスの実施後、売り手企業と買い手企業で再度交渉を行います。

デューデリジェンスによって買収リスクが見つからなかった場合は、基本合意契約書の内容をもとに、最終条件の交渉を行います。

従業員の雇用体制など、現時点で決定していない部分があれば決めていきましょう。

デューデリジェンスによって買収リスクが発覚した場合は、内容に基づいて再度交渉を行います。

買収価格の調整や、後述するクロージングが完了するまでに解消するといった方法で対処していきましょう。

また、自社が多額の負債を抱えていた場合でも、他社にはない強みを有していれば売却できることもあります。

自社が売却できるのか不安があるかたは、専門家に一度相談してみましょう。

7.クロージング

最終合意契約が締結した後は、クロージングに移ります。

クロージングとは、株式の引き渡しによる経営権の譲渡や、対価の支払いなどを進めるための作業です。

前提となる条件を設けて、それらを達成していくように進めていきましょう。

また、最終合意契約の締結からクロージングを行うまでには、一定期間の時間を設けます。

クロージングを実施するまでの間に、従業員や取引先へM&Aを行うことを公表しましょう。

【関連記事】M&Aのクロージングとは 手続きや流れ、必要書類などを解説!

中小企業の事業承継に使用できる補助金

中小企業が事業承継を行う場合は、「事業承継・引き継ぎ補助金」という制度を利用することができます。

利用をするためには募集要項を満たしている必要がありますが、自社が基準を満たしている場合は一度利用を検討してみましょう。

また、事業承継・引き継ぎ補助金には、「経営革新事業」「専門家活用事業」「廃業・再チャレンジ事業」という3つのタイプがあります。

タイプによって補助のタイプが異なるので、それぞれの違いについて把握しておきましょう。

ここからは、事業承継・引き継ぎ補助金の種類について解説していきます。

【関連記事】事業承継・引き継ぎ補助金について解説!種類ごとの違い、申請の流れも紹介

1.経営革新事業

経営革新事業とは、事業承継やM&Aによって経営革新を図る経営者を、補助金によって支援するものです。

補助の対象には、事業を行うための人件費や設備費といった、処刑者が負担する費用などが該当します。

また、経営革新事業は「創業支援型(Ⅰ型)」「経営者交代型(Ⅱ型)」「M&A型(Ⅲ型)」の3つがあり、以下の要件を満たす必要があります。

【経営革新事業の申請要件】

創業支援型(Ⅰ型)1.事業承継対象期間内における法人(中小企業者)設立、又は個人事業主としての開業
2.創業にあたって、廃業を予定している者等から、株式譲渡、事業譲渡等により、有機的一体としての経営資源(設備、従業員、顧客等)の引き継ぎ
経営者交代型(Ⅱ型)1.親族内承継や従業員承継等の事業承継(事業再生を伴うものを含む)。
2.産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者等、経営等に関して一定の実績や知識等を有している者であること。
M&A型(Ⅲ型)1.事業再編・事業統合等のM&A
2.産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者等、経営等に関して一定の実績や知識等を有している者であること
出典:参照:令和3年度補正予算 事業承継・引継ぎ補助金経営革新事業【公募要領】

2.専門家活用事業

専門家活用事業とは、M&Aによって経営資源を第三者に引き継ぐ際、専門家にサポートを依頼する費用を補助するものです。

該当する専門家は、M&A仲介会社やファイナンシャルプランナー、税理士や弁護士などが挙げられます。

専門家活用事業の類型は「買い手支援型(Ⅰ型)」「売り手支援型(Ⅱ型)」の2つがあり、利用するためには以下の要件を満たす必要があります。

買い手支援型(Ⅰ型)1.事業再編・事業統合等に伴い経営資源を譲り受けた後に、シナジーを活かした経営革新等を行うことが見込まれること。
2.事業再編・事業統合等に伴い経営資源を譲り受けた後に、地域の雇用をはじめ、地域経済全体を牽引する事業を行うことが見込まれること。
売り手支援型(Ⅱ型)地域の雇用をはじめ、地域経済全体を牽引する事業等を行っており、事業再編・事業統合により、これらが第三者により継続されることが見込まれること。
出典:令和3年度補正予算 事業承継・引継ぎ補助金 専門家活用事業

3.廃業・再チャレンジ事業

廃業・再チャレンジ事業とは、廃業後に再チャレンジを図る企業を支援するための補助金です。

廃業・再チャレンジ事業は、経営革新事業や専門家活用事業と併用して申請する場合と、再チャレンジ単体で申請する場合の2つがあります。

さらに、併用して申請する際の方法は「経営革新事業との併用」「専門家活用事業との併用(買い手支援型)」「専門家活用事業との併用(売り手支援型)」3つにわけることが可能です。

また、再チャレンジ単体での申請は、M&Aによって事業を引き渡せなかったときに使用可能で、補助対象は以下の通りです。

経営革新事業との併用申請事業承継(事業再生を伴うものを含む)によって事業を譲り受けた中小企業者等が、新たな取り組みを実施するにあたって既存の事業あるいは譲り受けた事業の一部を廃業する場合。
専門家活用事業との併用申請
(買い手支援型)
M&Aによって事業を譲り受ける中小企業者等(他者の経営資源を引き継いで創業した者も対象)が、事業を譲り受けるにあたって既存の事業あるいは譲り受けた事業の一部を廃業する場合。
専門家活用事業との併用申請
(売り手支援型)
M&Aによって事業を譲り渡す中小企業者等が、M&A後も手元に残った事業を廃業する場合。
再チャレンジ申請M&Aによって事業を譲り渡せなかった中小企業者等の株主、または個人事業主が、地域の新たな需要の創造または雇用の創出にも資する新たなチャレンジをするために既存事業を廃業する場合。
出典:令和3年度補正予算 事業承継・引継ぎ補助金 廃業・再チャレンジ事業

まとめ

中小企業の事業承継方法は「親族への承継」「従業員への承継」「M&Aによる第三者への承継」の3つが挙げられます。

近年では後継者がいない中小企業が増えている影響から、第三者への事業承継を行う企業が増加しています。

周囲に事業を承継できる相手がいない場合は、M&Aによる事業承継を一度検討してみましょう。

また、近年では廃業する企業が増えていることから、国が補助金によって事業承継のサポートを行っています。

事業承継を考えている方は、補助金の募集要項を調べ利用を検討してみましょう。

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